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■「不登校を伴う発達障害児」の調査研究

分担研究者 : 尾崎 ミオ (編集ライター/NPO法人 東京都自閉症協会 理事)


〈研究協力者〉
三森 睦子 (NPO法人 星槎教育研究所)
松田 武己 (NPO法人 不登校情報センター)
鈴木 恵子 (TIGRE)


◎研究要旨

高機能自閉症やアスペルガー症候群などの発達障害児が不登校に至るケースは、残念ながら珍しいことではない。親の会に寄せられる相談から推測すると、スクールカウンセラー、教育相談室などが対応にあたっている不登校児の中には、カウンセリングで対応できる範囲を超えた、医療的ケアを必要とするケースが多く含まれていることが想像できる。しかし残念ながら現状では、教育行政関係者・学校関係者・保護者などの関係者にはその認識がまだ浅く、「不適応を起こしているだけ」「心の問題」などとされ必要な支援に至っていないケースも見受けられる。
 今回は、「NPO法人東京都自閉症協会 高機能自閉症・アスペルガー部会」、「不登校情報センター」および「星槎教育研究所」の協力を得て、4つの調査を行うとともに、啓発のための学習会、シンポジウムを開催した。調査により、不登校を伴う発達障害児の現況を明らかにするとともに、関係機関と協働して支援策を検討、連携の輪を拡げるネットワークの構築も目的としている。
 4つの調査のうち「不登校当事者(家族)への調査」「発達障害当事者(家族)への調査」の2つの調査には、あわせて57名から回答があり、そのうち「発達障害と診断されていて」「なおかつ不登校経験がある人」は23名(40%)と予想通りに高かった。また、長期の不登校やひきこもりに至っているケースが23人中13名(57%)と多く、自由記述欄には将来を悲観する深刻な声が多く寄せられた。
 しかし、希望がないわけではない。59校の有効回答を得た「支援機関に対する調査」では、57校(97%)の機関が「発達障害と診断を受けている子、もしくは発達障害が疑われる子が所属している」と答えており、そのうち56校(95%)が、「発達障害に配慮した指導を行っている」と回答している。この結果から、少なくとも都市部では、オルタナティブな教育を実践する民間教育機関が、不登校を伴う発達障害の子の受け皿となりつつあることが推測される。
 けれども、民間教育機関に通うには経済力が必要であり、家族の負担も大きい。また、「2次障害が重い」、「生活習慣が乱れている」などの理由で、いずれにも所属できない子どもが存在することも事実である。星槎教育研究所が行った調査の結果からも、不登校が後のひきこもりにつながりやすい実態が明らかであり、傷ついた子どもを支える家族の疲弊が心配される。発達障害児の不登校を、社会の課題と捉え、家族の支援も含めたソーシャルインクルージョンを実現することを切に望んでいる。



A.研究目的

発達障害に関係する人たちにとって「発達障害の子が不登校に至るリスクは高い」ことは、ほぼ認識されている。しかし、「不登校を訴える子どもの六%にアスペルガー障害と診断され、アスペルガー障害と診断される子の三割が不登校について何らかの支援を必要としていた、ということになる」(塩川,2007)、「不登校外来の中で、高機能広汎性発達障害の子どもの占める割合が今どんどん増えています。2007年はなんと67%でした」(杉山,2007)など調査結果にはバラつきがあり、実証するデータは少ない。
 一方、不登校に関する書籍や論文に、発達障害が取り上げられることは珍しく、いまだに時代錯誤的な不登校支援も横行している。教育現場や、一部の親たちの間に横行する、「精神鍛錬的な」不登校支援が、もしかしたら認知に偏りをもち生きづらさを抱えているASの子どもたちを、さらに苦しめてしまうかもしれない可能性を、何よりも憂慮する。
 発達障害と不登校の関係を明らかにし、発達障害児のニーズに応じた環境調整を行うことの重要性を訴求したい。また、教育と、医療・福祉機関との連携が、長期の不登校やひきこもりのセーフティーネットとして、効果があることを実証し、不登校児の支援ネットワーク「不登校情報センター」および、不登校児の教育相談を行う「星槎教育研究所」との協働により、関係機関のネットワークを推進することも目的とする。



