カスタム検索(不登校情報センターの全サイト内から検索)

 
Clip to Evernote  Twitterボタン  AtomFeed  このエントリーをはてなブックマークに追加  


教育虐待

提供: 不登校ウィキ・WikiFutoko | 不登校情報センター
(版間での差分)
移動: 案内, 検索
 
4行: 4行:
  
 
==教育虐待==
 
==教育虐待==
 +
===[[:Category:周辺ニュース|周辺ニュース]]===
 +
ページ名[[教育虐待]]、(家庭・家族のニュース、子どもの虐待のニュース) <br>
 +
'''子が従わないから刺し殺す51歳父の愛情'''<br>
 +
「教育虐待」が後を絶たない。精神科医の片田珠美氏は、「『子どもは自分のもの』という所有意識や、『自分は正しい』という誤った信念が、この手の虐待の原因になっている」と指摘する――。<br>
 +
■なぜ、51歳の父親は小6の息子を刺し殺したのか<br>
 +
2016年8月、名古屋市で当時小学6年生だった息子の胸を包丁で刺して殺害した罪に問われている51歳の佐竹憲吾被告の初公判が、今年6月21日に名古屋地裁で行われた。<br>
 +
佐竹被告は、自身が地元の有名進学校である中高一貫校を卒業しており、一人息子にも自分の母校に進学してほしいと希望し、名古屋市内でも有数の進学塾に通わせていた。<br>
 +
息子が塾に入った小学3年生の頃から、佐竹被告は暴力を振るうようになったようで、たたいたり、物に当たったり、教科書を破ったりしたという。<br>
 +
あげくの果てに「受験勉強で言うことを聞かないから刺した」わけで、これは教育虐待にほかならない。<br>
 +
教育虐待とは、親が教育熱心なあまり、子どもに過度な期待をして、思い通りの結果が出ないと厳しく叱責したり、暴力を振るったりすることである。<br>
 +
その結果、子どもが心にトラウマを抱えるケースも少なくない。<br>
 +
■「教育虐待」する親の4つの特徴<br>
 +
なぜ親は教育虐待をするのか?  教育虐待の影響で、不登校やひきこもり、家庭内暴力や摂食障害などの問題を抱えるようになった親子を精神科医として数多く診察してきて、次の4つの特徴に気づいた。<br>
 +
① 「子どもは自分のもの」という所有意識<br>
 +
② 子どもは「自分をよく見せるための付属物」という認識<br>
 +
③ 子どもを自分の思い通りにしたいという支配欲求<br>
 +
④ 自分は正しいという信念<br>
 +
 +
■「子どもは自分のもの」という所有意識<br>
 +
まず、①「子どもは自分のもの」という所有意識は、子どもを虐待する親の多くに認められる。<br>
 +
最も暴力的な形で表れるのが身体的虐待だ。<br>
 +
たとえば、2019年1月、千葉県野田市で当時小学4年生だった栗原心愛(みあ)さんが自宅の浴室で死亡した事件で逮捕され、傷害致死罪で起訴された父親の勇一郎被告である。<br>
 +
勇一郎被告は、心愛さんの両腕をつかんで体を引きずり、顔を浴室の床に打ち付け、胸や顔を圧迫するなどの暴行を加え、顔面打撲や骨折を負わせた。<br>
 +
それだけでなく、心愛さんの手に汚物を持たせ、その様子をスマートフォンやデジカメで撮影していたという。<br>
 +
どうして実の娘にこんなひどいことができるのかと首をかしげたくなるが、わが子を虐待する親の話を聞くと、皮肉なことに、実の子だからできるのだということがわかる。<br>
 +
子どもを自分の所有物とみなしているからこそ、自分の好きなように扱ってもいいと思い込む。<br>
 +
実際、子どもに身体的虐待を加える親が、「自分の子どもをどうしつけようが、俺の勝手だ」「子どもを殴るかどうか、他人にとやかく言われる筋合いはない」などと話すことは少なくない。自分の子どもは虐待してもかまわないという思い込みの根底には、しばしば強い所有意識が潜んでいる。<br>
 +
こうした所有意識は、教育虐待をする親にも認められる。<br>
 +
「子どもは自分のもの」という所有意識ゆえに、子どもに勉強させるために厳しく叱責するのも、暴力を振るうのも、自分の勝手だと思い込むわけである。<br>
 +
 +
■子どもは「自分をよく見せるための付属物」という認識<br>
 +
教育虐待をする親にとくに強いのが、②子どもは「自分をよく見せるための付属物」という認識だ。<br>
 +
この認識が強い親にとって、子どもは、自分の価値を底上げしてくれるバッグや宝石などと同等の存在にすぎない。<br>
 +
そのため、成績がよく、先生にも気に入られ、友達にも好かれ、習い事でもほめられる“パーフェクト・チャイルド”であることを常に求める。<br>
 +
さらに、「いい大学」「いい会社」に入り、隣近所や親戚に自慢できるようなエリートコースを歩んでくれるよう願う。<br>
 +
その役割を子どもがきちんと果たしてくれれば、親の自己愛は満たされるが、逆に子どもが「自分をよく見せるための付属物」でなくなれば、親の自己愛は傷つく。<br>
 +
だから、成績の低下や受験の失敗などに直面すると、親は怒り、罵倒する。<br>
 +
しかも、子どもが「自分をよく見せるための付属物」としての役割を果たしてくれなかったせいで、自分が恥をかいたと親は思っている。<br>
 +
当然、恥をかいた自分は被害者で、その原因をつくった子どもは加害者という認識であり、加害者である子どもを責めてもいいと考える。<br>
 +
こうして、子どもを責め、罵倒することを正当化する。<br>
 +
 +
■子どもを自分の思い通りにしたいという支配欲求<br>
 +
佐竹被告の「受験勉強で言うことを聞かないから刺した」という供述からは、子どもを自分の思い通りにしたいという支配欲求がうかがえる。<br>
 +
このような支配欲求を親が抱く理由として、利得、自己愛、「攻撃者との同一視」の3つが考えられる。<br>
 +
まず、利得だが、これは非常にわかりやすい。<br>
 +
多いのは、子どもに将来の高収入を期待する親である。<br>
 +
わが子が「いい学校」「いい会社」に入ることを望むのも、それによって高収入が得られるはずと思っているからだろう。<br>
 +
親の自己愛、とくに傷ついた自己愛も、親が支配欲求を抱く重要な動機になる。<br>
 +
なぜかといえば、傷ついた自己愛、そしてそれによる敗北感を抱えている親ほど、子どもを利用して、自分の果たせなかった夢をかなえようとするからだ。<br>
 +
佐竹被告も、その1人のように見える。<br>
 +
高校卒業後は大学に進学せず、飲食店などに勤務し、逮捕当時はトラックの運転手として働いていたということなので、中高一貫の有名進学校に入ったものの、その後の学歴についてはコンプレックスにさいなまれていたのではないか。<br>
 +
 +
■人生の敗北・劣等感を子どもにぶつける毒親たち<br>
 +
このように傷ついた自己愛と敗北感を抱えている親ほど、その反動で自分がかなえられなかった夢を子どもに実現させようとする。<br>
 +
これは、親が自分の人生で味わった敗北感を子どもの成功によって払拭し、傷ついた自己愛を修復するためだろう。<br>
 +
いわば敗者復活のために子どもに代理戦争を戦わせるわけだが、親が子供の希望や適性を無視して自分の夢を子どもに押しつけると、不幸な結果を招きかねない。<br>
 +
親が支配欲求を抱く3つ目の動機として、「攻撃者との同一視」を挙げておきたい。<br>
 +
これは、自分の胸中に不安や恐怖などをかき立てた人物の攻撃を模倣して、自らの屈辱的な体験を乗り越えようとする防衛メカニズムであり、フロイトの娘、アンナ・フロイトが見いだした(『自我と防衛』)。<br>
 +
このメカニズムは、さまざまな場面で働く。<br>
 +
たとえば、学校の運動部で「鍛えるため」という名目で先輩からいじめに近いしごきを受けた人が、自分が先輩の立場になった途端、今度は後輩に同じことを繰り返す。<br>
 +
「攻撃者との同一視」は、親子の間でも起こりうる。<br>
 +
子どもの頃に親から虐待を受け、「あんな親にはなりたくない」と思っていたのに、自分が親になると、自分が受けたのと同様の虐待をわが子に加える。<br>
 +
教育虐待をする親の話を聞くと、親自身が「子どもの頃に勉強しないとたたかれた」とか「成績が下がると罵倒された」とかいう経験の持ち主であることが多い。<br>
 +
そういう話を聞くたびに、「自分がされて嫌だったのなら、同じことを子どもにしなければいいのに」と私は思う。<br>
 +
だが、残念ながら、そんな理屈は通用しないようだ。<br>
 +
むしろ、「自分は理不尽な目に遭い、つらい思いをした」という被害者意識が強いほど、自分と同じような経験を子どもに味わわせようとする。<br>
 +
親自身が辛抱した経験によって、子どもへの支配欲求を正当化するのだ。<br>
 +
 +
■「虐待は愛の証し」という価値観で自己正当化<br>
 +
何よりも厄介なのは、④自分は正しいという信念である。<br>
 +
もちろん、子どもを虐待している自覚などない。<br>
 +
こうした信念は、先ほど取り上げた勇一郎被告にも認められる。<br>
 +
勇一郎被告は、警察の取り調べで「しつけで悪いとは思っていない」と供述したようだが、おそらく本音だろう。<br>
 +
死に至らしめるほどの暴力を「しつけ」と称するのは、理解に苦しむし、責任逃れのための詭弁ではないかと勘繰りたくなる。<br>
 +
だが、虐待の加害者のなかには、虐待を愛情の証しとみなしていて、「愛しているから、あんなことをした」と話す者が少なくない。<br>
 +
勇一郎被告も、「虐待は愛の証し」という価値観の持ち主だったのではないか。<br>
 +
このような愛情と虐待の混同は、虐待の加害者にしばしば認められ、自己正当化のために使われる。<br>
 +
自己正当化によって、自分は正しいと思い込んでいるからこそ、あれだけ激しい暴力を子どもに加えるのだろう。<br>
 +
こうした自己正当化は、教育虐待をする親にとくに強いように見受けられる。<br>
 +
子どもを罵倒するのも、暴力を振るうのも、子どもの将来のためだと思っている。<br>
 +
当然、自分が悪かったとも間違っていたとも思わないし、決して謝らない。<br>
 +
教育熱心な親ほど、教育虐待に走りやすい。<br>
 +
そのことを肝に銘じ、4つの特徴が自分自身にもあるのではないかと親はわが身を振り返らなければならない。<br>
 +
そして、子どもが一定の年齢以上になったら、親と子は別人格と割り切るべきである。<br>
 +
精神科医 片田 珠美 写真=iStock.com<br>
 +
〔2019年7/5(金) プレジデントオンライン〕 <br>
 +
 
