父との関係―Rくんからの手紙 2022年3月

 さきごろ1冊の本を贈られました。井上麻矢『夜中の電話 父・井上ひさし最後の言葉』(集英社文庫.2021)です。ぜひ読んでほしいという添え書きがあります。エッセイ集でありどの部分を読んでもいいのですが、途中でふと思いました。彼はなぜこの本を読んでほしいと思ったのだろうかと。
そこでどういう意図があるのかを問い合わせたところ、いつもの几帳面な手紙が返されてきました。その答えにあたる部分を紹介します。読者の方にもどこか思い当たることはないでしょうか?

《実は、ぼくは、父との関係が小さい頃から良くなくて、成人してからはもう30年ほどもまともに口を利いていない状態が続いております。母や姉、弟とはふつうの関係を保っているのですが、なぜだか父とはうまく関係を築けませんでした。
前に、二条淳也さんが会報で、「ぼくは、母親から愛されなかった」と言っているのを目にしたことがありますが、実はぼくは、子供のころに、父親から愛されませんでした。それは被害妄想でも、思い込みでもなく、本当のこと、事実です。そんな訳で、小さいころや小学生のころに、ぼくは非常にさびしかったものでした。姉や弟は父から愛されたようですが、真ん中のぼくだけは、なぜだか全くかまわれませんでした。今考えても、ぼくにはそれが、謎ですし、全くわからないのです。
なので、ぼくは、今でも、父には良い感情が持てないでいます。詳述すると、長くなるので、省略しますが、何が言いたいのかといいますと、ぼくは、自分と父との関係について、ずっと悩み、考えてきたので、他人の家の、父子関係にも関心があるのです、ということが言いたいのです。松田さんと、父上の関係はいかがでしたでしょうか。いろんな人にお尋ねしたいくらいなんです。父親との関係は良いですか?悪いですか?と。
そんな思いが胸中にありましたので、『夜中の電話』では、父親と、娘の関係が率直に綴られてあり、それが、まず、ぼくの第1の関心事でした。井上麻矢さんの、父親への様々な思いや、複雑な感情が綴られていることに、まず、大きな興味をぼくは覚えました。実は、ぼくは、井上ひさし氏のメッセージそのものについては、特別深い関心を持った訳ではありません。随所に、いいことを言ってはおられますが。
井上ひさし氏が昭和9年生まれで、娘の麻矢さんが昭和42年生まれです。ぼくの父は昭和12年生まれで、ぼくが昭和43年生まれです。それぞれに年齢が近いということも、なんだか親近感を覚えました。
松田さんと、父上との関係がどのようなものだったのか、知る由もありませんが、ぼくは小さいころから父との関係が良くなくて、悩み続けてきました。今現在もです。父はどうしてこのぼくを助けてくれないのだろう。無関心を決め込んでいて。同じ家に住んでいて、父とぼくとは、気づまりで、居心地が悪く、互いに避けあっています。ぼくにはもう、父との関係をどうしたらいいのか、わからないんです。ぼくは、父に、愛情を全く感じておりません。長い長い年月です。父のことを優しいなと思ったことは、小学生の低学年のころに、1回くらいしかありません。このような父と居ると、ぼくは自然と肩に力が入り、緊張してしまいます。そのため、いつも上半身が痛いのです。背中の両肩のあたりがです。でもどうしたら、リラックスできるのか、わかりません。
前回申し上げました通り、ぼくは無気力ですが、この度は、気力をふり絞って、やや長めの手紙を書かせてもらいました。今回の会報には、松田さんの子ども時代のことが書かれてありますので、興味深く読ませて頂きます。》

Rくんには手紙で返事をするつもりです。読者の皆さんからも体験談をお待ちします。

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