B.研究方法

08年11月より、三森睦子先生(星槎教育研究所)、松田武己さん(不登校情報センター)、鈴木恵子(TIGRE)らとともに、下記の4つの調査を実施した。

1.不登校当事者(家族)に対するアンケート調査

まずは、一般的な「不登校当事者(家族)」に対して、「発達障害に関してどのくらい認識があるのか」についての調査を行った。成人の発達障害当事者の中には、長期の不登校からひきこもりに至り、のちに発達障害と診断されたという経歴をもつ人が少なくない。発達障害と診断されていない不登校経験者の中にも、発達障害を背景にもつ人が含まれることは想像に難くないが、適切なサポートを受けていないことが懸念される。彼らに支援の手を差し伸べるためには、発達障害に関する情報が、どのくらい浸透しているのかを知る必要があると考えた。
 不登校経験者9,713名の名簿をもつ不登校情報センターの協力により、08年12月〜2月にかけて都内を中心とした300家庭に、「不登校の時期」「不登校の理由」「通院の有無」「発達障害に対する知識」「診断の有無」などについて質問するアンケートを送付した。
 ただし、このアンケート調査を実施するにあたり、事前にいくつかの憂慮事項があった。前述したように、世間一般的には「不登校の背景にある(かもしれない)発達障害」は、まだまだ十分に認知されているとは言いがたい。発達障害に対する理解が浅い人は、いきなり「不登校と発達障害の関係について」のアンケートが送られてくることに、抵抗感をもつのではないかと懸念された。そもそも「自分とは関係ない」と思い、回答してくれる人自体が少ないのではないかと予想される。
 しかし検討の結果、「アンケートを送ること自体が、ひとつの啓発につながる」「データをとるよりも、リアルな声を拾い上げることが大事」と考え、調査を試みることにした。


2.発達障害当事者(家族)に対するアンケート調査

私が運営に関わる「NPO法人東京都自閉症協会 高機能自閉症・アスペルガー部会(以下AS部会)」では、「不登校」「ひきこもり」を主訴とする相談が多い印象があるが、これまで実証する調査を行っていなかった。今回は、AS部会と「アスペの会東京」会員に「不登校経験の有無」「不登校期間」「不登校の理由」などを問うアンケート80通を配布した。


3.不登校支援を行う支援機関に対するアンケート調査

残念ながら不登校になった場合、最悪「ひきこもり」に至らないために大切なのが「居場所の確保」である。今回は、不登校の支援を行う機関において、「どの程度、発達障害が認識されているのか」という点について調査を行いたいと考えた。
 不登校情報センターより、毎日新聞(教育取材班)が不登校支援機関について行った調査データを提供していただいた。調査対象は、東京都を中心にした、通信制高校、フリースクール、フリースペース、技能連携校、通信制サポート校など首都圏1都3県を中心とした、300校。59校の有効回答から、発達障害児が不登校に至った場合、「受け皿があるのか」、「そこでは適切なサポートが行われているのか」について分析した。


4.不登校児の発達検査に関するデータの分析

星槎教育研究所に委託し、「東京都若者社会参加応援ネット コンパス」におけるフリースペース利用者の「不登校経験の有無」、「発達障害の診断の有無」などを調べた。さらに、星槎国際高等学校立川学習センターの転・編入生について発達検査のデータ分析を行うとともに、「不登校経験の有無」、「発達障害児の割合」などの調査を行った。




C.研究結果

1.不登校当事者(家族)に対するアンケート調査

アンケートの有効回答は30であり、10%の回収率と、当初の予想以上に回収することができた。属性は男性18名、女性12名。年齢は20代からの回答が14名と最も多く、ついで10代が11名、30代が4名で、40代からが1名となっている。うち10名(33%)から「発達障害の診断を受けている」という回答があり、「発達障害の可能性を疑っている」という回答も1名あった。また、4名が「発達障害をよく知らない」と答えている。


「精神科・心療内科などに通院しているか?」という問に対しては、「通院は考えていない」という答えが16名(53%)ともっとも多かったが、そのうち2名は「発達障害を専門とする医療機関や相談機関への相談」を希望していた。自由記述欄には、「本人が通院を希望していないが、相談する場所がほしい」という保護者からの切実な声が寄せられていた。ほかには「発達障害に関係なく通院中」という回答が8名(27%)、「発達障害に関する医療機関に通院している」という人が4名(13%)、また、「通院を迷っている」という回答も2名(7%)あった。

発達障害と診断されている人は、20代で4名で、10代が5名、40代が1名と、年齢も不登校期間もバラつきが大きいが、不登校になった後に診断された人や、ごく最近になって診断されたという成人が6名と目立つ。そのうち作業所に通所している1名以外の5名は、「現況」についての問いに、「家事手伝い」「その他(自宅で生活)」を選択しており、自宅のほかに所属場所がないことがわかる。
 自由記述には「どうしようと頭をかかえ、私の心も破裂しそうです。助けてほしいと毎日祈っていたところです」、「中年の発達障害にどう対応したらよいのでしょう。遅すぎたのでしょうか」、「引きこもり等の親の会にも出て見ましたが、波長が合うのではないかいう場は見つかりません。途方にくれ色々な本を読みますが、かえって私の心が不安定になるような気がします」といった深刻な声が寄せられた。いずれも発達障害の子どもを抱える家庭からの回答であり、不登校経験のある発達障害児・者を抱える家庭が孤立しやすく、閉塞感をもっていることがうかがえる。


