子どもの虐待と被虐待児症候群

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被虐待児症候群について山本高治郎さんは『母乳』のなかで、次のように述べています。
 
「教授らがこのことの重要性に気づいた最初の動機は、「被虐待児症候群」が、新生児期に集中医療看護を受けた未熟児に多発するという臨床体験に由来するのです。
それは、保育器に収容され、機械的肺換気の装置を装着し息づまるような日々の看護と医療の後に退院していった未熟児たちが、「被虐待児症候群」の症状をもってーーもちろんすべての未熟児がというのではありません。その一部分というにすぎないのですが、そうでなかった子に比べて明らかに有意に高い頻度をもって…――数か月後に病院にもどってくる、そういう体験であります。
被虐待児症候群は、さいわいにしてわが国では、現在のところ非常に稀にしか見られない臨床的状態ですが、それは、小児が原因不明のまま新しいあるいは古い傷のあとを身体の数ヵ所にもつことを主症状とする臨床的状態です。時期を異にして起こったとおもわれるいくつかの骨折のあと、身体の各所に散在する皮膚の瘢痕(はんこん)などが、この症候群で最もよく見られる所見です。それは母と子、あるいは父と子の間に愛が成立しなかったことを物語ります。
多くの読者にとっては考えもされないことでありましょうが、それらの外傷は親が子に加えた残虐な行為の結果なのです。
米国のある小児科の先生が私語として教えてくれたのですが、この症候群は、両親の受けた教育のレベルが低く、経済的にも貧困な家庭に見られるだけでなく、高い教養のある職業レベルの階層の家庭にも見られるということです。クラウス教授らを、母と子の絆の成立の仕組みの研究に駆り立てたのは、親の心に発生してくるこのような病的事象だったわけです」(山本高治郎 『母乳』 岩波新書、1983、199-201p)
* この説明は、M・Hクラウス、J・H.ケンネル“Material-Infant Bonding” 竹内徹訳『母と子の絆』医学書院によります。教授らとはこの2人の著者です。

この引用文では、次のことがわかります。
(1)被虐待児症候群は、新生児が集中医療看護という手厚い保護のもとにおかれながら、生まれたばかりの子が母と分離された状態におかれたことによって発生しています。これが現在いわれる愛着障害に重なると推測します。未熟児に対する現代医療のすばらしい達成とそれがもとになる新たな課題の発生を同時に見るのです。
(2)被虐待児症候群は、日本においてはこの本が書かれた1983年にはほとんど知られていません。しかし、私が関わったひきこもり経験者のなかには、おそらくは程度は低かったかもしれませんが、1960年代末以降に生まれた人には、すでに発生していたと思われます。今日の日本における乳児を含む子どもへの虐待の広がりをみると、少なくとも1970年代に入ると人知れずに広がり始めていたと考えられます。そういう動きが小児医療の臨床現場ではまだとらえられていなかったということです。
(3)このような親の虐待は、親の階層にかかわらず見られた点も注目しなくてはなりません。次のひきこもり当事者のことばはそれをうかがわせませんか。

〇知的な親:「親が妙に賢いと理屈でものを言います。筋は通っているので受け入れます。…しかし、その理屈に流されていくと自分を失います。…子どもは理屈で育てるよりも愛情をもって受けとめてほしいのです」
〇立派に育てる:「子どもを「立派に育てる」ことの大切さを熱く話しているのを聞くと、子どもは理詰めに育てられてつらいだろうと同情したくなります。立派に育てるよりも、おおらかに優しく、子どもと一緒に泣いたり笑ったり、子どもを抱きしめながら育ててほしいです」

これは『ひきこもり国語辞典』に採用した、体験者のことばです。幼児期というよりももう少し成長した時期の子どもの感想でしょうが、その目から見た鋭い指摘ではないですか。
山本さんの『母乳』は、今日では少し古い内容もあるかもしれませんが、自然のなかで生きつづけた人間(人類のといっていいでしょうが)の母乳哺育と子育ての知恵を謙虚に受けとめて描いて感動的でもあります。

不登校の親の会の席で、母乳哺育について話したところ、そこにいた母親の感想はこうです。とても忙しくて、哺乳をしながら片づけや家事に追われていた。母乳哺育が大事だと迫られたら、とても生活が回らない……という雰囲気のものでした。
乳児のケアへの手がたりない生活と家族の状態を何とか改善する方向は考えられるとしても、それで何とかなるレベルとはいかないようです。母乳哺育に人工乳を取り入れた事情だけではありません。子育ての環境条件を改善するだけでは、子どもの虐待をめぐる根本的な事態は改善しないと危惧します。私たちが生活する現代社会はこういう状態でもあります。

〔ひきこもりパラドクス〕

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