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現代経済社会におけるひきこもりの位置

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2021年4月15日 (木) 00:51時点における最新版

現代経済社会のおけるひきこもりの位置(異論)

  • 会報「ひきこもり居場所だより」2021年8月号掲載の「お天道様、ありがとう」

60年前の1960年ごろ、私は山陰の小さな漁師町いる野球と社会科の好きな中学生でした。
2年生の時か3年生の時かはわかりませんが、社会科の山崎先生のテストを覚えています。
いつもとは違う記述による回答問題で、テスト用紙の最後に7~8cmほどの空欄がありました。
問題名は加工貿易国日本の将来、というものでした。
私の回答はテスト用紙の裏面にも7~8㎝ほど続く長さになりました。
とっくの昔にテスト自体はなくしていますから回答内容はおおよその記憶です。
後進国(まだ発展途上国という言葉はなかったと思います)が工業化したとき、原料を輸入し、工業製品を作って輸出する日本の将来はどうなるのかを考えました。
日本の工業は軽工業から重工業・重化学工業に向かうので、後進国における工業化は日本のためにもなる。
後進国が発展すると製品をより多く、より違う種類の製品が輸入されるという意味を書きました。
しかし、それはいつか限界が来るかもしれないが、その先のことはわからない。
しかし、何らかの解決策は出てくるはずだ。
回答はこのようなものだったはずです。中学生の私に書ける限度でしょう。
300字~600字の回答だったと思います。
山崎先生はこの問題の配点を10点にしました。
この設問が記述式であったこと、私の回答は不十分なはずなのに問題意識を認めて20点を付けたこと、この2点が強く印象に残りました。
その思いはときに思い返すほどのもので、いまでも覚えています。

1か月ほど前にある本を見つけました。
『資本主義の終焉と歴史の危機』(水野和夫、2014年、集英社新書)で、2つの刺激的なことがありました。
読み進めながら中学時代のあのテストのことを思い起こしていました。
日本の加工貿易国のどこかに不安を感じながら回答したことが扱われていると読み取れたのです。
今日の中学・高校の社会科教師でこれに正解できる人がどれくらいいるでしょうか。
山崎先生もあの時それを感じていたと私が推察するのは、配点10点のところ20点を付けたからです。
もう1つこの本では思わぬ記述に巡り合いました。
「近代引きこもり症候群の人たちが政界や実業界で実権を握って、近代システムの弊害を見えるがゆえに実際に引きこもっている若い人に、なにを内向きな考え方をしているのだと、非難しているのが日本です。まさに「倒錯日本」です」(129p)。
本格的な経済史を扱う書籍で、ひきこもりが堂々と扱われているのです。
水野さんのこの部分を理解するには現代資本主義の特徴を知らなくてはなりません。
しかも、ひきこもりを歴史的な現象としては否定的に扱っていません。
この説明にはある程度の分量を割かなくてはなりません。しかし、ここでは要点を限り説明します。
現代の日本社会の経済状況を「ゼロ金利、ゼロ成長、ゼロインフレ」と簡略化して表現します。
国の借金が1200兆円、金Goldと紙幣Moneyが切り離され実物経済と離れた大量の通貨量が流通している、富む人と貧しい人の格差が拡大している…などを特徴とするでしょう。
そこでいうゼロ成長とは何か。
企業は投資を控え、銀行は融資先が不足し、企業は内部保留を重ねその額は463兆円に達します。
民間資本の投資先を増やすために政府は積極財政を続け、国の借金額は1200兆円になりました。
しかし20年にわたり超低成長は続いてきました。
GDP(国内総生産)は1%ほどが続き、ときに年によってはマイナスもあります。これがゼロ成長です。
次の金利ゼロ、ゼロインフレとは何か。
物価が上がらないのが低成長の理由として日本銀行は年間2%の物価上昇を目標に、市中に多額の資金提供をめざします。
銀行は低金利で貸出先を求めますが借り手はいません。
銀行は国の積極財政による債権を買い受けて運営する状況です。
一般庶民は銀行預金をしても利息はほぼありません。
これが金利ゼロ、ゼロインフレです。
水野さんが政界や実業界の実験を握る人を「近代引きこもり症候群の人たち」というのは、この社会経済状況をつくりだしている人たちです。
積極財政をして生産やサービスを拡大しようとしますが、もはやそういう時代ではありません。
国内消費市場は飽和状態に近づいています。海外は各国とも国内産業の振興を図っています。
国の目標はGDPの拡大ではないのです。
それなのに市場拡大を求め続ける、だからそれを「近代引きこもり症候群」と揶揄するのです。
水野和夫さんはこの状況を、近代資本主義の終焉といいます。
この社会的・歴史的な状況を感覚的に社会の行き詰まりやゆがみを察知した人、それを心身状態で示したのがひきこもりです。
だから歴史的な存在としては否定的には扱えないのです。