2.発達障害当事者(家族)に対するアンケート調査

男性22名、女性22名の計27名から回答があり、そのうち14名(52%)が「不登校の経験がある」と答えており、約半数が不登校を経験していることがわかった。


不登校経験者のうち女性は1名のみで、13名が男性であった。現在の年齢は10代が4名、20代が7名、30代が2名、40代が1名となっており、「不登校経験はどのくらい続きましたか?」という問いに対して、「1年以上〜3年未満」、「現在も続いている」と回答した人がそれぞれ4名と、「3年以上」が2名と、長期の在宅に至っている傾向が見られた。


また、「学校や教育委員会の対応に満足しているか?」という問いに対しては、10名が「満足していない」「不満である」を回答しており、残りの3名が「どちらともいえない」を選択している。
 「不登校になった原因」(複数回答可)については、「いじめ」をあげた人が9名ともっとも多かった。「1」の「不登校当事者(家族)に対するアンケート調査」でも、発達障害と診断を受けている人の半数が「いじめ」を不登校の原因にあげていたことから考察しても、残念ながら発達障害児が学校でいじめを受ける可能性が高く、不登校のキッカケになりやすいことがわかる。そのほかの理由としては、「生活習慣の乱れ」「体調不良」「不安・心配ごと」などをあげる人が目立つが、ほとんどの人が「いじめ」や「友人関係」を同時に選択していることから、人間関係の悩みが生活習慣の乱れや体調不良につながり、不登校に至る可能性が高いことが推測できる。


3.不登校支援機関に対するアンケート調査

67箇所から回答があり、そのうち有効回答数は59箇所。規模は10名以下の私塾やフリースペースから、200名以上が所属する大規模校までバラつきがある。しかし、「発達障害と診断されている子が在籍している」、「発達障害が疑われる子が在籍している」機関がそれぞれ8箇所(14%)、「疑われる子と診断されている子、両方が在籍している」機関が41箇所(69%)と、あわせて(97%)57箇所の機関が「発達障害と診断を受けている子、もしくは発達障害が疑われる子が所属している」と答えていることに注目したい。もっともアンケートを送付した300箇所のうち、このアンケートに回答した59箇所は、とくに発達障害に関心をもっている機関であるとも考えられる。その証拠に、56箇所(95%)の機関が「発達障害の子に対して、特別な対応を行っている」と答えている。


この結果により、フリースクールなどの民間教育機関が、発達障害の受け皿になっている現状がわかる。自由記述にも、「学校現場で異質を排除する方向にシフトしたことで、民間のフリースクール・フリースペースに発達障害の子が集まってきている」という回答が目立った。しかし、「学校や教育機関から紹介され、フリースペースで受け入れるケースが多いにもかかわらず、そこには予算がついていない」、「サポート校には助成金もなく、その負担が家庭へと向かうので、充実した教育を目指す事が困難」などという記述から、多くの関係者が運営に苦慮しており、今の教育行政に不満をもっていることが垣間見られる。
 また、「現在、最も大きな問題は、入学前にほとんど支援なく、本校に入学してくる生徒である。状況にもよるが「手遅れ」とも言える生徒も存在する」、「本人と出会った時にはフラッシュバックをくり返し、先生に怒られた時の様子を毎日語っていました。二次障害を起こしており、とても手をつけることができず医療機関へお願いしました。とても残念なケースで今でも思い出してはつらくなることがあります」というような記述から、“受け皿ならでは”の葛藤が伝わってくる。
 公教育でできることの限界を知るとともに、こうした民間教育機関へのサポート体制を検討していくことが、今後、発達障害の子の教育を充実させていくための、重要なポイントだろう。


4.不登校児の発達検査に関するデータの分析

星槎教育研究所に委託し、「星槎国際高等学校立川学習センター」および「東京都若者社会参加応援ネット コンパス」 フリースペース参加者の調査を行った。
 04年の星槎国際高等学校立川学習センター(生徒数合計149名)における転編入生(前籍校不適応)は、59名(39.9%)である。また転編入生のうち不登校経験がある子どもは34名(85%)と高い割合を示している。


