ひきこもりに関わる目的は「表現をひき出すこと」
投稿日時: 2024年9月3日 松田武己(不登校情報センター)
ひきこもり経験者と関わり、恒常的な居場所をつづけるうちに、私の取り組みの目的は少しずつ変わりました。1996年に始めたころは仕事に就けるようにすることだったはずです。そうではないと感じ始めて「社会参加にする力と条件をつくる」としました。
ところがあまり意識しないうちに、私は〝仕掛ける〟型から〝受け取る〟型に変わっていきました。この変化の背景には2000年11月に文通目的の交流誌『ひきコミ』を月刊で発行したことが影響します。多くの投稿者の中に自己紹介とともに、マンガやイラストを送ってくる人がいました。小論文的なエッセイや4コマ漫画もありました。深く意識しないまま「表現をひき出す」スタイルが始まったのです。
イラストなどの絵画的なものを発表する創作品は、2005年2月に創作発表の場「片隅にいる私たちの創造展」が最初で、これは2012年4月までに5回開きました。2007年12月の第2回創造展のとき数名のカット絵集を手作り作ったのが手作り冊子の初めです。
居場所に「難しいと恥ずかしいは類似語です」という張り紙が出されたとき、ことば表現にも何か特別なものがあると感じました。彼ら彼女らのことば集めが始まり、それは10年後の2013年に手作り冊子『ひきこもり国語辞典』になりました。
手作り冊子づくりは創作展の間にも後にも続きました。全部ではないですが以下に紹介します。
お惚け者『世間は虚仮なのよ』(2008年2月)
中崎シホ『狂詩曲―中崎シホ詩集』(2009年2月)
makiko『TEARS―小さなカケラ』(2009年10月)=作者の自作
斯波盤宝『しあわせ村によく来たね』(2010年5月)=作者の自作
I・M『少女まんがに描かれた母親像』(卒業論文を冊子にしたもの)
二条純也『中年ひきこもり』(2013年4月)
太田勝己『不条理ものまんが集』(2014年3月)
葉月桜子『異物』(2014年4月)
この時期は冊子づくりが続いた時期とも言えます。2009年5月にSmさんの協力によりブログ(Yaplog)「片隅にいる私たちの創造展」を始めたのは展示会を続けるつもりだったからです。ただブログを始めることで別の展開が開けてきました。ブログ運営で私が様子を紹介するのを見て2010年終わりごろにMmくんが不登校情報センターのサイトをWIKIシステムにする提案をしてきました。そうすることにより活動ベースが大きな広がりました。
転居して居場所がなくなり、コロナ禍も重なった以降は様子が変わりました。3年ほど前から意識して数人と(手紙・電話・メールを含む)私との個人的やり取りをしています。
2021年3月に『ひきこもり国語辞典』が時事通信社から出版になりました。
2022年3月には江戸川区泉福寺でTokyo.U-clubの「ひきこもりと表現」学習会が開かれ、太田勝己作品などの展示を行いました。テーマの「ひきこもりと表現」はTokyo.U-club会長の久保義丸さんが提案したものですが、ピッタリと感じました。ひきこもりと関わる目的は彼ら彼女らの表現をひき出すことにあると納得したのです。
個人的やり取りは近況報告などを聞くもので相談とはやや違います。メール交換は文章ですが、聞き書きもあります。うまくいっているのか微妙なものもあります。多くは生身の体験を聞き文章にしているわけですから、プライバシーに関係する個人情報が満載です。むしろ公表しないことが前提であり基本です。
2023年12月に手作り冊子『統失宇宙からの手紙』を発行しました。これはメールで意見交流をしている近江シホさんと私のやり取りの記録で、中心筆者は近江シホさんです。このように公表しなくても可能なものは、手作り冊子にしようと考えています。
ひきこもり経験者と私(松田)の関わる経過をこのようにたどってきました。私との個人的やり取りを希望する人がいましたら連絡をください。