Archive for the ‘詩’ Category

9. 大きな手

金曜日, 8月 5th, 2011

はたらく人の手
大きな手
油まみれの
重みのある手

その大きな
たなごころで
わたしは撫でられ
育まれ

はたらく人の手
素敵な手
物をうみだす
魔法の手

岩のような手は
恥ずかしげだったけれど
わたしは子供ながらに
うやまった

すべてのたましい
融け入るところ
大なる源へ
その手は還った

大きなその手を
忘れない
わたしのペンだこなんて
小さすぎます、おじいちゃん

8. 母なるものの前に

金曜日, 7月 8th, 2011

荒れ狂う海の面前
母なる海よ
母なる大地
そのふところに
僕は立つ
母なる空の夜の星
漆黒の空を僕は見上げる

僕はどこへ行くのだろう
ふるさとよ
無よ
僕はどこへ
帰ってゆくのだろう
おかあさん
あなたは一個の人間として
僕がどこへ行くと思うでしょうか

疾風怒涛
海岸線はうねっている
空は鳴いて
山が揺れる
母なる海よ
母なる自然
僕をはらんだ一個のおんなを
母と呼ぶという
が帰るところはそこではない
僕はそこへは帰らない
そして僕はいったい
どこへ行くというのだろう

疾風怒涛
母なる海に
面と向かって立っている
今ただここに立っている

7. 感覚世界

金曜日, 7月 8th, 2011

視ること超えて
見える闇
聴くこと超えて
聞こえる沈黙
言うこと超えて
云われる言葉

もはや
見も聞きもしない
言葉が造る
虚構の世界を

観念のお化けに
呪われて
今日も脳みそだけが
起きている

体中の
感覚器官からの入力が
頭蓋のうちに
虚構を造る

目が霞んでくる
耳が遠くなってくる
感覚器の身体性
神経の末端の有り様で
世界はどう有り得るか

6. 六月

金曜日, 6月 10th, 2011

曇天をかぶって
つらつら歩く
濡れたアスファルトの
匂いに包まれて

暗澹たる世界の
ぐらぐらたぎる地
触れたあしさきの
熱く勢いのある

汗ばむ肌に
風のかがやき
麦秋の黄金色の波がしら

足踏みははだし
細胞のさざめき
郷愁も頭蓋のうらの波がしら

5. 落下

金曜日, 6月 10th, 2011

ポタリと
命の落ちる
道の上
アスファルトから
立つかげろう

コンクリートのすきま
小さな草が生えている
地下にしみた
血を吸って
ポタリと落ちた
命を吸って

屋上からの直線
果実の頭が割れて
飛び散る液体
道の並木の
葉が揺れる

ハラリと
影の落ちる
太陽の下
明暗分かつことなく
命の
落ちきるまで

4. 徹底する夜

金曜日, 6月 10th, 2011

窓の縦線だけが
くっきりと濃く
あわあわと振れる宙
影の格子の濃さを嗅ぐ

遠くて近い
雑踏のざわめきは
緊迫する耳の内圧につれ
次第に弛緩し浮遊する

易しい無理を
口びるにのせて
縦線だけが濃く強く
機械化してゆく目に貼りつく

窓の向こう
月は
赤く照って居て
世界中の匂いを集めて嗅ぐ徹底的な夜

3. 悲しみよ

金曜日, 5月 20th, 2011

悲しみよ腕の中へ
ぼくは
手首をかき切る覚悟で
彼らを
自分の腕の中へ
つかまえよう

悲しみよ腕の中へ
ぼくは
どんな人との関わりに対しても
独りをおそれたことはなかったけれど
ぼくとあのひとが
もう再びは出会わないということに対して
身も焼かれて果ててしまう思いだ
だからぼく
悲しみをこの腕の中へ
つかまえようとする

悲しみよぼくは
広い空や
家々の屋根や
電線やベランダなんかを眺めながら
手すりをのり超えてしまいそうなのさ

悲しみよ
ぼくは生きているが
いいのか

悲しみよ
この腕の中へ
ぼくは
夜明けの空に見守られながら
地面に血を散らす思いで
きみらをつかまえよう
                九五・九