この社会状況はいつから始まったのか。
私は以前に、どなたかの意見に納得して、1970年を日本が高度産業社会に到達した年と書いたことがあります。
到達したということは、そこから新しい展開が始まったということでもあります。
1970年代初めに資本主義に何があったのでしょうか?
日本の高度産業社会の到達について、水野さんは次の指摘をしています。
「資本主義は1970年代半ばを境に「実質投資空間」のなかで利潤を上げることができなくなった」、「たとえば、日本の交易条件が大きく改善したのは…、1955年から72年までです」。
1人あたり粗鋼消費量のピークは73年度0.834t、「鉄の消費量は近代化のバロメーターで…(これ以降の)40年にわたって、日本の内なる空間で需要が飽和点に達している証拠です。
…大量生産・大量消費社会が1970年代半ばにピークを迎えたことになります」(106p)。
他にもいくつかの例を挙げています。
資本主義の新しい展開とはなにか? 金Goldと紙幣Moneyの結びつきが切り離されます。
実物経済と流通する通貨量が離れたのです。これはニクソン・ショックと言われ1971年のことです。
かつて1ドル=360円と固定していたドルと円の交換相場は変動制になりました。
最近では1ドル=108円とか毎日、毎時間変化しています。
これが実体経済と離れたマネーゲームの世界をつくり、資本主義の虚構性を深めています。
1970年代前半の利子率は、日本10年国債11.7%(1974年)、イギリス14.2%(1974年)、アメリカ13.9%(1981%)が示しています。
14世紀の資本主義の発生以来の最高水準です(中心分野以外の高利貸し資本は除外しているはずです)。
ところが最高を迎えた70年代に急激な利子率の低下が起きます。
この資本主義の危機に劇的な延命策が生まれました。
電子・金融空間の拡大です(地理的空間の拡大の余地は限られた)。
電子・金融空間の拡大は地理的な拡大の代わりになるものでしたが、しかしすぐに行き詰まります。
金Goldと紙幣Money(ドル)の結びつきが切り離され、実物経済と流通する通貨量が大きく離れていきます。
IMF(国際通貨基金)の2013年の推計では、実物経済の規模は74.2兆ドルにたいして、流通通貨量は140兆ドルといいます。
通貨の流通速度が秒速で世界の金融市場を駆け巡るので、実物経済と通貨量はこの10倍の開きがあるといいます。
いまや通貨は金融市場では過剰に流通しています。
通貨量が多いと物価が上がるはずです。
ところがそうはならない。日本以外でも各国は産業振興(積極財政という)として予算支出を、流通通貨を増やし続けています。
しかし、物価は上がらず、資産価格が増えるし(バブルの発生条件)、利子率は低下したまま下げられないレベルになりました。
利潤を求める資本主義が利潤を得られなくなりました。資本主義は終わりに近づいているのです。

