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ひきこもりと過敏性腸症候群のつながり

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ひきこもりと過敏性腸症候群のつながり

時事通信出版局から『ひきこもり国語辞典』を出版できたとき、髭男爵山田ルイ53世さんが推薦文を書いてくれました。
山田さんは中学時代にひきこもり(不登校)になり、そのきっかけが「うんこをもらした」という事件でした。
私の周りにいるひきこもり経験者にもこれに関係する話がいくつかあります。
Yくんは、電車に乗るとき、各駅停車に乗り、よく利用する沿線各駅のトイレの位置をよく把握しています。
便意を感じたら、なるべく早くトイレに行く必要があり、また駅の間隔が長い快速などには乗らないわけです。
Nくんは一度電車内で失敗があったらしく、それ以降電車に乗れなくなっています。
自転車で移動できる範囲が行動範囲になり、ひきこもりか準ひきこもりの生活状態になりました。
Bくんは、居住地に近い都内の地下鉄、JRを含む、かなり多数の駅のトイレと改札口の位置関係を示す一覧表(冊子型)を作成しました。
これを障害者用に作ったそうです。

いまでは、この症状は過敏性腸症候群(IBS,irritable bowel syndrome)と知られる診断名がついています。
ストレスが強まる社会になってひきこもりの人に限らずかなり広い人に表われ、日本人は10%以上はいると推測されています。
私は女性からは直接にこの種の話はきいた記憶はないのですが、もしかしたら男性よりも女性に多いかもしれません。
ここに紹介した人の話はいずれも電車に乗るときの注意事項になります。
IBSは移動の制約になり、たぶん同じ状態で移動できない学業や仕事に就くのを妨げているように思います。
それが社会との接点を断ち切る、ひきこもりとつづくわけです(ずいぶん粗雑な説明で恐縮です)。

さて、私はこれを身体科学の面から調べてみようと考えました。
というよりすでに2種類の本を読んだことがあります。
1つは腸を研究されているユニークな医師、藤田絋一郎さんです。
腸は脳よりもエライと称して、動物発生学の視点から説明しました。
消化器系が先にでき脳神経系は後につくられた。
消化器系でできた機能を加工しながら脳神経系に生かしたのです。
だから脳よりも腸が先に反応するのです。
もう1つは福土審『内臓感覚』(NHK BOOKS、2007)は、腸の働きと便通に重きをおいて説明されています。
結論は藤田さんに近い、この部分に関してはより詳しく説明しました。
手元にあるのは福土審さんのこの一冊です。
もう7~8年前に一度読んだはずですが、読み直し考える材料にしました。

ひきこもり当事者の集まる100人規模の居場所に参加した人の話です。
そこにいくつかのコーナーが設けられており「胃腸に問題がある」旨のコーナー表示があったといいます。
腸症候群の話を知る私には十分に納得のいくコーナー設定です。
詳しいメカニズムはここでは省略しますが、『内臓感覚』は実に優れた本でいろんな事情を詳しく説明しています。
ごく要点を紹介します。
過敏性腸症候群(IBS)は長く研究対象の中心ではありませんでした。
理由の1つは検査が難しく、メカニズムをとらえきれず、しかも症状の重大性や特徴に気づかなかったのです。
ようやく1990年代に入り、腸の状態を測定するバロスタット法が登場し、消化器の微細な運動と知覚(苦痛・憎悪)が測定できるようになりました。
この方法ができたことにより、以前の検査では患者が痛がる(患者のせい)とか技者の技量が悪い(医師のせい)ではなく、IBSの本質に迫ることができたとおもしろく紹介しています。
要するにこの検査により、IBSの患者は一般健常者と比べて、内臓知覚により腹痛を強く感じることが、(数値的にも)はっきりしてきたのです。
腸(消化器系)の痛みは、神経伝達物質(とくにCRH、41個のアミノ酸が連なるペプチド・ホルモンという聞きなれない物質)により、脳に伝わります。
このあたりの説明は一般にはよく知らなくてもすむことで省きます。
神経伝達物質とはドーパミンやセレトニンがよく知られており、私よりもはるかに詳しく知る人が多いと推測できます。
ここで注目すべきは、腸と脳の関係です。ここは福土さんの説明を紹介します。

《脳にある神経細胞は腸にもある。
その神経細胞とシナプスの作動原理はその場がどちらでも変わらず、脳にも腸にも共通している。
神経の研究は脳で活発に進んでいるので、知識としては、脳で得られた成果を腸にも応用するという形になっている。
しかし、進化の方向としてはどうであろうか? 
明らかに、腸で作られ、うまく動いて生存に有利であったシステムを脳に応用したのである。
脳にある神経伝達物質と受容体、そのほぼ同じものがなぜ腸にもあるのか。
生体が腸で開発したものを脳に使い回したのである。
では、腸の神経叢も脳も同じか、と短絡してはいけない。
同じわけはないのであって、基本単位とその作動原理は同じでも、構造も機能も非常に異なる。
脳の脳たる特徴、腸の腸たる特徴、他の臓器の他の臓器たる特徴が重なって生体が成り立つのである》(76~78p) 藤田絋一郎さんはこのあたりを端的に“腸は脳よりもエライ”と言ったわけで、実にユニークです。
日本語には感情や気分を表わすのに古来から「腹」を使います。腹が座っている、腹が立つ、腹を据えかねる…などです。
頭で感じるのと並んで、むしろそれ以前に腹で感じているのです。
このことは日本人だけではなく人類には共通するようです。
とくに現代社会ではさまざまなストレスが重なり強いです。
それは脳で感じる以前に腹(腸)で感じるのです。
とりわけストレスに敏感な人に表われるのは当然ともいえます。
IBSは日本人の10%以上といわれますが、おそらく平均的に感受性の強いひきこもりにその割合はさらに高いことがうかがえます。
長らく扱いに困っていたIBSに対してようやくバロスタット法が登場し、IBSの研究もすすみました。治療法や対応法も考えられました。
そのあたりを説明した福土さんの文章です。
(以前は)「IBSの心理的異常やストレスで症状が悪くなるのはうまく説明できない。
ストレスによる発症、憎悪、不安や抑うつなどの心理的な異常、消化器知覚過敏の三つは統一的に説明できるはずである。
そこから脳腸相関という概念が必然的に生まれる」(113p)。
IBSの身体的なメカニズムは相当にわかってきたのです。
しかしだからといってすぐに治療法が生まれてくるわけではありません。
特効薬が開発されれば何とかなるというものでもなさそうです。
体質改善をして心理的異常やストレスに強くなるのは方向性としていいのかどうかさえも疑わしいものです。
環境や社会の大きな変化により人へのストレスが強まる現代社会に身体的な対応では乗り越えられない要因があります。
一筋縄ではいかないのです。
ことによったら社会改革というとんでもないテーマが出てくるかもしれません。
当事者の居場所で語られたことはとてもこういう大テーマではありません。
参加者が日常生活で経験する苦心や、各自の工夫みたいなことですが、それだってあまり大きな声では話せないものです。
私が聞いてきた「電車利用の工夫」がその一端を示しています。 説明はとばしますが表われ方の男女差もあります。「IBS患者は女性のほうが多い」。
ところが「IBSの症状では男性は下痢が多く、女性は便秘が多い」(218p)。
私が運営する居場所で過敏性大腸症候群を思わせる話をきくのは男性に多く、女性に少ないのは、ある程度はこれに関係すると思います。

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