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引きこもり当事者に同行する取り組み

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[[かつしか子ども・若者応援ネットワーク」の活動報告]]<br>
 
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2016年3月15日 (火) 21:28時点における版

引きこもり当事者に同行する取り組み

電話をとりました。低い聞きとりにくい声がします。
「…もしもし…不登校情報センターですか?」
「そうです。何か話したいことがありますか?」
「不安になって苦しいです。どうすればいいんですか?」
「どんな不安なのか、少し話してみませんか」
「親がぜんぜん協力的でないので、どうしたらいいのかわからなくて苦しいのです」
「親にはどんな協力をしてほしいのですか?」
「自分の話しを聞いて、ちゃんと答えて欲しいのですが、逃げちゃうんですよ」
ここから始まって40分ほどのやり取りでした。この人は30代の男性Pくんです。
数か月、家から一歩も外出できないでいます。
引きこもった状態の本人から直接の電話は珍しいです。
ネット上の情報を見て電話をしてくるのです。
こういうやり取りを数回して、Pくんの家に行くことになりました。
寒い時期の午後のことです。地図を頼りにその家を訪ねます。
ブザーを押してしばらくしてドアが開き、家の中に入ります。
暗くて周りがよく見えません。
玄関近くの台所風のところにある椅子を勧められて落ち着きます。
窓もカーテンも閉められていますし、これという暖房もありません。
動いてきたぶん体が温かくて助かります。
これがPくんとのは初めての対面です。
電話を受けてから1か月は過ぎた頃です。
その後、父親と3人で会う機会がありました。
Pくんからはときどき電話があります。
私は、このタイプの引きこもりには、外出や行動が大事だと思っていますので、Pくんの言い分を聞くなかで外出や行動につながる部分を彼に返していきます。
父親と3人で会った時には、一人暮らしがしたい(父と2人で家にいると気分が不安定になる)、以前に精神科に受診し服薬を続けているので(父親が薬をもらいに行っている)、障害者年金で暮らせるようになりたい、などを父に話します。
父親はそれをよく納得してはいないのですが、その方向には協力する姿勢を示しました。
その数日後、Pくんは何と自転車を買ってきました。
一人住まいをするアパートを探すために家の周辺を見て回るためです。
しばらくして電話があったときに、「ここなら住めそうだというアパートは見つかった?」と聞いてみますが、はっきりした返事はありません。
あるときの電話で「不動産屋さんに行きたいのですが、どう話していいのかわからないです」といいます。
こうしてPくんに同行して不動産屋さんに行くことになりました。
駅前の待ち合わせのとき、彼は自転車に乗ってきました。
その後は不動産屋さんの車に同乗し、アパートの部屋を数か所一緒に回ります。
しかし、アパートの一人暮らしはまだ先のことです。
この行動は、Pくんには一種の社会経験です。
区の障害者福祉課にも一緒に行きました。障害者年金の説明をしてもらうためです。
これもまたPくんの外出機会であり、社会勉強の場です。
初めの電話から半年くらい経っていたのですが、あるとき「中学時代の友達に誘われてアルバイトのような形で手伝いをしている」と言います。
意外な展開に驚きです。
行動するなかで生まれてきたことです。
といってもまだほんの入り口です。友達の仕事は屋外を移動する仕事です。
その出発の時間に間に合わずに、友人が事務所で帰ってくるのを待っていることも多いし、家から出られずに休んでしまう日が続いたりします。
毎日が引きこもり生活になっているトーンは変わりません。
父親は、Pくんからいろんなことを要求されても何をしていいのかわからず、帰宅しても部屋に入らず車に乗って出かけたり、車で寝泊まりしています。
帰ってくるのは食事を用意し様子を見るためです。
無責任なのではなく暴力事件になるのを回避するための、父親なりの子どもとの距離の取り方です。
これまでも暴力になりそうな事態はときどき発生していたのです。
ここにはPくんの父親への依存が見られますが(依存が強くなると支配に傾きます)、家族以外の他者との関係はそうなりません。
ここが家族と第三者との違いです。
私はこのような20代後半以上の高年齢化している引きこもり状態の人に相談・訪問・同行という形で関わったことがいくつかあります。
「当事者に同行するオーダーメイドの取り組み」として列挙しました。
(1)病院に同行
同行した人は十名になります。
女性が多いですが男性もいます。
診療室に一緒に入った人もいます。
本人の診察後、医師から呼ばれて診療室に入り事情を説明したり、医師から状態を聞くこともありました。
家族と一緒に医師に面会したこともあります。
予診のときに本人に代わって知り得る状況を話さざるを得ないこともありました。
どこまでを話すべきかが難しいです。
本人が話せない状態もあり、最低限のことを私が話さなくてはならずやむなく話しましたが、あとで「…あのことは話してほしくなかった」と言われたこともあります。
多くの医師の印象は意外と開放的です。
しかし、医師の描く治療方針の中に協力を求められることもあります。
これまでに乗っていきたい提案はありませんでした。
医師ではなくカウンセラーの面接に同席したこともあります。
これらは当事者が医師と話すのが不安というより、病院に行くのに不安があり(特に初診時)、それへの同行です。
その結果、診察の現場等にも同席することになったのです。
(2)一人暮らしのためのアパート探しに同行
例は多くありません。
不動産会社に一緒に行った例、そこで不動産会社の社員と一緒にアパート等の部屋を一緒に見て回ったことがあります。
どちらでもなく一人暮らしをするのだと言って、転居先の候補を外から見て回ったこともあります。
本人は自分だけで判断するのに不安があり、そのための同行になったものと思います。男女両方います。
不動産会社の社員はごく普通の対応です。
これも社会関係の経験になります。
(3)生活保護のための社会福祉事務所に同行
きわめて切迫した状態で社会福祉事務所に一緒に行ったこともあります。
NPO法人理事長という名刺が役立つことがあるとすればこのときです。
直接間接に生活保護の申請に関わったのは4名ですが、他に生活保護の受給条件を聞くために一緒に福祉事務所に行ったこともあります。
福祉事務所の職員は基本的に親切丁寧です。
ときどき聞く“冷たい対応の職員”というのは、一人で福祉事務所に相談に行ったときに発生するのではないかと、うがった見方をしたくなります。
(4)職探しに同行
振り返るに私には職探しの同行経験がありません。
障害者手帳をもつ人について就労相談に行く予定があったのですが、直前にキャンセルになったのが惜しいと思いました。
障害者手帳をもつ人がハローワークに行くのについたことがありました。
ハローワークでは障害者枠での雇用と一般枠での雇用を別にして対応しています。
障害者枠での雇用の実例を知るための私の社会勉強です。
(5)入学先・転校先の学校に同行
これは比較的若い人なので多くは家族と一緒に学校に行きます(本人と2人だけもありますが)。
その家族について学校に行き、担当者と話す場に同席したことがあります。
家族も判断するのにあとで意見を聞きたいのです。
本人は低学力であるために入学できるかどうかを心配します。
しかし、不登校経験者を受け入れようとする学校にはそれはあまり問題ではありません。
学校にとっては生徒が通学できるのか、通学できないときの対応方法があるのかなどが重要です。
私にはこの学校はどういう雰囲気の学校なのかを観察する機会になります。


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