いじめ・ハラスメントを見つけ解消していく時代
いじめ・ハラスメントを見つけ解消していく時代
10月25日文部科学省から2017年度の「児童生徒問題行動・不登校調査」が発表されました。
一般紙のすべてが報道しています。
新聞ごとに記事に特徴があり、文科省発表のいろいろな面を見せてくれます。
不登校情報センターのサイト内に「ひきこもり周辺ニュース」ページがあります。
このページに載せるため、Dくんが文科省と20都府県の教育委員会に関係する多くの記事を集めました。
そのうち「いじめ」に関係することを総括的にまとめました。
文科省と教育委員会がどう動いているのか。
教員や生徒・保護者の要望がどう反映するのか。
その一端を見ることができます。
「いじめ」や「虐待」は子どもの問題なので巧妙に対処しても隠し切れず、表面化しやすいのです。
「いじめ」は学校という施設と教員・保護者(父母)の目があり、多くの事情を明るみにしてくれます。
いろいろなハラスメント(いやがらせ的な攻撃)が社会問題としてクローズアップされているのが現在です。
「いじめ」をめぐる動きは、これらの差別やハラスメント批判の国民への広がり、国民の要望が行政にどう届いていくのかを推測する、1つの参考になるのです。
〔記事中[[ ]]で囲んであるのは不登校情報センター・サイト内においたページ名で、検索すれば読める仕掛けです〕
(1) 「いじめ」をめぐる文科省と教育委員会の発表
文科省「全国の小中高校などで2017年度に41万4378件のいじめが把握され、前年度から約9万件増えて過去最多となった」
(朝日新聞、10月25日⇒いじめの件数・2017年度)。
新聞見出しは朝日新聞に限らず「いじめ41万件」というのがほとんどです。
しかし、それだけでは大事なことは伝わりません。内容を詳細にみていきます。
いじめ定義(範囲)の変更
①いじめの定義(範囲)が変わったのが件数増加の理由の1つ
なぜ大幅にいじめの件数が増えたのか。いじめの基準が変わりました。
教育委員会がいじめの件数が増えたことを否定的ではなく、より多くの事案を把握していると肯定的にみているのはこのためです。
宮城県教委「いじめられた子どもの立場で判断する」など、文科省のいじめの基準がかわりました。
「一定の関係にある児童生徒の心理的または物理的な影響を与える行為により相手の児童生徒が心身の苦痛を感じるもの」、これがいじめ判定の基準です
(河北新報10月26日⇒いじめの件数・2017年度)。
宮城県教委「危機意識を高めて積極的に対応してきた成果である。否定的というよりは、肯定的な受けとめをしている」
(仙台放送、10月26日⇒不登校の件数・宮城県)。
滋賀県教委「教員の意識が高まり、ささいなトラブルでも当事者が嫌がっていればいじめとして計算した」
(京都新聞10月26日⇒いじめの件数・滋賀県)。
神奈川県教委「(各校で)積極的な認知が進んでいる」。「児童・生徒全体にコミュニケーションスキルなどが身についていない傾向が強まっている」
(神奈川新聞、10月26日⇒いじめの件数・神奈川県)。
「重大事態」も最多
②文科省「全国でいじめにより生命や心身に被害を受ける「重大事態」の発生件数が474件(前年度396件)で過去最多になった。
同省は「本来あってはならず、教育関係者全員が重く受け止めないといけない数字だ」と危機感を表した。
474件のうち、いじめ防止対策推進法で規定する「生命、心身または財産に重大な被害が生じた疑い」が30件増の191件。
「相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑い」が51件増の332件だった。
文科省は、両事案の個別の内容は把握しておらず、典型例として自殺や自殺未遂、わいせつな画像をインターネット上で拡散されたケースなどを挙げる。
一方で、学校側はいじめと考えないが、保護者からの申し出で重大事態に計上することもあり得るという。
文科省は「各都道府県の教育委員会などと連携し、抑制につなげることも検討したい」としている」
(時事通信10月26日⇒いじめの件数・2017年度)。
岩手県教委「自殺は250人でうち10人がいじめに遭っていた」
(岩手日報 10月26日⇒いじめの件数・岩手県)。
いじめ発見のきっかけ
③いじめはどのように見つけられるのか? いじめの発見のきっかけは次のようになります。文科省の発表―
・生徒へのアンケート調査など学校の取り組み 52.8%
・本人の訴え 18.0%
・学級担任が発見 11.1%
・生徒の保護者からの訴え 10.2%
・7.9%がこの他のきっかけになる(相談体制の整備」など)
(リセマム 10月26日⇒いじめの件数・2017年度)。
山梨県教委「アンケートを実施した251校のうち、4回以上実施校が43校、1回はゼロだった」
(産経新聞 10月26日⇒いじめの件数・山梨県)。
③これを青森県教委の場合で見ると(合計6966件)―
・生徒へのアンケート調査など学校の取り組み 2879件、41.3%
・本人の訴え 1806件、25.9%
・学級担任が発見 640件、 9.2%
・生徒の保護者からの訴え 828件、11.9%
・11.7%がこの他のきっかけになる。
(デーリー東北 10月26日⇒いじめの件数・青森県)
いじめ41万件で全部ではない
ところで41万件はいじめの全部を把握している件数ではありません。それを知るのが次の2つのデータです。
④都道府県ごとの発生件数に大きなバラツキがある
文科省「生徒数1千人当たりのいじめ認知件数は全国平均が30.9件、最多が宮崎県108.2件、最小が佐賀県8.2件」
(西日本新聞、10月26日掲載の専門家の意見⇒いじめの件数・2017年度)。