===[[:Category:周辺ニュース|周辺ニュース]]===
 
===[[:Category:周辺ニュース|周辺ニュース]]===
 
ページ名[[教育虐待]]、(教育のニュース) <br>
 
ページ名[[教育虐待]]、(教育のニュース) <br>

2019年8月16日 (金) 15:54時点における最新版



目次

教育虐待

周辺ニュース

ページ名教育虐待、(家庭・家族のニュース、子どもの虐待のニュース)
子が従わないから刺し殺す51歳父の愛情
「教育虐待」が後を絶たない。精神科医の片田珠美氏は、「『子どもは自分のもの』という所有意識や、『自分は正しい』という誤った信念が、この手の虐待の原因になっている」と指摘する――。
■なぜ、51歳の父親は小6の息子を刺し殺したのか
2016年8月、名古屋市で当時小学6年生だった息子の胸を包丁で刺して殺害した罪に問われている51歳の佐竹憲吾被告の初公判が、今年6月21日に名古屋地裁で行われた。
佐竹被告は、自身が地元の有名進学校である中高一貫校を卒業しており、一人息子にも自分の母校に進学してほしいと希望し、名古屋市内でも有数の進学塾に通わせていた。
息子が塾に入った小学3年生の頃から、佐竹被告は暴力を振るうようになったようで、たたいたり、物に当たったり、教科書を破ったりしたという。
あげくの果てに「受験勉強で言うことを聞かないから刺した」わけで、これは教育虐待にほかならない。
教育虐待とは、親が教育熱心なあまり、子どもに過度な期待をして、思い通りの結果が出ないと厳しく叱責したり、暴力を振るったりすることである。
その結果、子どもが心にトラウマを抱えるケースも少なくない。
■「教育虐待」する親の4つの特徴
なぜ親は教育虐待をするのか?  教育虐待の影響で、不登校やひきこもり、家庭内暴力や摂食障害などの問題を抱えるようになった親子を精神科医として数多く診察してきて、次の4つの特徴に気づいた。
① 「子どもは自分のもの」という所有意識
② 子どもは「自分をよく見せるための付属物」という認識
③ 子どもを自分の思い通りにしたいという支配欲求
④ 自分は正しいという信念

