●文通番号8-09  ある日の日記より

とべないホタル 〔石川県河北郡 女 27歳〕

 朝、雨の音で目覚めた。パジャマのまま、窓の側に行きカーテンを思いっきり開け、一杯のホットコーヒーを飲みながらボーと外の風景を眺めた。

 無心で心が空っぽになり、ただひたすら雨の音に耳を傾ける。そんな何げない一時が淋しい私の心の空洞をうめ、優しく包んでくれる。ぬくもりで一杯にしてくれる。そして雨の音が一人じゃないよ。そのままの貴女で十分素敵だよって、語りかけてくる気がした。

 この季節は人恋しい。ロマンチックな季節。しとしとと降る雨の音は、嫌なこと悩みを全部流し、心の掃除をしてくれる。いやしの音、静かな時の流れのここちよいメロディ。

 貴女は、今頃何をしていますか? 仕事場へ向かう途中で車を走らせている時? 同じ季節を過ごし何を思い、何を感じているの? 元気ですか?

 この5年間私の心の住人となり、貴女に語りかけ、いろんな出来事を一緒に過ごして来たね。貴女がいたから、貴女と巡り会ったからこそ、私がここにあるとそう心から思える私になった。会いたい、本当は今すぐ会い、顔が見たい、だけど……。

 少しはこんな私も、5年前より成長したのかなあ。いま私は大人への階段を一歩一歩登り始めている。

 貴女も時々、私と過ごした時を懐かしく思い出してくれる時もあるのかなぁ、いつかどこかで偶然笑顔で会えるといいね。

 懐かしさと切なさで涙になる。

 思い出の一ページへ

 雨の中傘をさし、散歩すると、アジサイの花が私の心をとらえた。七変化に、移り気なミステリアスな花。その時、その時にいろんな色に染まり、表情を変え私の心を魅了する。不思議な花、雨がとてもお似合い貴女は自分の気持ちに素直で正直で、小さな自己主張、自己アピールしている。その傍らでかたつむりがアジサイの葉っぱに寄りそっている。

 二人は仲よしで一番の安心な居場所。私と目が合うと恥ずかしそうに自分の大きな殻に顔を隠してしまう。

 道ばたにカエルがゲロゲロと合唱している。みんな与えられた命を一生懸命に輝かせているんだね。

 雨の日が、何日も続くとだんだん嫌になって憂うつになる。気分が重くなってしまう。

 人の心って本当に気まぐれで我がままだよねぇ。でも物事は考えよう。気持ちの持ちよう。お日様のありがたさがわかる。梅雨があけると、もう少しで私の大好きな季節がやって来る。元気でね。

☆ ☆ ☆

WordPress Themes