また、不登校経験者の発達検査(WISCV)の結果から、24名(71%)に発達の偏りがみられ、そのうち16名がIQ85以上のAD/HD、アスペルガー症候群、LDなど発達障害と思われる子どもたちであった。そして、そのうち70%は発達に偏りがあることが認知されていなかった。
 このため、「イジメ・からかい・無理解・実らない努力」などから、本人たちは著しく傷ついており、「どうせ無理」「わかってもらえない」「やってもできないからやらない」などと考えがちで、自信がなく、自己肯定感が低い。また、なんでも「悪いほうにとる」「被害妄想的」などマイナス思考が強く、感情の表現が苦手なことから、「ガマンしがち」だったり、あげく「キレやすい」といった状態になりやすい傾向が見られた。こうした2次障害を防ぐためにも、認知の偏りがある子どもたちの存在を広く啓発し、周囲の理解とサポートを促す必要性を強く感じる。


次にコンパスにおける調査について。「東京都若者社会参加応援ネット コンパス」とは、ひきこもり等の若者の社会参加を応援するため、東京都がNPO法人等との協働により、支援を行うネットワークである。星槎教育研究所では、07年度より東京都より受託し、「訪問相談」「フリースペース」「社会体験活動」の3つを実施している。
 今回はフリースペース利用者について、「不登校経験」「発達障害の診断の有無」などを調査した。コンパスの利用者は15歳から35歳まで120名で、うち20代が62名と半数を占めている。男性84名(70%)、女性36名(30%)と圧倒的に男性の利用が多い。そのうち、89名(74%)に不登校経験があり、77名(64%)にひきこもり経験があった。不登校になった時期もバラバラで、ひきこもり期間も1年未満が8名、1年〜4年が29名、5年〜9年が19名、10年以上が21名とまちまちだが、昼夜逆転が20名(17%)、家庭内暴力が17名(14%)など深刻な状況に至っているケースもみられる。

また、医療機関に相談に行っている人は、71名(58%)で、そのうち障害(精神障害・発達障害)の診断がある人は55名(46%)、発達障害と精神障害の両方とも診断されている人が8名(17%)だった。青年期の状態像(対人面)としては、@友だちができにくい A自分の好きな話が多く、話題が広がらない B対人への過大・過小 C相手の表情・感情が読み取りにくい D自分のやり方にこだわる E口の利き方に比して幼い Fパニックになりやすい などの特徴が見られた。




D.考察

1.浮かび上がった課題 @ −発達障害をどう捉えるのか?−

不登校支援を行うフリースクールなどの機関には、発達障害の子が多く所属することを実証し、教育と、医療・福祉機関との連携(医療&福祉の介入)が、長期の不登校やひきこもりのセーフティーネットとして効果があることを啓発していくのが、この調査研究の当初の目的であった。しかし、取材やヒヤリングを続けるうちに、現実は私が考えていたほど、シンプルなものではないことに気づいた。最初にぶちあたった壁が、「発達障害」という概念(カテゴリー)をどう捉えるのか…という根本的な課題である。
 先に行った民間教育機関の調査では、自由記述欄に「不登校、いじめ、暴力、そして発達障害と、次々テーマを変えて語られる学校現場の問題について、これまでどの対策も失敗していることに目を向けて欲しい」、「べつに子どもは変わっていないと思う。社会が変化し、暮らしが変化した。発達障害というくくり方はあいまいで、多くの人に当てはまるような錯覚が広がっている」という回答があった。これらの意見は、「教育の現場に“発達障害”という概念が入ってきたことの功罪を指摘している。そして、発達障害の啓発を促す立場にある私としても、このアンチテーゼは無視できない。
 実際に、発達障害の概念は誤解されやすく、たとえば「アスペルガー症候群」=「社会性やコミュニケーションに欠陥がある」=「不適応を起こしやすい」と短絡的に解釈されてしまう弊害は大きい。ICF(国際生活機能分類)に基づいて解釈すれば、発達障害とは認知構造の特性であり、配慮の乏しい環境では「社会性の障害」や「社会的コミュニケーションの質的な障害」「社会的イマジネーションの障害」があらわれやすい……と理解できる。しかし、そのような理解をもつ人は、今ではまだ少数派であり、この“障害観の壁”が、課題を複雑にしているというのが現状だ。
 しかし、なにも方策がないわけではない。回答の中には、「いわゆる"発達障害”があるといわれる子どもの理解は、教育の原点、子育ての原点である“子どもをしっかり見て、感じること” “子どものことは子どもに聞く”を再認識させてくれる」、「発達障害とラベリングされた子どもたちのなかに問題をみるのではなく、関わり手のまなざしのもち方で、子どもがのびのび育っていくことを実感している」という記述があった。障害あるなしに関わらずニーズに合わせた教育支援という視点をもつ、関係者は少なくない。
 “障害”という先入観に捉われるリスクはあるが、子どもの特性を知るひとつのヒントとして発達障害という概念は有効なのではないか。また、「障害者」「健常者」と分断するのではなく、虹の帯のように境目は曖昧でつながっていることを表す、“自閉症スペクトラム”という考え方が広がることで、既存の障害観が変化していくことを、強く望んでいる。