■「子どもは自分のもの」という所有意識
まず、①「子どもは自分のもの」という所有意識は、子どもを虐待する親の多くに認められる。
最も暴力的な形で表れるのが身体的虐待だ。
たとえば、2019年1月、千葉県野田市で当時小学4年生だった栗原心愛(みあ)さんが自宅の浴室で死亡した事件で逮捕され、傷害致死罪で起訴された父親の勇一郎被告である。
勇一郎被告は、心愛さんの両腕をつかんで体を引きずり、顔を浴室の床に打ち付け、胸や顔を圧迫するなどの暴行を加え、顔面打撲や骨折を負わせた。
それだけでなく、心愛さんの手に汚物を持たせ、その様子をスマートフォンやデジカメで撮影していたという。
どうして実の娘にこんなひどいことができるのかと首をかしげたくなるが、わが子を虐待する親の話を聞くと、皮肉なことに、実の子だからできるのだということがわかる。
子どもを自分の所有物とみなしているからこそ、自分の好きなように扱ってもいいと思い込む。
実際、子どもに身体的虐待を加える親が、「自分の子どもをどうしつけようが、俺の勝手だ」「子どもを殴るかどうか、他人にとやかく言われる筋合いはない」などと話すことは少なくない。自分の子どもは虐待してもかまわないという思い込みの根底には、しばしば強い所有意識が潜んでいる。
こうした所有意識は、教育虐待をする親にも認められる。
「子どもは自分のもの」という所有意識ゆえに、子どもに勉強させるために厳しく叱責するのも、暴力を振るうのも、自分の勝手だと思い込むわけである。

■子どもは「自分をよく見せるための付属物」という認識
教育虐待をする親にとくに強いのが、②子どもは「自分をよく見せるための付属物」という認識だ。
この認識が強い親にとって、子どもは、自分の価値を底上げしてくれるバッグや宝石などと同等の存在にすぎない。
そのため、成績がよく、先生にも気に入られ、友達にも好かれ、習い事でもほめられる“パーフェクト・チャイルド”であることを常に求める。
さらに、「いい大学」「いい会社」に入り、隣近所や親戚に自慢できるようなエリートコースを歩んでくれるよう願う。
その役割を子どもがきちんと果たしてくれれば、親の自己愛は満たされるが、逆に子どもが「自分をよく見せるための付属物」でなくなれば、親の自己愛は傷つく。
だから、成績の低下や受験の失敗などに直面すると、親は怒り、罵倒する。
しかも、子どもが「自分をよく見せるための付属物」としての役割を果たしてくれなかったせいで、自分が恥をかいたと親は思っている。
当然、恥をかいた自分は被害者で、その原因をつくった子どもは加害者という認識であり、加害者である子どもを責めてもいいと考える。
こうして、子どもを責め、罵倒することを正当化する。

■子どもを自分の思い通りにしたいという支配欲求
佐竹被告の「受験勉強で言うことを聞かないから刺した」という供述からは、子どもを自分の思い通りにしたいという支配欲求がうかがえる。
このような支配欲求を親が抱く理由として、利得、自己愛、「攻撃者との同一視」の3つが考えられる。
まず、利得だが、これは非常にわかりやすい。
多いのは、子どもに将来の高収入を期待する親である。
わが子が「いい学校」「いい会社」に入ることを望むのも、それによって高収入が得られるはずと思っているからだろう。
親の自己愛、とくに傷ついた自己愛も、親が支配欲求を抱く重要な動機になる。
なぜかといえば、傷ついた自己愛、そしてそれによる敗北感を抱えている親ほど、子どもを利用して、自分の果たせなかった夢をかなえようとするからだ。
佐竹被告も、その1人のように見える。
高校卒業後は大学に進学せず、飲食店などに勤務し、逮捕当時はトラックの運転手として働いていたということなので、中高一貫の有名進学校に入ったものの、その後の学歴についてはコンプレックスにさいなまれていたのではないか。

■人生の敗北・劣等感を子どもにぶつける毒親たち
このように傷ついた自己愛と敗北感を抱えている親ほど、その反動で自分がかなえられなかった夢を子どもに実現させようとする。
これは、親が自分の人生で味わった敗北感を子どもの成功によって払拭し、傷ついた自己愛を修復するためだろう。
いわば敗者復活のために子どもに代理戦争を戦わせるわけだが、親が子供の希望や適性を無視して自分の夢を子どもに押しつけると、不幸な結果を招きかねない。
親が支配欲求を抱く3つ目の動機として、「攻撃者との同一視」を挙げておきたい。
これは、自分の胸中に不安や恐怖などをかき立てた人物の攻撃を模倣して、自らの屈辱的な体験を乗り越えようとする防衛メカニズムであり、フロイトの娘、アンナ・フロイトが見いだした(『自我と防衛』)。
このメカニズムは、さまざまな場面で働く。
たとえば、学校の運動部で「鍛えるため」という名目で先輩からいじめに近いしごきを受けた人が、自分が先輩の立場になった途端、今度は後輩に同じことを繰り返す。
「攻撃者との同一視」は、親子の間でも起こりうる。
子どもの頃に親から虐待を受け、「あんな親にはなりたくない」と思っていたのに、自分が親になると、自分が受けたのと同様の虐待をわが子に加える。
教育虐待をする親の話を聞くと、親自身が「子どもの頃に勉強しないとたたかれた」とか「成績が下がると罵倒された」とかいう経験の持ち主であることが多い。
そういう話を聞くたびに、「自分がされて嫌だったのなら、同じことを子どもにしなければいいのに」と私は思う。
だが、残念ながら、そんな理屈は通用しないようだ。
むしろ、「自分は理不尽な目に遭い、つらい思いをした」という被害者意識が強いほど、自分と同じような経験を子どもに味わわせようとする。
親自身が辛抱した経験によって、子どもへの支配欲求を正当化するのだ。

