197 空と地のあいだで

7月 2nd, 2025  / Author: 中崎シホ

人差し指を天に向け

祈りの言葉は

無言のム

かぶる天空

重たい空っぽ

 

足の下には地の圧迫

固い地面から

伝わる力は

この足首を

折る力

 

空に樹々が突き刺さり

草の根は土を掴み取る

草木の眠るうしみつどきに

天空と地の

黒ぐろとどろく

 

空の無

地の獄

空と地のあいだに立って

茫々たる地平を

あたらしく見る

196 掌

6月 1st, 2025  / Author: 中崎シホ

手のひらの

生命線をかき切って

自らを

追いこみ生きる

 

手のひらを見る

その目を信じて

あるはずのない

バグを見つける

 

手のひらを

見れば見るほど

自らの手という

奇妙な感覚

 

手のひらどうし

合わせて無心

何者でもない

モノを目指す

 

手のひら開いて

握るまで

時間をかけて

拳も堅く

195 まだ雨が呼んでいる

5月 2nd, 2025  / Author: 中崎シホ

 

まぢかに雨の感じる夜

 

屋根がある

布団がある

申し訳ない気もちになる

 

雨の強い音が心をうがつ

やむにやまれず

窓を閉める

 

少しの静寂に居つつ

雨はまだ僕を呼んでいる

また窓を開けた

 

それが

今晩ひとばんの話

ただそれだけの夜

 

やがて雨がやんだ

194 手にはペンを

4月 1st, 2025  / Author: 中崎シホ

ほんとうのことを

描こうとして

もがく

 

真逆を描けば

ほんとうのことは

反転表示で現れるか

 

ほんとうのことは

描かれ得ない

ものかもしれない

 

ほんとうのことは

隠喩のなかに

かくされるのみ

 

白昼のさなかにも

影もうつろに

かくされるのみ

 

ほんとうのことを

描こうとする

試み

 

手にはペンを

ペンには力を

力には愛を

193 辺地の仔

3月 2nd, 2025  / Author: 中崎シホ

切望するのは

この世からの脱却

解放

永遠の生

 

遠望するのは

他の次元の宇宙

もはやここから遠く乖離した

真の宇宙

 

依存物と訣別しても

一季節の隔離の後も

僕らは

宇宙船には乗れない

真の宇宙の仔にはなり得ない

 

死の命を受けた

見はなされた

辺地の宇宙の仔

派生の宇宙の仔

 

真の宇宙の仔である

自分の一人に向けて

羨望と嫉妬の念を送る

そしてそれが届くことはない

192 声

2月 1st, 2025  / Author: 中崎シホ

夜に含まれる

小さな発声

遠い鉄道の摩擦音

ラジオのノイズ

盛りのついた猫の声

緊急車輌の走るサイレン

 

真夜中の覚醒に

耳をすます

かすかな音が

言葉を紡ぐ

消え入るような

言葉を紡ぐ

 

声なき者の

弱小さ

大きな声は

不敵な力をもつ

声なき不具者は

ただ耳をすます

 

自我を主張し

大きな声で叫ぶより

声なき者の

声を聞く

紡がれる言葉の

糸を読みとる

191 夜の銃声

1月 1st, 2025  / Author: 中崎シホ

耳元で枕が

パン

と音をたてる

 

頭蓋をつらぬく

かわいた一撃

この夜最期に

落ちていく

 

すべてが止んで

すべては闇に

そうして時は

喪失するまま

 

ひと夜ひと夜

死に至る

無に帰す眠り

死生のあいだ

 

一発の銃声を

最期の覚悟で聞いている

際立つ極み

命の痛み

 

貫かれた頭は

二度ともち上がらない

身体はなれて

夢幻の世界