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引きこもりの人が望む将来生活の姿

20015月から20039月にかけて、不登校情報センターに通ってくる引きこもり経験者を中心に、別項のアンケートを実施しました。

 ※実施したアンケートの内容

 回答者は男性41名、女性30名、合計71名です。
  回答は次の4つ「0=全く望まない。1=どちらかといえば望まない。2=どちらかといえば望んでいる。3=とても望んでいる」から選択します。

 設定した項目を見ると、いくつかの不十分さを感じます。しかし、調査目的においていまこれに代わるだけのものは浮かびません。調査者の限界を示しているのでしょう。
 今回はその集計を次の4グループに分けて読みとっていきます。

 (T)自由業型芸術家、自営業、SOHO。
  (U)アルバイト、就職、農林畜産業。
  (V)その他の一群(学生、ボランティア、宗教家、家事手伝い。)
  (W)生活保護、引きこもり、病人。

このグループ分けの順は、私の意図的な(あるいは実用的な)関心を表しています。

*「まえがき」に必要な、調査の対象となった母集団に関することは最後にまとめて書いておきます。情報センターに通所している人が回答者の中心なので“ある程度エネルギーのある”引きこもり経験者が母集団といえるでしょう。


→  ※〔表1〕 年齢別の内訳
→  ※〔表2〕 男女別の内訳


Wグループの回答  

[生活保護]
 回答「3」(とても望んでいる)、「2」(どちらかといえば望んでいる)は合計して約20%です。通所者にはすでに数人が生活保護を受けています。“ある程度エネルギーがある”母集団におけるこの割合の回答「0」(全く望まない)が50%近いとしても、「3」「2」の合計20%はやはり高いものです。年齢が上がるにつれて回答「3」「2」がいくぶん増える傾向にあると読むことができます。
 社会における引きこもり全体の様子を推測すると、将来的にはより大きな問題とならざるをえないでしょう。

[引きこもり]
 引きこもりを続ける(「舞い戻る」を含めて)点での回答では、男女差はあまりなく、半数近くが回答「0」(全く望まない)を選んでいます。その一方で回答「3」(とても望んでいる)は5〜6%と少なく、それでいながら社会に入っていくことの困難さを感じているように思います。
 年齢が上がるに従い「引きこもりを続けていくしかない」と感じる人が増えているとはいえません。

[病人]
  病人もこのグループに分けられる他の項目と同じ状況を感じます。回答「0」(全く望まない)は男性で70%以上、女性でも60%程度ですが、回答「3」(とても望んでいる)、「2」(どちらかといえば望んでいる)も10%未満ですがいます。ただ年齢が上がるにつれて回答「3」「2」が増える傾向にあると読み取れるように思います。

Vグループの回答

 雑多な要素が含まれる、いわば「その他」に当たるのがVグループです。WグループとU(およびT)グループの質問項目の中間にある内容を示しています。

[非拘束型の学生]
 この項目設定は、年齢が20代後半以上の人には必要ではない、と思えるものです。ところが以外にも女性では半分以上の回答が「3」と「2」、男性でも回答「3」「2」の合計が25%程度います。年齢が31歳以上でも半数近くが回答「3」(とても望んでいる)、「2」(どちらかといえば望んでいる)であるのは世にいうカルチャースクール的なものと“職業訓練”的な内容が含まれているからだと思います。

[宗教家]
 この項目をあえて設けることはなかったようです。彼(女)らの“高い思索傾向”あるいは純粋性に何か意味があると感じて入れたものです。回答「3」(とても望んでいる)「2」(どちらかといえば望んでいる)で合計3名、うち「3」回答1名も職業としての宗教者というより「スピリチュアル」な活動に意義を認める趣旨です。

[ボランティア]
 男女とも半数近くが回答「3」「2」でしたこれは前向きの見方としては、ボランティアから始める社会参加への願望ですし、後向きの見方としては、就職ではなくボランティアにとどまる社会参加の意思表示にも読みとれます。たぶん回答者自身がまだ気持ちが安定していないのではないかと思います。しかし、引きこもり状態の人においては、社会参加に目を向けた姿と読めるものです。

