駅のバス乗り場に向かったら声をかけられました。
見るとある女性の横におばあさんが座っています。
この女性が言うにはおばあさんは近くで倒れたらしく、ようやく立ち上がり、この女性に助けられてバス停の椅子に座ったところみたいです。
おそらくは認知症気味であり、どのバスに乗り、自分がどこに行くのかがわからないらしいのです。
この女性は急いでいて、ちょうど差し掛かった私にこの後の引継ぎを頼んできたのです。
確かに、どこに行きたいのか、どのバスに乗ればいいのかを聞いても、いっこうに要領のいい返事はありません。
ついには「帰れれば、どのバスでもいいんです」という迷回答をするしまつです。
ふと思いついて、名前と住所を聞いてみました。
そうすると自分の名前も住所もはっきりといいます。
住んでいるマンションの名前も部屋番号も覚えています。
少し離れたところに交番が見えます。
「ここで待っていてください、あそこの交番できいてくるから」とおばあさんに言い残して交番に向かいました。
交番には詳しい住居地図があり、しかもおばあさんが覚えていたマンション名も載っています。
近くのバスの停留所を確かめると、私がこれから乗るバス路線の途中にあります。
おばあさんのところに戻って、そのバス停名を言うと「そこですよ」とさっきからそう言っていたでしょうと言わんばかりの口ぶりです。
「私も同じバスなので一緒に行きます」と数分待った後に来たバスに乗りました。
20分も乗ったところがそのバス停です。
降りたのは確かめたのですが、窓際の乗客が「あ~」とか言っています。
見るとバスを降りた道路側におばあさんはまた倒れこんでいます。
私がバスの降り口に急ぐと、運転士がドアを開けてくれました。
外に飛び出して助け起こし、歩き始めたところで、バスに戻りました。
運転士さん、よく見ていてくれました。
私はそれからまた10分ほど乗り目的地に着きました。
いろいろありましたが、なにかいい体験をした気がします。