■「虐待は愛の証し」という価値観で自己正当化
何よりも厄介なのは、④自分は正しいという信念である。
もちろん、子どもを虐待している自覚などない。
こうした信念は、先ほど取り上げた勇一郎被告にも認められる。
勇一郎被告は、警察の取り調べで「しつけで悪いとは思っていない」と供述したようだが、おそらく本音だろう。
死に至らしめるほどの暴力を「しつけ」と称するのは、理解に苦しむし、責任逃れのための詭弁ではないかと勘繰りたくなる。
だが、虐待の加害者のなかには、虐待を愛情の証しとみなしていて、「愛しているから、あんなことをした」と話す者が少なくない。
勇一郎被告も、「虐待は愛の証し」という価値観の持ち主だったのではないか。
このような愛情と虐待の混同は、虐待の加害者にしばしば認められ、自己正当化のために使われる。
自己正当化によって、自分は正しいと思い込んでいるからこそ、あれだけ激しい暴力を子どもに加えるのだろう。
こうした自己正当化は、教育虐待をする親にとくに強いように見受けられる。
子どもを罵倒するのも、暴力を振るうのも、子どもの将来のためだと思っている。
当然、自分が悪かったとも間違っていたとも思わないし、決して謝らない。
教育熱心な親ほど、教育虐待に走りやすい。
そのことを肝に銘じ、4つの特徴が自分自身にもあるのではないかと親はわが身を振り返らなければならない。
そして、子どもが一定の年齢以上になったら、親と子は別人格と割り切るべきである。
精神科医 片田 珠美 写真=iStock.com
〔2019年7/5(金) プレジデントオンライン〕

周辺ニュース

ページ名教育虐待、(教育のニュース)
親の過剰な期待 子に取り返しつかない弊害もたらす
子どもに幸せな人生を歩んでほしいと願うのは、親としての当たり前の感情です。
ただ、「よりよい将来のため」という意図であったとしても、過剰な教育を子どもに強いてしまうと、健やかな成長につながりません。
それどころか、青年期や大人になってから不安障害やうつ病といった精神疾患を発症してしまうことすらある、と専門家たちは指摘します。
Qあなた、またはあなたの家族は子どもに対し、教育虐待をしたことがありますか?
「教育虐待」などと呼ばれ、近年、社会的に注目されるようになってきたこの問題、子育て中の親なら誰もが無関心ではいられないはず。
本特集では、教育虐待の定義や、起こる理由、予防策や解決策まで、複数の専門家に幅広く取材しました。
「実際に子どもに教育虐待をしてしまった」という当事者たちの声も紹介。
「共働き家庭ならではのリスク」についても、深掘りしていきます。
第1回は、教育虐待がもたらす「取り返しのつかない弊害」について紹介します。
【これって教育虐待ですか!?】特集
(1)親の過剰な期待 子に取り返しつかない弊害もたらす ←今回はココ
(2)「教育熱心」と「教育虐待」線引きはどこに!?
(3)教育熱心な親の NGワード&NG行為
(4)当事者は語る「私はこうして抜け出しました」
(5)被害者から加害者へ「負のループ」を断ち切る