[家事手伝いと主婦(主夫)]
 女性においては4割が回答「3」(とても望んでいる)「2」(どちらかといえば望んでいる)、男性においても(!)1割が回答「3」「2」。とくに男性にも回答「3」がいるのは、社会的な流れの一部とはいえ目立ちます。回答に男女差が比較的大きな項目です。31歳以上の女性では回答「3」が22%というのは社会的平均としてはどうでしょうか。 


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→  ※〔表1〕 年齢別の内訳
→  ※〔表2〕 男女別の内訳


Uグループの回答

[就職する]
 男性の70%。女性の65%が回答「3」「2」を示し、回答「0」(全く望まない)は男性で10%未満、女性でも10%余りです。“ある程度エネルギーのある”引きこもり経験者は、潜在的に就労する気持ちがあることを示しています。
 年齢別にみると、2630歳において回答「3」(とても望んでいる)「2」(どちらかといえば望んでいる)がともに高く、31歳以上になると回答「3」「2」はむしろ低くなります。20代後半以上になった人たちに感じる「30歳までには何とか・・・」という雰囲気がこの調査では裏付けられた気がします。逆にまた30歳を超えたときには「就職する」とは別の方式が重要になるとも考えられるのです。

[アルバイト・フリーター]
 この項目は、「就職する」項目と似た回答傾向で、それをややゆるやかに(より弱い姿で)表しています。20代前半では回答「3」「2」がとくに強く、それは「アルバイトから社会参加へ」と考える人が多いのを反映しているように思います。

[農林畜産業]
 この項目を独自に設けたのは、自然指向の人が多いと思ったからです。今回のアンケートの内側では、それを確認できませんが、若者全体の動向の対比では高いのかもしれません。年齢別では20代後半以上ではかなり高い割合になることが確認できます。

Tグループの回答

 私が今回のアンケートのなかで一番注目したグループです。

[自由業型芸術家]
 回答「3」(とても望んでいる)、「2」(どちらかといえば望んでいる)の合計は、男性で30%弱、女性で半分をしめます。具体的な回答例には、小説家、絵画、自費出版、作品づくり、音楽、ファッション、美術館勤務、自己表現活動、イラスト・マンガ家、イラストレーター、映画、ホームページデザイナー、パントマイム、文章を書く人・・・が並びます。
 また、楽器デザインを「SOHO」として回答している人がいます。自由業型芸術家に入るでしょう。
  年齢別では、回答「3」(とても望んでいる)、「2」(どちらかといえば望んでいる)の合計で31歳以上が40%弱、2630歳で30%程度です。20代後半は、たぶん「就職する」気持ちが強いことの反面だと感じます。これらの%はかなり高いものです。
 順序を考えると、就職アルバイトがうまくいかず、30代に入って自由業型芸術家の傾向が強まってくるのかもしれません。男女別では、回答「3」(とても望んでいる)、「2」(どちらかといえば望んでいる)が女性で半数、男性で3割強ですから、女性の方がより強い傾向を示しています。一般にこれらの職業は、安定性では就職よりも弱く、女性が希望しているわけで、それがこのアンケートの範囲でも表れているのです。

[SOHO] および [自営業]
 自由業型芸術家の、より職人的なものがSOHOになるのでしょうか。SOHOとして考えている具体的回答には、パソコン内職、Webデザイン、文書作成、パソコンの教育、語学教室、私塾、書道の先生、ピアノの先生、保育ルームなどが挙げられています。一部は[自営業]に、別の一部は[自由業型芸術家]に分類してもいいようです。そういう区分けの不明確さはここでは問えません。
 SOHOの回答「3」(とても望んでいる)、「2」(どちらかといえば望んでいる)の割合は、男女とも半数をしめます。自営業は男性の40%、女性の20%が回答「3」「2」です。SOHO指向が自営業指向よりも高いのです。その理由には、自力で開業するとしたらSOHOがより容易と考えられ、いま現在が家業として「自営でないので」自営はできない主旨の意見がいくつか見られます。
 年齢別にSOHO指向を見ると、31歳以上では回答「3」(とても望んでいる)、「2」(どちらかといえば望んでいる)が60%、21252630歳でそれぞれ50%で、かなり高い%をしめています。自営業を年齢別に見ると、26歳以上で回答「3」「2」が40%近くをしめています。これも高い方です。
 「就職する」人でない人はSOHO(または自由業型芸術家)であると述べたのですが、実は一部の人は重複し、「就職かSOHO(または自由業型芸術家)か」や「自由業型芸術家をめざしながら就職する」タイプもかなりいるようにも考えています。
 自由業型芸術家指向の回答者(「3」(とても望んでいる)、「2」(どちらかといえば望んでいる)の年齢別をみると、31歳以上で半分強、2630歳で20%、2125歳で40%程度です。年代順を考えると、20代後半までは自由業型芸術家をめざし、それでは大変さを感じ始めて就職に転換する。しかしやはり自由業型芸術家に回帰する――同一人物の調査ではありませんがこのような仮説をつくって経過を迫ってみたくなります。


