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国民の豊かさを測る新しい尺度 Inclusive Wealth

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==国民の豊かさを測る新しい尺度 Inclusive Wealth==
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==国民の豊かさを測る新しい尺度 Inclusive Wealth==
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GDP(国内総生産)を超える国民の活動を表示できるものが見つかるのでしょうか。<br>
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これを大局的な見地から示す本があったので、まずその内容を紹介します。<br>
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横浜国立大学経済学部テキスト・プロジェクトチーム(編)『ゼロからはじめる経済入門——経済学への招待』(有斐閣コンパクト 2019年、『テキスト』と表示)からの引用です。<br>
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いつから始まったのかは明確には知りませんが国民の活動の全体を表わす初めはGNP(Gross National Product)でした。<br>
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——国民が1年間に新たに生み出した財・サービスの総額です。<br>
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過去の生産物(在庫)や金融資産を含まず、また原材料などの中間生産物額も含めません。<br>
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*GNP=国民の総生産額-中間生産物<br>
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ある時期からGDP(Gross Domestic Product)が登場します。GNPでは国外で働く人や海外支店の所得も含まれます。<br>
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他方では国内の外国人や外資系企業の生産活動は含まれません。<br>
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経済のグローバル化が進み、その国で生産額を把握するのに必要になったため、GNPに代わりGDPが採用されてきました。<br>
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*GDP=GNP-(海外からの所得-海外への所得)<br>
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GNPが属人的な指標であるのに対して、GDPは属地的指標であり、各国の経済活動の大きさを比較しやすく、資本にとってどの国での事業展開するのか判断しやすい材料として説明されます。<br>
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ところでGDPでは表示しづらい問題が明確に意識されました。<br>
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『テキスト』では『豊かさの指標』と扱われます。<br>
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「環境に配慮しない工場設備の場合。発生した汚染を取り除くための追加的支出であっても、GDPの増加に寄与する。<br>
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国民が不健康な暮らしをしていて、医療費が多く必要とされていたとしても、それもGDPの増大につながる。<br>
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また、貨幣換算されない家事労働や介護労働はGDPに貢献しない」…「経済的生産の総計が増えたとしても、福祉や向上するかどうかは別問題」(p22)。<br>
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国の資産の蓄積(ストック)から捉える国富(Wealth)。<br>
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これには機械・建物など企業が有する実物資産、住宅などの個人資産、国や自治体の提供する道路・鉄道など産業関連社会資本、上下水道・学校・公園などの生活関連社会資本、地下資源が含まれる。 この総資産から国民が所有する外国株式・国債、外国の土地など外国人保有の資産を差し引くことで国富が算出される。<br>
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*国富=実物資産+対外純資産。<br>
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しかし集計から漏れる富も存在している。<br>
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包括的富(Inclusive Wealth)算定の試み。従来的な生活指標から持続可能性を視野に入れ、経済的市場に基づかない福祉の側面も統合する指標を模索されている。<br>
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その包括的富は高い生活水準や充実した福祉と結びつく経済活動、それを支える基盤の物的資本(住宅・工場・機械・インフラ)、人的資本(教育・健康)、自然資本(天然資源・生態系サービス)、その他(原油価格・生産性の向上、人口変化)から成る(p23)。<br>
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経済活動の基盤に、土地、水、きれいな空気、天然資源という自然資本が位置づけられるのが特徴。<br>
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生態系サービスは、供給サービス(食料、繊維、燃料、淡水など)、調整サービス(気候調整、洪水制御、水の浄化など)、基盤サービス(栄養素の循環、土壌形成など)、文化サービス(景観、レクリエーションなど)として分類。<br>
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『テキスト』では、豊かさを表わす指標として「包括的富概念の実用化が望まれる」(p24)としています。<br>
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私は、「貨幣換算されない」家事や介護などがGDPに含まれない点を別に考えてみたいと思っています。<br>
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さて包括的富(Inclusive Wealth)を、企業活動として考察した1冊があります。<br>
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(松江英夫『「脱・自前」の日本成長戦略』,新潮新書.2022年)<br>
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松江さんは「成長の再定義」として、「企業における成長とは「企業価値を高めること」とし、売上げを伸ばすこと以上に、「利益やキャッシュフローを継続的に上げられるか」を問います(p134)。<br>
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その答えは「経済的価値と社会的価値の両立」といいます。<br>
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それらは国連が目標とする持続可能な開発目標(SDGs)やESG(環境、社会、ガバナンス)との結びつきになるのですが、もう一歩ふみ込んでいます。<br>
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サステナビリティー経営は、“事業活動そのものを通して社会的価値を高める”ことが求められ…“社会的価値を高める活動を通して経済的価値を高めるために、本業を再定義することが本質です”(p137)と言います。<br>
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私には大いに賛同できる「再定義」ですが、なかなか高尚・深遠なる目標です。<br>
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松江さんはこの射程において、Inclusive Wealthをもってきており、訳語に「包括的富」に代わり「新国富」をあてます。<br>
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これ国連環境計画・国連大学により実践的研究が進められているといいます。<br>
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包括的富(新国富)においては、先に記した人的資本、人工資本、自然資本の3つの資本の合計を視野に入れて、ストック(資産)で計算される指標です。<br>
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GDPに代わり、包括的富(Inclusive Wealth)が国際的に採用されているとはいえません。<br>
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というより各国で(日本でも)、それが数値として発表されているのかどうか、よく知りません。<br>
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しかしいずれそうなるものと考えましょう。<br>
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しかし、包括的富ではカウントされないものがあります。<br>
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市場取引に入らない家内労働、地域活動、物々交換…などです。<br>
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家内労働は、炊事、掃除、育児、介護などがあります。<br>
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地域活動などはボランティアに属しますが、一般住民(自治体等で雇用される人を除く)の活動はカウントされません。<br>
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物々交換は、商品経済(貨幣経済)の普及が遅れている後進国では大きな役割をもっており、国際比較ではこれがカウントされていないため、先進国と後進国の格差が際立ってしまいます。<br>
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この家内労働、地域活動、物々交換を収めた国民生活の全体像は、たとえば日本の中世以前の社会を考えるときには、より重要な要素になるはずです。<br>
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今読み始めているより文献にこれを表示する方式が考えられています。<br>
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抽象的なのでここでは何も書けませんが、それを紹介できる時がくるかもしれません。<br>
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[[Category:無償の家事労働に価値評価を考える試作論|ゆたかさをはかるあたらしいしゃくど]]
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[[Category:不登校情報センター・五十田猛・論文とエッセイ|20240110]]