●自分ではセーフと思っていても、実は度を越している可能性も
宿題をせずに遊んでいる子どもに「ちゃんと宿題しなさいよ」と注意したり、「もっと頑張ろうね」とはっぱを掛けたり、というのは、子育て中の家庭ではよくある光景です。
子どもにきちんと教育を受けさせることは親の義務。
その責任を果たすために、適度な範囲で適切な声かけをすること自体は、問題はないと言えるでしょう。
ですが、人はいつも同じように子どもに接することができるわけではなく、つい厳し過ぎる言い方になってしまうことはあるはず。
また、「適度」「適切」と感じる度合いは人によって異なるので、自分ではセーフと思っても、実は世間的には度を越した言動になってしまっている可能性もあります。
例えば、
・難関中学を受験させるため、小学校低学年のうちからいくつも塾や家庭教師を掛け持ちし、夜遅くまで勉強させる
・将来、偏差値の高い大学に行き、社会的地位の高い仕事に就くことを家庭内での前提にする
・「何事も一番であれ」と発破を掛ける
・きょうだいのうち、成績のいい子どもばかり大事にし、そうでない子どもと差をつける
・「一度でもレールから外れたら、転落人生を歩むことになる」などと脅す
……といった行為は、教育虐待に当たるといわれます。
スポーツや音楽といった「習い事」関連も対象外ではありません。
例えば「まだ保育園児なのに、土日を習い事で埋め尽くし、自由に過ごす時間を与えない」といったことも問題行為だと専門家は見ています。
教育虐待の「定義」や、「教育熱心」との線引きについては、2回目の記事で詳しく解説しますが、まず、目を向けたいのは、その弊害。
「親の要求や期待に応え続けるということは、子どもにとって、本来の自分を否定され続けることに他なりません。
そうした経験を積み重ねると、子どもは精神に変調を来しやすくなります。
児童や思春期の子どもというのは、実は精神疾患を最も発症しやすい時期。
すぐに異変が出なかったとしても、精神疾患を発症する下地がつくられます。
すると、進学や就職など、環境が激変するタイミングなどで変化に対応できなくなり、不安障害やうつ病を発症してしまう、といったことは少なくありません」。
青山学院大学教育人間科学部教授で、神経・精神疾患を専門とする小児科医の古荘純一さんはそう説明します。
たとえ親の期待通りに、偏差値がトップレベルの大学に入学できたとしても、その後すぐに授業に出られなくなったり、就職できずにそのままニート生活に入ったりしてしまう、ということは珍しくないようです。
不登校やひきこもりより心配なのは、ひたすら我慢し続ける子ども
不登校やひ引きこもり、非行といった問題につながるケースもあります。
「ただし、子どもがそうした行動に出るのは、SOSのサインをしっかり出せているということなので、まだ安心です。
一番怖いのは、子どもがSOSを全く出さず、ただひたすら我慢して親の要求に従い続けること。
要領よく結果を出せる子ならいいですが、そうでない子どもの場合、自分の存在意義を見だせなくなり、リストカットをしたり、他人を傷つけたりしてしまう、といった事態につながることもあります」。
東京成徳大学教授(心理・教育相談センター長)で、長年、小・中学校のスクールカウンセラーを務めてきた田村節子さんはこう指摘します。
そうした重大な事件にまでは至らないとしても、学校で自分より弱い友達をいじめてストレスを発散する、といった問題行動につながるケースは多々あるようです。
世の中で子どものいじめ問題が根絶しないことと、決して無関係ではないでしょう。
●100年時代を生き抜く強さが身につかない弊害も
2011年に日本子ども虐待防止学会第17回学術集会で「教育虐待」の問題を報告し、教育虐待という言葉が社会的に大きく広まるきっかけをつくった武蔵大学教授(教育心理学)の武田信子さんは、子どもが過度の教育を強いられ、偏差値社会を勝ち抜くよう強要されることによって、「他人を蹴落としてでも上にいけばいいといった偏った価値観を植え付けられてしまう弊害もある」と指摘します。
「学びというのは、自分の生きている世界に自分なりに対応していく力を身につけることです。
たとえ失敗したり痛い目にあったりしても、自分で納得できれば先に進む力になりますが、他者による理不尽な強制や比較は、傷を深くするばかりです」(武田さん)
人生100年時代を生き抜くためには、その時々の環境の変化に合わせて、一生を通じて学び直し続けていく姿勢が不可欠です。
幼少期に過度な教育を強いた結果、子どもたちが、学び続ける意欲を失ってしまったら元も子もありません。
子どもの能力や感じ方は千差万別なので、同じように親が期待をかけ、教育を強要したとしても、それほどダメージを受けない子どももいるでしょう。
ですが、子どもによっては、取り返しのつかない弊害をもたらし得るリスクもあるということを、ぜひ心に留めておきたいものです。
次回以降の記事で、教育虐待をしてしまう親の心理や、社会的背景、共働き家庭ならではのリスク、教育虐待につながるNGワードやNG行為、自分自身が親から教育虐待を受けてきた人向けに、虐待の連鎖を断ち切るための方法などをお伝えしていきます。
また、次のページで、教育虐待についての読者アンケートの結果をご紹介します。ぜひお読みください。
古荘純一 (ふるしょうじゅんいち)
小児科医、小児精神科医、医学博士。青山学院大学教育人間科学部教授。
1984年昭和大学医学部卒業。昭和大学医学部小児科学教室講師、青山学院大学文学部教育学科助教授を経て、現在に至る。
日本小児精神神経学会常務理事、日本小児科学会用語委員長、日本発達障害連盟理事、日本知的障害福祉協会専門委員などを務めながら、医療臨床現場では神経発達に問題のある子ども、不適応状態の子どもの診察を行っている。
青山学院大学では、教育、心理、保育などで子どもに関わる職種を目指す学生への指導を行っている。4月に『「いい親」をやめるとラクになる』(青春新書)を出版。
この他『教育虐待・教育ネグレクト』(共著)、『日本の子どもの自尊感情はなぜ低いのか』(共に光文社新書)、『発達障害サポート入門』(教文館)など著書多数。
田村節子(たむらせつこ)
東京成徳大学心理・教育相談センター長・教授、臨床心理士、学校心理士スーパーバイザー 筑波大学大学院出身。博士(心理学)。
3人の男の子を育てながら、長年、小中学校のスクールカウンセラーとして活動。親と教師が一体となって子どもを援助する“チーム援助"を提唱している。
カウンセリング活動の過程で開発した「石隈・田村式援助チームシート」は、全国の教育現場で活用されている。
多くの親子の悩みに触れるうちに発見した子どもの自立を促進する・促進しにくい親と子の関わり方の法則「親と子が幸せになるXとYの法則」はテレビでも話題に。
著書に『親と子が幸せになる「XとYの法則」』(ほんの森出版)など。
武田信子(たけだのぶこ)
武蔵大学人文学部教授。1962年名古屋市生まれ。
東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。臨床心理士。2児の母親。
養育・生活環境を整える中で心の問題を予防・改善する仕事に取り組む。
1999~2000年トロント大学大学院客員研究員として、ソーシャルワーク教育、コミュニティーワーク、子育て支援等を研究。
2011年日本子ども虐待防止学会第17回学術集会で「子どもの受忍限度を超えて勉強させること」の弊害について問題を提起。
「教育虐待」という言葉が社会的に大きく広まるきっかけをつくった。

