30歳を超えてからはじめてパートとして働き始めたZくんが来ました。 「仕事をやめたい」と思いつつ迷っています。Zくんのタイプはいい加減なことを言いません。「仕事をやめたい」というのは深い理由があります。 しかし、もしここで辞めてしまったら以前のひきこもり生活に戻ると推測できます。Zくん自身もそう感じています。その一方で「続けられないのではないか…」。そう思って話しに来たのです。
家族は3人です。60代の母、40前の姉とZくん。父がいない生活になって10年近くが過ぎます。お姉さんはZくんが働き始めるのと入れ替わるように“半ひきこもり”状態です。高校を出た後の10年ぐらいは働いていましたが、その後は働いていません。クイズやアンケートに答えるなどしていくらかの収入があり、それで自身の携帯費用をまかなってきました。ときどき不足するようです。
いろいろを想定して、「一度お姉さんと話せるようにしたい…」と提案してみました。Zくんは「厳しい」といいます。彼の判断は本当でしょう。Zくんを通して、お母さんやお姉さんに働きかけるのはうまくないと判断しました。 Zくんができることは何かがスタートです。彼は「仕事をやめたい」といっています。仕事のなかに楽しいとか、やりがいとかを感じないのです。ただこれを突き詰めるのはいい方向につながらないと思えます。 「仕事をやめたい」という感覚を撤回させるのではありません。その感覚を受けとめたうえで何ができるかを考えました。
Zくんに言いました。お姉さんには「自分に気を遣い過ぎているので、苦しくなる。あまり気にしないで生活をしてほしい」という趣旨のことを話してみないか。お姉さんへの要望ですが、批難ではなくZくんの気持ちの問題として話してほしいと。 お母さんには「仕事をやめたい」と迷っているのを打ち明けてはどうかと言いました。 お姉さんにもお母さんにも、Zくんの気持ちに沿って話すのです。自分の感じている、自分の気持ちに沿う話です。
Zくん家族には本音で話す機会がないのではないか。互いに遠慮して、重要なことに近づかない、そういう家庭内の雰囲気を感じたのです。平穏な家族関係は続ききますが、生き生きとした生活に向かわない。「仕事をやめたい」の根はそこに関係するのでは…。劇的な解決策ではないが、根本に向かうのではないか。