Archive for the ‘詩’ Category

41. 天地の還流

土曜日, 11月 10th, 2012

天も地も
親しみあう闇
眠りも覚醒も
溶けあう夜更け

空と森と土たちの
交わる全体性
流れるように
循環する

暗黒の空の下
森の樹々は眼を閉じている
樹々の足元で
しだが歯をきしらせている
しだの足元で
こけは地面にささやいている
その地面のずっとずっと奥深く
亡霊や悪夢たちが
いんぎんにひそやかに
破壊の舞いを踊りつづける
地下流の渦は
ごうごうと音をたて
暗黒の空にも昇る勢い

40. 発語

金曜日, 10月 5th, 2012

ことばが
うたを欲っする
ポエジーが
リズムを欲っする

その力動
具象の発現
波の流れに
まかせるちから

口ずさむのは
名状しがたい
祈りのメロディ

大丈夫
世界は今もうつくしい
一期一会に発語する

39. 月

金曜日, 10月 5th, 2012

あるスピードをもって
街の夜明けをめぐっていると
かどを曲がるたび
まあるい月が現れては消え
消えては現れるのだ。

四角い建物の影に
あるいは影から。
黒い樹々のあいだに
あるいはあいだから。

僕は月の姿に
畏怖のような気もちをいだき
月に支配されてゆく過程にあった。

不本意ながらも惚れてしまった
愛情きわまる憎しみなのだ
見ていたいだけなのに
逆に見られて萎縮してしまう
ふがいない僕自身への憎しみなのだ。

つづきうねる道はただくらく
それだからなお
月の光は冴えている。

街の夜明けをめぐっていると
月の姿は美しく
現れて消え消えて現れる。
僕は自由に冒されていて
月に支配されてゆく
その錯覚に恍惚とする。

38. 存在の秘密

金曜日, 9月 7th, 2012

生まれぬ仔を
待望して止まないように
生まれぬ言葉の
形なき存在を想う

非存在という
存在のありかた
存在なきことは
ひとつの救いでもある

発そうとした言葉を
失いつづける
幾十年

存在の秘密を
へだてる
一五0億光年

37. 木偶の坊

金曜日, 9月 7th, 2012

生きてるだけで
お腹すく
腹がすくから
物食べる
食べる物買う
金が要る
金が要るなら
働くこと
それができぬ
でくのぼう

そつなく
無理なく
抜け目なく
生きるためには
知恵が要る
知恵が要るから
書を開く
開いてみても
文字は筒抜け
でくのぼう

この世はきっと
こんなもの
あの世もきっと
あんなもの
生きているから
考える
一所懸命
かんがみる
それでやっぱり
でくのぼう

36. 夏の晩年

金曜日, 8月 10th, 2012

切迫した最期の
夏の到来は
記憶の中でぶよぶよしつつあって

ゆっくり弛緩しつづける
こよりみたい
つづく夏を重ねるたび

もはや静止でも
昂ぶりでもなく
無為のまま指先にふれてる緊迫の糸

無意にさぐる指先で
ほぐすこよりみたい
あの夏からすべての時間

来ぬ
すべての時間
脂汗と共にぶよぶよしつつあの夏の熱

切迫してなお
終わらぬ夏の
捻じ押出されるこよりみたいな

35. 座る非在

金曜日, 8月 10th, 2012

重みのみ
かたどられて
古びたソファに
なお
居つづけるものあり

存在しないことの
実在
居つづける
無きもの

その日の窓枠が低すぎたので
思惑どおり
その人は落ちてしまった
心に
恐れが落ちてきたのだ

時間の積もる
ソファのくぼみ
存在のふち
落ちた人の
存在のふち

嗚呼
嘆きでなく激しささえも
なにもない
畏れのままに
云ってはならないフレーズだらけ

心の
なにかが
落ちてくるのだ

重みのみ
かたどられて
いったい
こんなふうに在るという事が
あるのか