今回、日経DUALが実施した「教育虐待」に関しての読者向けアンケートで、驚きの事実が判明しました。
「あなた、またはあなたの家族は子どもに対し、教育虐待をしたことがありますか?」という質問に対し、小学生の子を持つ回答者の何と50%が、現在、または過去に軽度、または重度の教育虐待をしてしまった、と答えたのです。
さらに、未就学の子を持つ親でも0%ではなく、17.6%が「教育虐待をしている(した)経験あり」と答えています。
これは教育虐待が決して一部の特殊な家庭で起こっているものでなく、実は非常に身近な問題である証しと言えるでしょう。
●「ぼく、じゆうな日が一日もないね…」
「その教育虐待が何について行われたものか」を尋ねた質問では、最も多かったのが「習い事」(42.9%)、次いで「中学校受験」(35.7%)でした。
教育虐待というと、無理矢理机にしばりつけて勉強させる、学力テストの成績が悪いと厳しく叱るなど、勉強面で行われるもの、という印象が強いですが、実際は「習い事」に関する教育虐待が最も多い、というのも驚きの結果と言えます。
「子どもにどのような教育虐待をしてしまっている(した)のか」を聞いた質問でも、「年長から小2まで、土日に囲碁と剣道の稽古を入れ、夏休みはスイミングの集中レッスン。
ある日、風呂の中で子どもから『ぼく、じゆうな日が一日もないね…』と言われ、ハッとした」「『プールお休みしちゃった』と言われるたびに、『振り替えはいつ行くの!』と詰問調で問い詰めているうちに、休んだことを隠すようになった」など、習い事に関する多くの回答をいただきました。
王道ともいえる「勉強に関する教育虐待」についても、「残っている課題・宿題が発覚したときに、冷静になれず、激怒することが多々あった」「テストの結果が悪いと罵声を浴びせることもあります」など、数多くの赤裸々な告白が寄せられています。
教育虐待をしてしまった結果、「かえって本人のやる気をそぐ結果になった」「テンションが常に低く、学校でもけんかが多い」「子どもが新しいことをやりたいと言わなくなってしまった」などと、さまざまな悪影響が生じていることも明らかになりました。
ただ、1~2ページ目の記事でもご紹介したように、こうしたSOSのサインを子どもが出し、それに親も気づいているということは、取り返しのつかない事態に発展する手前で親子共に引き返せる余地があるとも言えます。
「うちは教育虐待なんて、全く無関係」と思う方も、一度立ち止まって、専門家の警告や、当事者たちのリアルな声に耳を傾けてみてはいかがでしょうか。
本特集が、共働き子育て中の皆さんの教育方針や考え方を点検するきっかけになれば幸いです。
Qあなた、またはあなたの家族は子どもに対し、教育虐待をしたことがありますか?
新しいことに挑戦しない、学校でけんかばかり…さまざまな弊害が明らかに
Qその教育虐待の具体的内容などについて教えてください。
・虐待という言葉は使いたくないが、小学校受験を控えており、土日に4つの塾を掛け持ちしている。
平日もよく勉強時間に怒鳴ってしまう(年中=子どもの年齢や学年、以下同)
・長男が4年生になるタイミングで、本人とも話し合って中学受験のため受験塾に通い始めた。
しかし、5年生に上がってカリキュラムが厳しくなり、成績もだんだん振るわなくなってきたので、「このままでは乗り切れないよ!」と、塾の宿題やテストの準備を親が率先してやらせた。
それがますます本人のやる気を削ぐ結果になり、最終的には受験そのものを断念する事態に。(小5)
・中学受験専門塾に入れた。
これまでは毎日、学校の宿題と公文の宿題数枚をやっていただけだったのに、今では週末もほとんど遊ぶ時間がなく、塾の宿題に追われて子どもは泣いている。
年齢的なこともあると思うが、子どもはテンションが常に低く、学校でけんかも多いようだ。(小3) ・子どもの希望でサッカー、空手、バスケをやっていました。
疲れたり足が痛いから行きたくない、と言うときもありましたが、夫は一度休むとさぼり癖がつくと考えていて、無理にでも行かせていました。
(中略)一度やりたいと言ったらなかなかやめさせてもらえないことを子どもなりに感じたようで、新しいことをやりたいと言わなくなってしまいました。(小3、小5)
・年長から小2まで、土日に囲碁と剣道の稽古を入れ、通信教育もさせていた。
夏休みはスイミングの集中レッスン。月に一度は里山探検や昆虫採集に出かけ、スケジュール管理で大変だった。
ある日、風呂の中で子どもから「ぼく、じゆうな日が一日もないね…」と言われハッとした。
(中略)現在は、宿題が100点でないと、父親がきついダメ出しをするのが気になっています。(小3)
・最初は子どもが希望し、習い事を始めたが、種類が増えていき、子ども自身が負担を感じてやめたがったにもかかわらず、「あなたがやりたいと言ったんでしょ」とやめさせてあげなかった。
結果、腹痛など身体に症状が出てきて、カウンセリングを受けることになり、担当医の指示により本人が希望するものはすべてやめさせることになった。(小6)
・5年生の上の娘に、空手週3回、ピアノ週2回、英語隔週、といった感じで習い事をさせているが、さらに、中学受験のために週3回塾に行かせることになりました。
本人はしんどがってるのですが、やめるかどうかを聞くとやめないと言います。
親としてはせっかくここまでやってきたことを無駄にしたくなくて、やめてもいいと言いながらも、子どもに続けるように無言の圧力をかけているような気がします。(小5)
・中学受験のため塾に週3回、国語塾に週1回、家庭教師週3人、英語週1回。
そのために子どもが好きだったエレクトーンと体操をやめさせた。
家にいる時間がストレスなんだろうと思うが、親に八つ当たりをすることも増え 小学生にこんなことをさせていいのかと思いながら過ごしている。(小6)
・小学校入学直前にプレ講座に通わせました。机に座って授業を受ける訓練をさせるつもりが、「文章に句読点を打て」、といった具合に、想定以上にハードな宿題が。
本人が分からないというから自宅でフォローしていたが、何度教えてもできず、あまりのひどさに「何で分からないのよー!」とキレてしまいました。
泣きながら謝り続ける息子を見てハッと我に返りましたが、今思えば、年長さんで句読点を打てる必要はないし、明らかに本人の能力を超えた課題でした。
当時の私は、小学校に入学したあと、ちゃんと授業についていけるかどうかと、焦っていたのではないかと思います。(中1以上)
日経DUAL が2019年3月8日~3月25日にかけて実施。94人から回答を得た。回答者の内訳は女性が88.3%、男性が11.7%。
就業形態は正社員が78.7%、契約社員と経営者が各2.1%、フリーランスとパート・アルバイトが各3.2%。
子どもの数は1人が40.4%、2人が45.7%、3人が9.6%、4人以上が1.1%。
〔2019年4/15(月) 日経DUAL 取材・文/蓬莱明子 取材/武末明子、福本千秋〕