2.浮かび上がった課題 A −家族支援を含めたソーシャルインクルージョン−

アンケートや取材、ヒヤリングを実施して、考えさせられたもうひとつの課題が「家族支援」である。家族や学校が協力して環境を調整することにより、短期で不登校が解消される例も少なくはない。また、公教育に適応できなかった子の受け皿として、少なくとも都市部には多くの民間教育機関が存在する。しかし残念ながら、長期の不登校から引きこもりに至ってしまった場合、ひとつの大きな特徴があらわれる。誤解を恐れずに問題提起を行えば、「家族の疲弊」という点に集約されるだろう。
 たとえば、私が取材を行った中に、「小学校5年生のとき、いじめから不登校になった」という(ことになっている)、現在、中学校3年生の女子のケースがあった。彼女を担当したカウンセラーによると、彼女は成績優秀で真面目な優等生タイプだが、少し風変わりなところがあり、常に学校では浮いた存在だったのだそうだ。カウンセラーは彼女がアスペルガーではないかと疑っていたが、母親は聞く耳をもたず、学校の対応を責め続けているという、よくある話だ。カウンセラーは、彼女がアスペルガーの特徴をもっているにも関わらず、まったくサポートを受けていないことも危惧していたが、むしろ彼女の母親の精神状態を心配していた。母親は上昇志向が強く生真面目かつ頑固なタイプで、周囲の意見を柔軟にとりいれる姿勢に欠けている。学校やほかの保護者と対立関係にあるだけでなく、夫婦仲も決して良いとは言えず、完全に孤立していた。優秀だった女子だけがこの母親の心の支えであり、女子は何より「母親の期待に応えられない自分」に苦悩していた。女子がアスペルガー症候群であるかどうかはともかく、母親の期待に応える優等生を演じ続けたあげく、バーンアウトしてしまった可能性は高い。
 だからと言って、これまで散々と言い尽くされてきた「過保護」「過干渉」「母子密着」「愛着障害」など、単純に母子関係の問題を言及したいわけではない。もっとも注目すべき問題は「家族の機能が疲弊している」という点である。家族観の変化、多様な価値観、多様な選択肢の中で、ただでさえも母親は悩んでいる。苦しい子育てが、ダイレクトに子どもに影響することは否定できないが、具体的に言えば、母親を支える父親、父親以外の親戚……、それが機能してこその家族だ。母親を支える必要があるイザというときに、この家族システムが機能しなければ、あらゆる負担が母子関係に集約されることになり、大きなストレスがかかる。そのほかにも、親自身の家族関係、夫婦の価値観の違い、DV、母子家庭、貧困、親の精神疾患(鬱など)、親が発達障害、共依存……などなど、家族を疲弊させるさまざまな要因が、不登校の背景にあることは決して少なくない。傷ついた子どもを支えるためには、まず家族をサポートする視点も重要である。

 学校に不適応を起こし不登校に至った子に対して、「発達障害があるかもしれない」と考え、丁寧にアセスメントを行うことも必要だと思うが、不登校になった原因を発達障害だけに限定してしまうと、背景にある別の課題を見逃してしまうリスクも考えられる。
 たとえば、不登校は、「社会⇔教育⇔家族⇔子ども」という、その関係性のひずみから、生まれる現象なのではないかという見方もできる。その、ひずみが子どもに大きなストレスをかけた結果、子どもが「SOS」を出している状態なのではないか。特に脆弱さをもつ発達障害の子は、そのストレスを感知しやすいのはないか。あえて、ここで問題提起を行うとともに、今後も不登校と発達障害の関係を考察していきたいと考えている。




〈参考文献〉
「不登校と軽度発達障害−−アスペルガー障害を中心に」 塩川宏郷 2007年『現代のエスプリ474号』、『リーディングス日本の教育と社会 第8巻 いじめ・不登校』 編著:伊藤茂樹 (日本図書センター)

〈協力団体〉
NPO法人 東京都自閉症協会 高機能自閉症・アスペルガー部会、 アスペの会東京、 不登校情報センター、 星槎教育研究所




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