会報『ひきこもり居場所だより』(6月号)
● 文学フリマ・東京40の報告
「文学フリマ・東京40」にブース参加し、1つの方向を見出した気がします。40代、50代、それ以上になってひきこもり状態である人がどうするのか? 周りの家族に何ができるのか(またはしてはならないのか)を考えると……。ある親側の人からは、「今は静かだけれども、先を考えると怖くなる」という主旨の手紙がありました。そういうのに決定的で全般的な対応策はわかりません。それでも1つの分野がこれではないか、と思い至ったのです。
「文学フリマ・東京40」の広い会場(しかも二面)に並ぶブースは約3000もあります。そこに机1つ(長さ1.8m)に手作り本を並べ「不登校情報センター」の小さな店名を書いて座ります。多くの人が通りすぎます。しかし、開始30分もすると「あ~、これは売れないな」と悟ります。
ブースの前を過ぎる人に呼びかけることにしました。初めにどう呼びかけたのかは忘れましたが、声をかけたら立ち止まる人が出てきました。机に並べた本をさして「これはひきこもっていた人が自室で続けていたイラストや日記を1冊にまとめたものです」というあたりです。
数秒でブース前を通りすぎる人に「家族・知り合いにひきこもりの人はいませんか」と言い、「その人には日記やマンガを描き、体験記やエッセイや読書感想を書いている人がいるんです。それを作品集にしたのが、この手作り本です」という話し方の方向になると(場内を一巡りにして様子がわかったという別の事情も加わって)机の前に止まって、「見てもいいですか」と手作り本を手にし始めました。
中学校の教師という男性が「不登校の生徒への対応を考えているのですが」といくつかをパラパラと見ています。
障害者施設の職員が、「自分の所でも何かできるかもしれない」と、手にとってくれました。
「身近にひきこもっている人はいませんか?」に、「ぼくがそうです」という20代ぐらいの人が答えて、立ち止まりました。
子ども3人がぜんぶ不登校であったという50代ぐらいのお母さんが、「私もこういうのをやってきました」といいます。作品集にはなっていませんが、書くこと描くことをすすめていたらしいです。
娘が中学校に入ってから不登校になりそれから8年。「今18歳でひきこもりです」というお父さんもいました。
カウンセラーか医療関係で働く人もきて、解離性障害を書いたと思える1冊をめぐって話になりました。
何もいうことなく、いくつかの本を次つぎに手にする。こういう人が何となく多かった気がするのです。
●『出展作品の総目録』と実販売数
『出展作品の総目録』というA5版8ページのリーフレットを前日400部用意しました。受けとってくれる人に次つぎに渡しました(今回の会報にこの『出展作品の総目録』を同封した人もいます)。会場での配布は300部になったと思います。
不登校情報センターの連絡先を聞かれたので「そこ(6ページ目)に書いてあります」とこのリーフレットを渡しました。こういう人が3、4人はいました。名刺を受け取った人もいましたが、後でもっと多くの人から名刺をもらっておけばよかった、と思い返したところです。
展示会の終わり近くになると「ひきこもっていても、日記を書いている、マンガやイラストを描いている、投稿やエッセイを書いている、詩や格言をつくっている…そういうのを1冊の作品集にするのです。そうするとひきこもりの間が空白の期間ではない、何かをしていた期間であることがわかるんです。自分でもわかるし、周囲の家族に説明しなくても伝わります」——このように話すようになりました。どうでしょうか。
結局、販売したのは30冊です。二条淳也『中年ひきこもり』8冊、高村ぴの『アルバイト体験記/対人恐怖との葛藤』7冊、小林剛『ひきこもり模索日記』6冊が上位3点です。速報として29冊と伝えましたが、応援の三木康平さんが持ってきた『いじめの真犯人は私です』も1冊売れており正式には30冊です。12000円という販売総額はこれで合います。
おそらく作品集になるほどに書くのは、本人の気持ちのうちに何かが高まっている、高まってくるものがあるからでしょう。売れ行き上位の3冊は特にそういう感じを受けました。日ごろしている日記やイラストを1冊の作品集にするというのは、その気持ちを引き出すのではないか。そうであるならば、ひきこもっている人に、「今やっていることを作品集にしよう」と勧めることは、話の糸口になる対応策と考えたのです。
展示・販売会の販売30冊には全然満足していません。しかし慣れない場に出て来て、動き、話をするうちにこういう1つの対応策を思いついたのは想定外のことでした。