周辺ニュース

ページ名教育虐待、、(子どもの虐待のニュース、教育のニュース)
「勉強しなさい」エスカレートすれば教育虐待に
中学、高校、大学と、時はまさに受験シーズンです。
子どもに夜遅くまで勉強させる、成績が振るわないとつい厳しく叱ってしまう……。
子どもに考える力や知識を身に付けてほしいという「親心」ゆえの行動も、エスカレートすると虐待につながりかねません。「教...
中学、高校、大学と、時はまさに受験シーズンです。
子どもに夜遅くまで勉強させる、成績が振るわないとつい厳しく叱ってしまう……。
子どもに考える力や知識を身に付けてほしいという「親心」ゆえの行動も、エスカレートすると虐待につながりかねません。
「教育虐待」ともいえるこの行為は、命に関わるような緊急・深刻なケースが少ないため発覚しづらいうえ、加害親には虐待の自覚もないことがほとんどです。
しかし将来的に、子どもの人生を大きくゆがめる危険性もあります。
「自分は苦労したので、子どもには英会話ができるようになってほしい」「自分はもっと良い大学に行きたかった、子どもには頑張ってほしい」――そんなふうに親は自分の後悔を子どもに託しがち。
ですが、小児科医として36年勤務した経験に基づいた子育て論を『小児科医のぼくが伝えたい 最高の子育て』として上梓している高橋孝雄先生(慶應義塾大学医学部小児科教授)は「自分の後悔を子どもに託してはいけません」と言います。
虐待に至る親の心理や、子どもの勉強にどう向き合うべきかを高橋先生に聞きました。
●「家に帰りたくない」と訴える子どもたち、家庭介入難しい「教育虐待」
「教育に伴う虐待対応は、東京では珍しくありません」
都内にある福祉施設の児童虐待担当者は、こう打ち明けます。
テストで100点を取れなかった子が父親から「努力が足りない」と顔を殴られた、「有名大学卒でなければ価値のない人間」と言う父親に反論したら殴られた、「塾の宿題が終わるまで寝てはいけない」と母親に深夜2時まで勉強させられ、揚げ句の果てに物を投げつけられてけがをした……。
現場では日々、こうしたケースに対応しているといいます。
「背景には、高学歴からくる優越感や、学歴が低いことへの劣等感、家庭の孤立や親族からの圧力、経済的な困難など、親のさまざまな事情があります。
また子どもが発達の遅れや集団になじめないなどの『生きづらさ』を抱えている場合もあり、複数の要因が重なったときに虐待のリスクが高まります」(同担当者)
学校や塾の教師から「子どもが家に帰りたくないと言っている」という相談が入ることも。
しかし多くの場合、教師個人が気づいても組織として児童相談所(児相)へ虐待を通告するには至らず、SOSを出した子どもがすべて救われているとは言えません。
また親が「やってしまった」と名乗り出るケースはほとんどなく、むしろ「子どもが勉強しない」という相談が目立つといいます。
この担当者は「教育に関しては、虐待について一定の知識がある家庭でも、人権を無視した行為が見られます。子どもにとって一番身近な施設である学校などを中心に、親子両方へのケアができればいいのですが……」と話しました。
しかし、学校も対応には苦慮しています。ある小学校教師の男性は明かします。
「本人の意思と関係なく、深夜1時、2時まで塾の宿題をやらせる親はかなりいます。教員としては一種の虐待だと思いますが、学校はなかなか介入できません。児相通告によって親子両方から『余計なことをして』と責められ、不信感を持たれるケースもあります」
●「教育虐待」は過干渉の一種、関心は点数? 子ども?
高橋孝雄先生は小児科医として36年勤務するなかで、子どもをビニール袋に入れて空気銃で撃つ、舌にたばこを押し付けるといった深刻な虐待ケースに多数関わってきました。豊富な診療経験から、次のように分析します。
「教育の押し付けは、子どもへの関心が強過ぎるゆえに起こる『過干渉』の一種。虐待かそうでないかの分かれ目は、親の関心が子どもにあるのか、テストの点数や合格した学校などの成果にあるのか、だと言えます」
成果だけを見ている親は、点数が悪かったら深夜まで子どもを勉強させよう、と考えてしまいがちです。
「目標の点数に届かなかった子どもの悲しみや苦しみが見えていれば、そんなふうには考えないでしょう」(高橋先生)
特に、仕事が忙しく子どもと接する機会の少ない父親は、成果に関心が偏る傾向が見られるといいます。
子どもが結果を出すよう迫られ、強いストレスにさらされた結果、不登校や髪をむしって食べるといった問題行動を起こすこともあります。
「教育虐待」の難しさは、ほとんどの親が「子どものため」だと信じ切って勉強させており、虐待の自覚がないことです。
しかし高橋先生は「子どもへの『あなたのため』は、『親自身のため』と言っているのと同じです」ときっぱり。
「子どもに語学を習わせたり、受験させたりする理由の多くは『自分は英語で苦労したので、子どもには英会話ができるようになってほしい』『高校のときもう少し勉強して、もっと良い大学に進めばよかった』といった親自身の思いからです。
しかし何が幸せかを決めるのは、子ども自身。自分の後悔を託してはいけません」
「もし『英語を話せたらなあ』『あのスポーツをやっておけばよかった』と思うなら、子どもに託さず何歳からでも自分で始めてください」とも付け加えます。
●「最後はあなたが決めていいよ」と子どもの決定権を尊重
子どもが勉強や受験へのやる気を失ったときも無理強いせず、まずは話を聴くべきだといいます。
「『好きな異性が地元の公立中学に行くから受験したくない』などのたわいない理由も、本人にとっては一大事。
『あの子は優しいし、一緒にいるのは楽しいよね』とまずは共感した上で『でも、お母さんはこう思う』と、考えを伝えてください。
肝心なのは、『最後はあなたが決めていいよ』と子どもの決定権を尊重することです」
こうしたプロセスを踏むことで、子どもには「親はたくさん話を聞いてくれたし、自分で決めていいと言ってくれた」という納得感が生まれます。
その結果、「お母さんがあれだけ言ってくれたのだから受験してみようか」と、親の意向に沿った決断を「自分から」するかもしれません。
基本的な能力は遺伝子が担保 親は安心して
高橋先生は、障害があるなどの事情がなければ、計算力や語彙力、走る力などの基本的な能力は「遺伝子によって担保されている」と話します。
「子どもが社会で生きていく力、言われたことを理解し自分の意思を表現する力は、堅牢な遺伝子によって確保されています。
だから親は虐待してまで勉強させる必要はない。安心してください」
これは「能力は遺伝子で決まるので、いくら勉強しても無駄」という意味ではありません。
遺伝子は「オン」と「オフ」を繰り返しており、「オン」の状態が長いと使われやすく、「オフ」の時間が長いと使われにくくなります。
継続的な学習は、遺伝子をスムーズに、効率良く使うことにつながるといいます。
高橋先生は「努力して身に付けられることもあるのです」と強調します。
「ただ、遺伝子が担保する以上の力をわが子に期待し、無理やり引き出そうとするのは親として過干渉。そんなことをしても多くの場合、得られるのは遺伝子の『ぶれ幅』程度の力にすぎません」
受験に関しても、学力よりはむしろ志望校について親と話し合った経験や、自分の意思で進路を決めたという自己肯定感の高まりこそが、その後の人生にとって重要だと指摘します。
●成長して引きこもるケースも 自己決定力が「やりたい」アンテナ育てる
「親から虐待を受け、押し付けられるままに勉強している子どもは、自分自身で『やりたいこと』を見つけるアンテナがなくなってしまう。
すると親の要求に応えられなくなったとき、一歩も前に進めなくなる恐れがあります」と高橋先生は話します。
子どもが難関を突破して志望の中学や高校に進んでも、友人とのちょっとしたトラブルで学校生活がうまくいかなくなったり、大人になって引きこもったりするケースもあります。
親にすれば、教育の機会を与えなければ、子どもの才能が埋もれたまま終わってしまう、という不安もあるでしょう。
しかし高橋先生は「子どもに才能があれば、親が掘り出さなくとも自分で『これをやりたい』『これが得意だ』と悟るでしょうし、周りの人にも必ず見いだされます」と言います。
「親が子どものやることを全部決めていては、『やりたいこと』を察知するアンテナは育ちません。
何事も自分で決める力をつけさせ、アンテナをたくさん立ててあげてください」
高橋 孝雄(たかはし・たかお)慶應義塾大学医学部小児科教授
日本小児科学会会長。小児科医としての勤務経験は36年に上り、現在も小児科診療や医学教育、脳科学研究に携わっている。
慶應義塾大学医学部卒。近著『小児科医のぼくが伝えたい 最高の子育て』(マガジンハウス)。
50代でフルマラソンを始め、3時間半を切るタイムを維持し続ける自称「日本一足の速い小児科教授」。
〔2019年2/5(火) 日経DUAL(取材・文/有馬知子 イメージ写真/鈴木愛子)〕

