●文通番号95-01 ある団体の話
さいおぶしぇる
知人と引きこもり支援に関する話をしていると、さまざまな団体があることを教えられ、ときにはその活動ぶりに深く考えさせられることがあります。たとえば以前存在したある団体などは、活動の内容やおかれた状況こそ一見、不登校情報センターに似ているようですが、その実態は劣悪で、活動も失敗したそうです。
スタッフはやはり引きこもり経験者(といっても実はその団体を居場所にしている現役ひきこもり当事者がほとんど)だったそうですが、「引きこもりイコール悪」というプレッシャーに負けて外に出てきた人や、自分よりみじめな人に手を差し伸べることで自分をなぐさめたい人ばかりだったようで、切実に支援を必要とするような当事者の要望に応じられる状況とは到底言えなかったそうです。
またそこの理事長が、そのような場の人間関係に発生しがちな「力学」を見抜く目をもっていなかったばかりか、本人も利用者に対してウソはつく、約束は破る、謝りもしないというありさまだったそうで、とてもこのような団体の代表たる素質に恵まれているとは思えない人のようでした。
理事長が立場のけじめに無頓着な人だったためか、発行するミニコミ誌も「ひきコミ」とは異なり、読者、作者、編集者といった区別もない、いかにも仲間うちの回し読みにふさわしいレベルのものだったそうです。
一つの部屋に集まれる程度の人数でならこのような形の活動も成立したかもしれませんが、無謀にもこの団体はスタイルを変えずに活動を全国規模に広げようとしました。
支援する側とされる側、あるいは雑誌を支える三者の間に当然わきまえられるべきけじめもないまま、いったんは参加者が増加したために、活動は混乱をきたし、やがて機能不全の悪循環に陥ってゆきました。さらには作品発表の裁量や個人情報の把握といった点で、遠隔地の当事者と団体の事務所を居場所とする当事者の間に不公平が生じるという問題も浮き彫りになりました。
見かねた知人は、「ボランティア人材紹介機関を利用して支援活動や雑誌編集の即戦力となるスタッフを急遽雇うべきだ」と提言しましたが、理事長は「能力が備わるまで気長に待つ」という理念をタテに、言下にこれを却下。
結局、スタッフどころか理事会までが、引きこもり当事者をかき集めて名義を借りた有名無実のものだったため、この理事長の非現実的な方針を批判する人も現れず、この団体はいわば「理事長の私物」のまま衰退の一途をたどり、ついには消息不明になったということです。
思うに、この団体が最初からそのスタイルに合った規模での活動を貫いていれば、問題は起きなかったのでしょうが、一時にせよ、自らの才能を顧みずに多くの引きこもり当事者の期待を集め込み、結果としてそれを裏切る羽目になってしまったことは、やはり避けるべき悲劇だったといえるでしょう。
このような団体を運営することの難しさをつくづく感じるとともに、顧みて不登校情報センターにはそのような困難の中、ぜひ正しい針路を目指して活動を維持して頂きたいと祈らずにいられない話です。
ご参考になれば、と思い出したことを書かせて頂きました。
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