現在の経済社会状況の打開策を日本政府はアベノミクスと称するわけですが、安倍政権7年の間に成果はなく平成も終わりました。
この状態を「近代引きこもり症候群の人たちが政界や実業界で実権を握って」いると言うのです。
水野和夫さんはそれに代わる道を提示しました。
景気優先の成長主義を脱して新しいシステムを構築すること(GDPの拡大ではなくGDPの配分変更)とエネルギー問題の解消の2点です。
新しいシステムとは生産分野から国民所得の分配に転換します。
私なりに言い換えますと対人的なサービス分野、すなわち医療、介護、福祉、保健衛生、教育、保育、職業訓練などに財政支出を向けることです。
ひきこもり・虐待・いじめ対策も含まれます。
これまでは削ってきた分野や新しく注目されてきた分野です。
この分野への予算支出を増やすことです。
生産的なGDPの拡大ではなく、GDPの分配に対応します。
対人的なサービス分野以外では水野さんはエネルギー問題を象徴的に上げました。
今回の新型コロナの経験から人の生存に必要な基本的な物資は国内で最大賄う方向がはっきりしました。
例えば食料(第1次産業の農業・畜産業・漁業など)と医療・保健衛生の用材などです。
エネルギー以外では環境、災害対策、情報、文化、公共交通が重要になるでしょう。
私はこれらの分野はよく知らないので詳しくは書けませんが、これは観光業の振興につながるし、研究機関への財政援助なども挙げられそうです。
対象が広範な産業分野に及びますので私の頭で及ぶところではありません。
ただゼロ成長というよりも時にはマイナスを含む低成長というのがよさそうに思います。
見るように分野によってはGDPの拡大もありうるからです。
それでも財の生産分野の成長の役割は大きくはないでしょう。

水野和夫さんは、それを資本主義の卒業、あるいは定常状態社会として説明しています。
経済成長を目的としない社会であり、資本主義の終焉の一歩手前といいます。
経済成長を目的としない「定常状態」とは、資本主義以前に長く存在して社会状態です。
「家計でいうならば、自動車1台の状態から増やさずに、乗りつぶした時点で買い替える」(188p)と例えています。
これは私が中学生のときに答えられなかった問題に対する回答でもあります。
私の頭の中にあった未解決の問題が呼び起こされた気分です。
それは資本主義の、地球全体に広がった資本主義のその先に出てくる問題を考えるしかないからです。
その定常状態社会を迎えるために解消しなくてはならない問題がいくつかあります。
国民間にある社会経済的な格差、1200兆円の巨額の国債などです。
上にあげた対人的なサービス分野(医療、介護、福祉、保健衛生、教育、保育、職業訓練など)の国民負担を大幅に下げることにより、国民のなかの社会経済的な格差は相当に水平化に向かうでしょう。
加えて所得税や消費税などの税制度が対象になります。
それらの道を考えるのは私の任をはるかに超えていますので、先には進まないでおきます。
ただ私には、ひきこもりの問題に関わって30年近く進み、彼ら彼女らが心身状態において提起してきたことがその先の社会像に結び付くと想像できるようになったこと、中学生以来の持ち続けてきた私の疑問がそれに重なっていると理解できたことに、とても感謝したい気持ちです。
お天道さま、ありがとう! THANK HEAVEN ! と叫びたいほどです。 
     

現代経済社会のおけるひきこもりの位置を掲載
投稿日時: 2020年8月10日
会報8月号に「お天道様、ありがとう / Thank HEAVEN!ー現代経済社会のおけるひきこもりの位置(異論)―」というエッセイを載せました。
受け取った会報の読者には面食らった人もいるようです。
心理学や精神医学の分野からではなく、社会経済学の分野からのひきこもりをとらえる文面のある本に出会いました。
それを援用しながら、自分なりに展開しようと試みたものです。
掲載においてはいくぶん加筆修正をしていますが、基本は同じです。
論旨も書き方も十分ではありません。
さらに追及していくと何かがつかめるかもしれません。
タイトルは「現代経済社会のおけるひきこもりの位置(異論)」としました。

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