2位は京都府の90.7件。
宮崎県教委「小さな問題にも目を行き届かせようとする問題意識の表れ」
(宮崎日日新聞、10月26日掲載の専門家の意見⇒いじめの件数・宮崎県)。
この違いは、次に示す学校・教師のスタンスの違いが県単位でどれだけの違いになるのかを表わしています。
⑤「いじめ件数ゼロ」の学校
全国の学校の4分の1(23.5%)は「いじめ件数0」になっている。
(産経10月26日⇒いじめの件数・埼玉県)。
「1年間で認知件数がゼロの学校が25.6%あり、文科省は「本当にゼロかは懸念がある」として調査を徹底させる方針」
(西日本新聞、10月26日⇒いじめの件数・2017年度)。
誤解なきように念押しで言えば、いじめが発生していない学校も実在します。
学校・教員が熱心ではないのではありません。
しかし、そうとはいえない学校もあるのです。
いじめを見つける意識的な取り組みをしていない、見て見ぬふり、見逃し、隠蔽、知らんぷり…も考えなくてはなりません。
いじめの相談対応
⑥文科省「学級担任に相談 79.5%」
(リセマム 10月26日⇒いじめの件数・2017年度)。
全国自死遺族連絡会の人「学校が危機意識を持って対応しないことが一番の問題。子どもの必死の訴えを全力で受け止めてほしい」
(河北新報 10月26日⇒いじめの件数・2017年度)。
京都府教委「相談先として担任を挙げる例が多かった半面、「誰にも相談していない」も5~10%あり、「相談しやすい環境づくりをより進めていく必要がある」とした」
(産経新聞、10月26日⇒いじめの件数・京都府)。
徳島県教委「各校に設置しているいじめ対策組織を17年度から強化したことで相談しやすい環境が整い、いじめ把握が進んだ」
(徳島新聞、10月26日⇒いじめの件数・徳島県)。
いじめの解消・解決
⑦いじめの解消・解決
私(松田)は38年前に『いじめの発見・防止・克服のてびき』という雑誌特集号を企画・編集しました(1980年、あゆみ出版)。
そこに「いじめがなくなればいいんじゃない。克服への取り組みのなかで、子どものなかに何を育てるのか、そこが大事」というある教師の言葉があります。
この部分がどうなっているかだと思います。
子どものいじめに取り組むのは人との関係、社会との関係づくりの基礎になるからです。
文科省報告は、新聞記事によるかぎりそのための教育実践には触れていません。
文科省が3月に提示したいじめ解消の要件は「いじめに係る行為が少なくとも3か月以上ない」「心身の苦痛を感じていない」です。
(デーリー東北 10月26日⇒いじめの件数・2017年度)。
神奈川県教委「感情面も含め、解消までに時間がかかるケースもある」その上で「初期の段階で迅速かつ丁寧に対応することや、解消とみなした後も、慎重に児童・生徒の様子を見守ることが必要」
(神奈川新聞、10月26日⇒いじめの件数・神奈川県)。
この基準により学校での教師の取り組みが続くことができればかなりの前に進んでいくでしょう。
文科省「いじめの解決は小学校91.7%、中学校86.3%」
(河北新報 10月26日⇒いじめの件数・2017年)。
すべての県単位におけるいじめの解消率はわかりませんが、愛媛県95.2%(3位)、青森県80.6%、沖縄県79%などです。
(2)ハラスメント・差別の発見と抗議の動き
以上は、いじめ―しかも、文科省・教育委員会が関わる学校における「いじめ」―の現状です。
子どもが関わることはこのように把握できます。
全部把握したとはいえないまでも全体像を教えてくれます。
子どもの虐待に関わる厚生労働省や児童相談所の報告もまた、同様なことが言えるでしょう(いつか取り上げたいと思います)。
学校発、家庭発の子どもにかかわる明白なことなら不正常な問題は取り上げられやすいのです。
子どもの問題は多くの人から関心と同情を受けやすいのです。
そこで得られた不正常をなくそうとする国民的な意識、感情は他の分野にも広がります。
これらの運動や動きは全体像を知ることはできませんが、静かに着実に社会に伝わっていくでしょう。
しかし、社会全般ではこのような全体像は見えません。
発生している重大なハラスメント(またはマルトリートメント)があっても個別的な事件やニュースの扱いになります。
ところが、この数年間にこれらが顕著に表面化しました。
たとえばアメリカの「#MeToo運動」は女性へのセクシャルハラスメント(性暴力)を劇的に表面化させました。
日本でも伊藤詩織さんの勇気ある告発により大きく取り上げられてきました。
在日韓国・朝鮮人へのヘイトスピーチに見られる民族差別への抗議が広がっているのも日本の現状です。
小さな学区から始まり地域社会に伝わり、自治体に反映していきます。
企業社会にはどうでしょうか。
ブラック企業やパワーハラスメント(パワハラ)が告発されています。
DV(家庭内暴力)の動きもここに加えていいでしょう。
これらの様子は、行政庁のどこかが全様を発表することはないでしょう。
しかし、ある1点から事件やニュースとして表面化し、あちこちからいろいろな事態が露見し、社会的に注目されていくのです。
これらが循環的に広がるなかで、不登校やひきこもりの背景事情となる対人関係のハラスメント(またはマルトリートメント)の要因も明るみに出され、社会全体で取り組まれ始めるのです。
私は長い間「いじめ」をみつめてきました。
歯がゆいほどの無視と過小評価のなかにおかれ、変化はわずかな揺れ程度でした。しかし、この数年の変化は急激です。
社会におけるいじめ、差別、ハラスメントを<発見する>ところから、事態は進んできたし、これからもまたそうなるでしょう。
もう遅いとあきらめている向きもあるでしょうが、各自ができることはあると思います。