2024年5月11日 (土) 20:57時点における版


国民の豊かさを測る新しい尺度 Inclusive Wealth

GDP(国内総生産)を超える国民の活動を表示できるものが見つかるのでしょうか。
これを大局的な見地から示す本があったので、まずその内容を紹介します。
横浜国立大学経済学部テキスト・プロジェクトチーム(編)『ゼロからはじめる経済入門——経済学への招待』(有斐閣コンパクト 2019年、『テキスト』と表示)からの引用です。
いつから始まったのかは明確には知りませんが国民の活動の全体を表わす初めはGNP(Gross National Product)でした。
——国民が1年間に新たに生み出した財・サービスの総額です。
過去の生産物(在庫)や金融資産を含まず、また原材料などの中間生産物額も含めません。
*GNP=国民の総生産額-中間生産物
ある時期からGDP(Gross Domestic Product)が登場します。GNPでは国外で働く人や海外支店の所得も含まれます。
他方では国内の外国人や外資系企業の生産活動は含まれません。
経済のグローバル化が進み、その国で生産額を把握するのに必要になったため、GNPに代わりGDPが採用されてきました。
*GDP=GNP-(海外からの所得-海外への所得)
GNPが属人的な指標であるのに対して、GDPは属地的指標であり、各国の経済活動の大きさを比較しやすく、資本にとってどの国での事業展開するのか判断しやすい材料として説明されます。
ところでGDPでは表示しづらい問題が明確に意識されました。
『テキスト』では『豊かさの指標』と扱われます。
「環境に配慮しない工場設備の場合。発生した汚染を取り除くための追加的支出であっても、GDPの増加に寄与する。
国民が不健康な暮らしをしていて、医療費が多く必要とされていたとしても、それもGDPの増大につながる。
また、貨幣換算されない家事労働や介護労働はGDPに貢献しない」…「経済的生産の総計が増えたとしても、福祉や向上するかどうかは別問題」(p22)。
国の資産の蓄積(ストック)から捉える国富(Wealth)。
これには機械・建物など企業が有する実物資産、住宅などの個人資産、国や自治体の提供する道路・鉄道など産業関連社会資本、上下水道・学校・公園などの生活関連社会資本、地下資源が含まれる。 この総資産から国民が所有する外国株式・国債、外国の土地など外国人保有の資産を差し引くことで国富が算出される。
*国富=実物資産+対外純資産。