子に勉強を強いる「教育虐待」 受験期、親の思い押し付け 信頼関係築くことが大切
子の将来を思い、教育熱心になる親は多いが、子どもの受忍限度を超えて勉強を強いることは「教育虐待」という人権侵害になる。
受験を控える親が陥りやすいが、虐待としてはまだあまり認識されておらず、研究も進んでいない。当てはまる事例と専門家の意見を紹介する。
愛知県内に住む会社員女性(50)は六年ほど前、中学受験をさせようと、当時小学三年生の娘を実績のある大手進学塾に入れた。
娘の学力レベルは真ん中くらいで「頑張れば上に行けると、私がその気になった」と振り返る。
平日でも毎晩、午前零時すぎまで自宅の机に二人で向かった。
成績順位が張り出される塾のテスト前は午前二時までも。
周囲から「テストで点を取るには家庭学習が大切。親の力が分かる」と言われ、順位に一喜一憂した。
志望校の過去の入試問題をコピーし、何度も解かせ、できないと額をたたいた。
そんな日が一年くらい続いたある夜、「分からない」と泣く娘にイライラし、思わず、机に鉛筆を突き立てた。
親子共に限界を感じ、結局、受験は諦めた。
女性は言う。
「中学受験は“親子二人三脚”という雰囲気がプレッシャーだった。娘のためと言いながら、お金も時間も費やし、負けられないと意地になっていたのは私。娘の中にいつの間にか自分が入り込んで、自分が受験するような気持ちだった」
こういったケースは高校や大学の受験でも見られるが、虐待と捉えていない親や教育者も多い。国の児童虐待の防止等に関する法律の定義にも、教育虐待は含まれていない。
文部科学省初等中等教育局では、児童生徒に対する体罰の実態は調査しているが、教育虐待に関するケースは把握しきれていない。
厚生労働省でも児童虐待や不登校などを調査しているのみで、担当者は「暴力を振るえば児童虐待だし、心理的虐待やネグレクト(育児放棄、怠慢)に含まれるかもしれないが…」と、区別の難しさをにじませた。
だが、学校や塾などの現場では、子どもの様子からこうした親子関係に気付くことが多い。
愛知県内の小中学校で二十五年間、養護教諭として勤めた桑原朱美さん(55)は「受験前に学校でイライラしている子は要注意。周りが気付いたら、まずは休ませ、本心から受験を望んでいるのか、親子でもう一度考えて」と呼び掛ける。
コミュニケーション能力を高める学習法を勧める学習塾「コクリエ国語教室」(名古屋市中村区)主宰の黒川葉子さん(55)は「中学受験は合否にかかわらず、学習方法を学び、知識を高める上で役に立つ」とした上で、「第一志望に合格した子でも、親のリードが強すぎると、入学した途端に勉強をやめ、ゲームや携帯電話に依存する。そういう子は『すべて親が決め、親からやらされた』という思いが強く、自尊感情をもてない。大きくなって家庭内暴力に発展したり心を病んだりするケースもある。親子の信頼関係を築いた上で、受験に挑戦するのが望ましい」と話している。

育児・教育ジャーナリスト おおたとしまささん 「親は無力、子の力信じて」
育児・教育ジャーナリストで「追いつめる親」(毎日新聞出版)などの著書がある、おおたとしまささん(42)に、教育虐待について聞いた。
      ◇
教育虐待とは、「あなたのため」という大義名分のもとに、親が子に行きすぎたしつけや教育をすることです。
親には、二つのタイプがあります。
一つは、自分に学歴コンプレックスがあるタイプ。苦労した経験から、子どもには学歴をつけたいと願っています。
自分の屈辱を子どもで見返したい思いもあります。
もう一つは、高学歴タイプ。
常に競争に勝ち、学歴を生かして人生を歩いてきたので、それ以外の道を知らない。
学歴がないことを恐怖と捉える面もあり、子どもにその恐怖が連鎖する。ハウツー本などを読む正解主義的な人も陥りやすい。
方法論に当てはめて導こうとするんですね。
最近では、教育がビジネスとして語られがちです。
社会で即戦力として通用するような人材育成が求められていますが本来、教育の価値は可視化できるものではありません。
中学受験では、大学進学率ではなく中高一貫という環境の中で、どう育てたいのかを考えるべきです。
小学生は自分で決められないことが多いのも事実で、親が手を貸すこと自体は間違いではない。
つらさと向き合うことで、子どもが成長できる面もある。
肝心なことは、親の力を過大評価しないこと。親は無力です。
子ども自身の生きる力を信じられれば、虐待にはつながりません。
〔2016年2月29日・貧困ネット〕

個人用ツール
名前空間
変種
操作
案内
地域
不登校情報センター
イベント情報
学校・教育団体
相談・支援・公共機関
学校・支援団体の解説
情報・広告の掲載
体験者・当事者
ショップ
タグの索引
仕事ガイド
ページの説明と構造
ツールボックス