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→  ※〔表1〕 年齢別の内訳
→  ※〔表2〕 男女別の内訳


自由業型芸術家

引きこもりになる人に多く共通する特色を、私は神経の繊細なことであると考えます。とくに感性に優れた人が多いことは見逃せません。一方、時間に関し独特の状況を示します。時間に制約があることに弱く、その制約が外れると強い(じっくり丁寧に完成させる)――もちろん個人差の大きいことは前提ですが、ある程度はこのようにいえるのです。
 引きこもり経験者のある割合の人が創作活動に長じている背景には、これらが関係しています。今回のアンケートでも、その点がいくぶん裏づけられたように思います。
 これらをより直接的に示すデータは今回のアンケートにはありません。さし当たりえられたデータの範囲で、そこを見たいと思います。
 自由業型芸術家を回答「3」(とても望んでいる)と「2」(どちらかといえば望んでいる)とした人、およびSOHO指向(回答「3」「2」の人)の人で、ほかの項目への回答を調べてみました。
 自由業型芸術家を志望する人は、SOHO指向者よりも強い指向を示していることが確認できます。この発表では自由業型芸術家だけを表します。


→  ※〔表3〕 自由業型芸術家の別の面


自由業型芸術家志望の人には、同時にSOHO指向者が多いことが分かります。ただ女性で回答「3」「2」の人では、SOHO指向者は半分(この中では、一番低い)であり、個人開業(それは自営とも矛盾しない)でもよいと読みとれます。
 自由業型芸術家志望者の「アルバイト」「就職する」に関する姿勢はかなり共通していて、アンケートの範囲でいえることは、仕事につく意欲は高いように思えます。ただその仕事につくときの基本的な形が、SOHOや個人開業や、その他のことが示されているわけではありません。
 従って、このアンケートの範囲を超える今後を考えることが求められます。私は次の条件(準備)が必要とされると思います。
 @自由業芸術家というよりは、それ以前の創作活動のレベルを高めるために、系統的に養成できること、例えば教室やサークルが求められ、それへの対応が必要です。
 A創作品の展示や発表する機会や方法、場づくり、販売の方法、広告・宣伝、および総務的な部分を支える体制が必要になります。場・方法には、たとえばネット放送局やミニFM放送なども考えられるでしょう。これは集合的なSOHOといえるのかもしれません。


【ノート】

今回のアンケート調査の条件を記しておきます。
 @回答者数は71名で、男性41名、女性30名。数はまだ少ないのですが、事態をとらえる最小限のデータは集まったと思います。
 A同一人間で同じアンケートに2回答えた人が数人います。集計においてはより最近の回答だけを採用しました。
 B回答者のほとんどが不登校情報センターに通所している引きこもり経験者です。“ある程度エネルギーがある”と考えられるのは、通所しているという事実があるからです。従って「引きこもり状態の平均的状況よりも行動しているタイプの母集団」であると判断して読みとる必要があります。
 Cアンケートへの回答は、几帳面で誠実であり、本音が示されたものです。信頼度はとても高いものと考えています。
 D男女構成
  通所者実数の男女比は、119です。アンケート回答の男女比4330で、通所者の比率以上に男性の回答割合が高くなっています。通所回数は男性が多く、アンケートを求める機会に男性がより遭遇したことの反映です。
 E年齢構成
  通所者実数の年齢構成は、アンケート回答者の構成とほぼ似ています。







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