しかし集計から漏れる富も存在している。
包括的富(Inclusive Wealth)算定の試み。従来的な生活指標から持続可能性を視野に入れ、経済的市場に基づかない福祉の側面も統合する指標を模索されている。
その包括的富は高い生活水準や充実した福祉と結びつく経済活動、それを支える基盤の物的資本(住宅・工場・機械・インフラ)、人的資本(教育・健康)、自然資本(天然資源・生態系サービス)、その他(原油価格・生産性の向上、人口変化)から成る(p23)。
経済活動の基盤に、土地、水、きれいな空気、天然資源という自然資本が位置づけられるのが特徴。
生態系サービスは、供給サービス(食料、繊維、燃料、淡水など)、調整サービス(気候調整、洪水制御、水の浄化など)、基盤サービス(栄養素の循環、土壌形成など)、文化サービス(景観、レクリエーションなど)として分類。
『テキスト』では、豊かさを表わす指標として「包括的富概念の実用化が望まれる」(p24)としています。
私は、「貨幣換算されない」家事や介護などがGDPに含まれない点を別に考えてみたいと思っています。

さて包括的富(Inclusive Wealth)を、企業活動として考察した1冊があります。
(松江英夫『「脱・自前」の日本成長戦略』,新潮新書.2022年)
松江さんは「成長の再定義」として、「企業における成長とは「企業価値を高めること」とし、売上げを伸ばすこと以上に、「利益やキャッシュフローを継続的に上げられるか」を問います(p134)。
その答えは「経済的価値と社会的価値の両立」といいます。
それらは国連が目標とする持続可能な開発目標(SDGs)やESG(環境、社会、ガバナンス)との結びつきになるのですが、もう一歩ふみ込んでいます。
サステナビリティー経営は、“事業活動そのものを通して社会的価値を高める”ことが求められ…“社会的価値を高める活動を通して経済的価値を高めるために、本業を再定義することが本質です”(p137)と言います。
私には大いに賛同できる「再定義」ですが、なかなか高尚・深遠なる目標です。
松江さんはこの射程において、Inclusive Wealthをもってきており、訳語に「包括的富」に代わり「新国富」をあてます。
これ国連環境計画・国連大学により実践的研究が進められているといいます。
包括的富(新国富)においては、先に記した人的資本、人工資本、自然資本の3つの資本の合計を視野に入れて、ストック(資産)で計算される指標です。
GDPに代わり、包括的富(Inclusive Wealth)が国際的に採用されているとはいえません。
というより各国で(日本でも)、それが数値として発表されているのかどうか、よく知りません。
しかしいずれそうなるものと考えましょう。

しかし、包括的富ではカウントされないものがあります。
市場取引に入らない家内労働、地域活動、物々交換…などです。
家内労働は、炊事、掃除、育児、介護などがあります。
地域活動などはボランティアに属しますが、一般住民(自治体等で雇用される人を除く)の活動はカウントされません。
物々交換は、商品経済(貨幣経済)の普及が遅れている後進国では大きな役割をもっており、国際比較ではこれがカウントされていないため、先進国と後進国の格差が際立ってしまいます。
この家内労働、地域活動、物々交換を収めた国民生活の全体像は、たとえば日本の中世以前の社会を考えるときには、より重要な要素になるはずです。
今読み始めているより文献にこれを表示する方式が考えられています。
抽象的なのでここでは何も書けませんが、それを紹介できる時がくるかもしれません。

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