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Center:2002年05月ー僕たちのための書店

提供: 不登校ウィキ・WikiFutoko | 不登校情報センター
2014年1月1日 (水) 21:06時点におけるMatsu4585 (トーク | 投稿記録)による版
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僕たちのための書店

―引きこもりから歩み出す―
(財)」全国青少年教化協議会『ひっぱら』(ファミリアル仏教誌)2002年5月号
編集部・内藤 祥世

東京都の東寄り、千葉県に程近いあたりに、新小岩という街があります。
庶民的な賑やかさに包まれた駅前から5分ほど歩くと、住宅街の一角に、一階がガラス張りになった建物が見えてきます。
淡いスモークが貼られた窓は、外の人を寄せ付けないためではなく、中にいる人をそっと包み込むためであるように思えます。

ここにこの春オープンした書店が「あゆみ書店」です。書店といっても、週刊誌もマンガも置いていません。
あるのは、『居場所を求める子どもたち』『学校なんてやだもんね』『小中学生・不登校生のためのフリースクールガイド』といった、一般の学校に通わない子どもたちについての書物や、学校以外の学びの場に関する案内書などです。
そして、書店で働くのはみな、引きこもりの経験があり、そこから脱したい、と思った若者たち。
この書店は、来客者だけでなく店員にとっても、不登校・引きこもりから一歩を踏み出す場なのです。
このユニークな書店は、「不登校情報センター」というNGOによって生み出されました。
このセンターがどんな活動をする中で、あゆみ書店の開店に至ったのかを、センターの松田武己さんに聞きました。 

センターの設立
かつては教育専門の雑誌を編集していたと言う松田さん。
その誌面で、十数年前、不登校や引きこもりの特集をしたところ、主な読者であるはずの学校の先生よりも、不登校の子どもを持つ親などからの反響が大きく、松田さんを驚かせました。
「親からかかってくる電話は、話が整理されていない分、子どものことが生で伝わってきました」と当時の印象を語っています。
松田さんは、かかってくる電話に応対するうちに、親からの相談を受ける立場になっていきました。
やがて独立した松田さんは、1995年、「不登校情報センター」を設立しました。
センターで専門的に親たちや当事者の相談を受ける中で、次第に松田さんの周りに集まる若者が出てきました。
20歳から21歳ぐらいの若者たちが集まって当事者の会が生まれたのが’96年。
当初は2―3人から7―8人だったのが、‘98ごろからはコンスタントに10人以上集まるほどに発展していきました。
現在、当事者の会には130人ほどの登録がありますが、実際にセンターに来たことがあるのは50人くらいだと松田さんは言います。
その中で、趣味やテーマ、あるいは年代などで小さな会が生まれているのだそうです。
「会の運営がうまくいかなそうだと、ボランティアのカウンセラー達がサポートに入ることもあります。
でも、できるだけ彼らの自主性にまかせたいと思っているんです。
こういうところに来る人の中には、ここにくれば何かしてくれると思ってしまう人もいるんですね。
それではマニュアル人間でしかないですから、自分たちの手で続けていけるようになってほしいと思っています」
試行錯誤しながら、それぞれに他人事ではない「自分の問題」を語り合い、同じ思いを共有できる場として、当事者の会は、センターの活動の大きな一翼となっています。

働きたい! でも……
やがて、当事者の会の中から、「ひきこもりの会を作りたい」という声があがり、「人生模索の会」という会が生まれました。
文字通り人生を模索する彼らにとって、ひとつのモデルとなるのが「外に出て働く」という選択でしょう。
「不登校情報センター」にたどりつき、会に参加するようになったことで、「次は働いてみたい」という気持ちが起こるのは自然の流れかもしれません。
「ここに来て、人間関係を作ることができていれば、働くことも大丈夫だろう」
当初そう考えていた松田さんは、各企業に彼らの受け入れを頼んでいきました。
「働きたい」と手を挙げた若者たちも多くいて、定着すれば、新しい活動の柱となっていたかもしれません。
しかし、「働きたい」という気持ちは強くあっても、それだけでは追いつかない側面があったのでしょう。
どの職場でも、若者たちは長続きしなかったのだそうです。
「職場の研修でパソコンの基礎を習ってきた人はいたけど、それだけじゃね…」
この経験から松田さんは、「人間関係が作れる」段階と「実際に社会で働く」までの間には、もうひとつ段階が必要なことに気づいたと言います。
「働きたい」という気持ちがあっても、やはりいきなり社会で働くのは、当事者の若者にとっても、受け入れる社会にとってもすんなり行くことではない。
それを知った松田さんの中に、「社会に出る前にトレーニングをする場が必要だ」という考えが生まれていきました。

