178 紙封筒

9月 2nd, 2023  / Author: 中崎シホ

紙封筒に

足を

すべり込ませる

 

乾いたシーツのように

こもる体温

あるいは

薄っぺらな閉塞

 

体を覆う

紙一枚

 

意識なきまま

文字もなく

どこへともなく

なにかを送る

 

どこへゆくにも

身のひとつ

 

閉ざされたまま

開かれることは

あるのだろうか

177 四苦八苦

8月 1st, 2023  / Author: 中崎シホ

生まれ落ちて

老いてゆきつつ

病んで臥せて

死に臨む

 

愛から離され

怨みと会わされ

求めを得られず

五感の盛り

 

苦はなにか

世の中の苦を

文字の列にして

あらわす意味

 

意味の無意味さ

すべては

わからなくていい

感じて摑みたい

176 最後の仔

7月 1st, 2023  / Author: 中崎シホ

ハンドサインで

助けを求めた

サインの意味も

知らないまま

 

宇宙内外の

はるかどこかに居るはずの

僕の親玉に

サインを送る

 

見放された仔の

無力と絶望

 

彼方からくる

暗示ももはや

途絶えがちで

 

混沌のうちから

この生を受けるも

生まれ落ちた衝撃で

使命も指令も

そんなものがあったのかさえ

忘れてしまった

 

そうして僕は

つぶされる

全身全霊

つぶさに滅びる

 

あなたの

最後の仔になる

覚悟はすでに

できていたのに

175 孤独のうた

6月 1st, 2023  / Author: 中崎シホ

孤独

個の毒

ことごとく

 

苦悩

愚の脳

このうえなく

 

恨み

うらやみ

暗闇のなか

 

夢想

無の相

嘘うたう

 

存在

その際

空ぞらしく

 

そののち

祈る価値

174 空に飼われる

5月 1st, 2023  / Author: 中崎シホ

僕らは空に

飼われてる


バクテリアも

マウスも

ヒトを知らない


そして

ヒトもまた

何かを知らない



見得るものしか

見ていない


見得ないものを

見る覚悟


自由意思で

生きている

と 信じるも

そもそも自由が

あり得るか


そうして僕らは

空に

飼われてる

173 愚かな己の現れ

4月 2nd, 2023  / Author: 中崎シホ

自分らしさを

信じない


個体の差など

とるにたりない


幻想としての

自己の表象


個性の主張の

おごりと空虚さ


 個人といえども

起源は同じ


始まり終わり

みな同じ


あなたと僕の

相違があるとき


それはあなたと僕が

真に芯から


対人してると

いえるとき

 

172 音のない声

3月 1st, 2023  / Author: 中崎シホ

かつて

人の夜は

静寂だった


無音の

冷やかな空気に

包まれる


音を伴わない

声を聴く

動かない静けさの

声を聴く


沈黙に耐えられぬ

饒舌

黙考に耐えられぬ

脳内


夜の果て

明暗入り混じり

日のかわり目の

きしみを聞く