67. とむらいの逸話

式もひととおり終わり
厳粛な空気も抜けて
片付け始められた斎場の一隅では
親戚連中がくつろいでおしゃべりしているところで
ちょうど叔母さんが  
「うちのおじいさんがガンで死んだ時は・・・」
というような話をしている

ところが
すでに荼毘に付されたはずが
何かの手違いがあったらしく
まだ残っていた死体が
背中を痒がって
半ばもがくようにしながら
半ばは面白そうにして
ごろごろこちらへ転がってくるのだが
皆知らんぷりして話を続けていて

死体は   
「誰がガンで死んだって?」
と興味深げに聞いたが
皆話を続けていて誰も答えないので
仕方なく私が
この人のおじいさんだと教えてやった

死体は背中を痒がって
手を伸ばしても届かないので   
「掻いてくれ、掻いてくれ」
と身をよじっていたが
皆は聞こえているはずなのに
それでも知らんぷりで話しているところは
少し滑稽な感じがするもので
それでもまだ死体は   
「掻いてくれ」
と言ったが
皆がなお無視しているのが私には
いたたまれない気持ちがして

私に向かって言ってるのでもないので
掻いてやらずに
話の輪からすっと抜けて
その場をはなれたわけなので
そのあとのことは知らない

Leave a Reply