「あゆみ書店」
「不登校情報センター」の活動は現在、大きな柱が2つあります。
①8人ほどのボランティアに支えられた相談室や、大学生や社会人のボランティアが当事者の家に行って話し相手になったりパソコンを教えたりする訪問サポート
②当事者の若者たちや親が集まり、語ることのできる場の提供
そのどちらにとっても欠かせないのが、情報です。
既成の学校以外にどんな学びの場があるのか、学び以外にもどんな選択肢があるのかといった情報や、そういった生き方への不安や迷いを解消してくれるような書籍が必要されているのです。
昨年秋にセンターでは、あるイベントを開催しました。
中学不登校生を受け入れるさまざまな学校の案内を揃え、進路相談も受け付けたこのイベントは、その盛況ぶりから、本当に必要な情報が当事者になかなか届いていないという実態が明らかになりました。
当事者に必要な情報を提供する場が必要だ、という思い。
そして一方で、引きこもりから社会に出る前にはトレーニングの場を作らなくては、という気持ち。
この二つをかなえるものとして発想されたのが、「不登校・引きこもり関係の専門書店」だったのです。

実際に引きこもりの若者たちが書店で働くというのはどんなものなのだろう?
取材当初、真っ先に浮かんだのがその疑問でした。
初めてのアルバイトでどうしても「いらっしゃいませ」の一言が出なかった、という経験がある人は多いと思います。
店頭に立つにあたって、当事者にもセンターの人にも不安が多かったに違いありません。
「働きたい」と名乗りを挙げた8人は、ペーパーでの学科研修と実務研修を受けたと言います。
学科研修では、「一人で店番をしていたら、『トイレを貸してください』というお客さんがきました。どうしますか?」といった問いを投げかけ、自分で判断して対応すべきことに気づかせるようにしたそうです。
また、書店と言ってもセンターと同じフロアなので、「失敗しても大丈夫」という安心感もあるようです。
それでも、実際に店頭に立てば、予測できない事態も起こります。
松田さんは、そんな時にも彼らが自分で判断することを重視したいと言います。
「例えば他に誰もいない時に、店の前で交通事故が起きるかもしれない。そんな予想できないことにまでマニュアルは作れないんです。
『作ってほしい』と言われましたけどね(笑)。
だから、『何かあってひんしゅくをかってもしかたない』という思いでやっているんです。
電話ひとつでも、彼らがどう対処するか見ているのは面白いですよ」
面白いというのはもちろん、彼らがそういった出来事を一つひとつ乗り越える中で、次第に成長していくのが楽しいということでしょう。
判断に困った若者が松田さんに助けを求めて目線を向けてくるのを、黙って見守っている……。
そんな場面が容易に想像できて、かつて先生や周囲の大人に同じように見守られてきた自分が思い出されます。

書店で働いた際の給料は、売り上げた書籍の定価の10%を、それぞれが働いた時間に応じて配分することにしています。
ニーズの高い書籍であるとはいえ、売上は多額とは言えず、現状では「せめて交通費くらいになれば……」という金額だそうです。
しかし、実際に働いて「お金を自分で稼ぐ」ことから彼らが得る自信や誇りは、まさにお金には換えがたい報酬であるにちがいありません。

今後のあゆみ
「不登校情報センター」というNGOから生まれた書店。
店頭がそのままセンターの入り口でもあるという現在の形は、「相談の場」と堅苦しく考えずに人々が集える素晴らしい形なのかもしれません。
今後はどんな歩みを進めていくのでしょう。
「書店のことで言えば、現在は10代の不登校関係の書籍はある程度あるのですが、20代・30代の引きこもりに関する書籍が、まだジャンルとして確立していないので、それらをもっと集めたいですね。
自費出版のものなど、手に入りにくくてまだ知らない本も多いでしょうし。
これについては、店員の若者たちに探してきてほしいと思っています。
センターには、今後、当事者の会の若者たちがもっと集まってくるとか、いつでも誰かがここで何かをしているようにしたいですね。
そのためには、喫茶店とかもいいかな、と思っています」
あゆみ書店をオープンしただけで事足りるのではなく、本当に必要なことのためには次に何をすればいいかを常に考えている。
そんな松田さんに見守られて、自信をつけていく若者が今後ますます増えていくことでしょう。

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