あすのば
公益財団法人 あすのば
| 所在地 | 〒107-0052 東京都港区赤坂3-21-6 河村ビル6F |
|---|---|
| TEL | 03-6277-8199 (平日10時~18時) |
| FAX | 03-6277-8519 |
| E-MAIL | info@usnova.org |
低所得7割が塾断念 民間団体 給付金利用の保護者調査
子どもの貧困対策に取り組む公益財団法人「あすのば」(東京)は、回答した低所得世帯の保護者の7割が、経済的理由から子どもの塾通いや習い事を諦めているとのアンケート結果を公表した。
昨年10~12月、「あすのば」が低所得世帯に支給している給付金を利用した保護者と子どもを対象に調査した。
子どもに関し「経済的理由で諦めたこと」を複数回答で尋ねると、908人の保護者が回答。
「塾・習い事」が68・8%で最多を占めた。
「海水浴やキャンプなどの体験」が25・3%、「誕生日などのお祝い」が20・2%だった。
「諦めた経験はない」との答えは14・0%にとどまった。
子どもにも同じ内容を複数回答で質問し、504人が答えた。
「洋服や靴、おしゃれ」が52・0%で最も多く、「スマートフォンや携帯を持つ」が29・8%、「学習塾」が28・6%だった。
世帯の収入も調査。
年収は手取りで約139万円(中央値)、生活保護などの諸手当を含めても約203万円(同)にとどまり、生活の厳しい実態が浮き彫りになった。
〔◆平成30(2018)年3月29日 岩手日報 朝刊〕
連載<子どもの貧困 とやまの現場から> (下) サポート役 「夢や希望持っていい」 親亡くした体験、原点
12歳の少年は食い入るようにテレビを見つめた。
夕方のニュースで、母が交通事故に遭ったことを報じている。
1971年12月、窓の外は雨が降っていた。間もなく母は亡くなったことを知らされた。
「僕は独りになっちゃうんだ…」
富山市愛宕小学校6年生だった柳瀬和夫さん(58)=東京都八王子市=は、その時のテレビ画面を今も鮮明に覚えている。
歩道にいたところを車にはねられたのだという。
「売薬さん」だった父は3歳の頃、病気で息を引き取った。きょうだいはおらず、祖母と母との3人暮らし。
父の仕事を引き継いだ祖母は県外にいることも多く、柳瀬さんは母が亡くなった時も1人で留守番をしていた。
母の死の直後は、ショックのあまり「死んでしまおう」と思っていた。
祖母は客の情報を記した懸場帳(かけばちょう)を人に貸して収入を得るようになり、母の残したお金も多少あった。
食べるものにも困るという暮らしではなかった。だが、苦しかった。いろんなことを我慢しなければならなかった。
例えば自転車。はやりのサイクリング自転車が欲しかったのに、祖母は「両親のいる家とは違うんだから」とすぐには買ってくれなかった。
「どうしてなのか…」。
被害者意識は強く、親の死や自分の感情を消化できないまま、担任の先生に紹介された交通遺児育英会の奨学金で富山第一高校に通った。
大人になった今なら分かる。日本で現在問題になっている「相対的貧困」に陥っていたと。
転機は大学時代の寮生活だった。千葉商科大に進み、同育英会が設けた学生寮「心塾」(東京)で似た境遇の同世代と知り合った。
奨学金を利用する学生たちが交流を深めるイベントにも参加し、自身の経験や心の痛みに向き合い始めた。
社会の問題も考えるようになり「自分だけ不幸の塊のように感じていたが、仲間と出会えた」と振り返る。
富山に戻り、いったんは母校の富山第一高校で教壇に立ったが、自分が支えてもらったように後輩たちを支える側になりたいという思いが強まった。
交通遺児育英会やあしなが育英会で約30年働き、親を亡くした子どもたちをサポートしてきた。
離婚の増加や学歴社会の進展、家庭の経済格差の拡大などを背景に、子どもの貧困を巡る状況が複雑になっている。
柳瀬さんは昨年4月からは、子どもの貧困対策に取り組む公益財団法人「あすのば」(東京)で働いている。
あすのばは、組織の運営に若い世代も関わり、国への政策提言や全国で活動する団体への援助、給付金などを通じて支援を進める。
経済的に豊かとされる富山にも、つらい思いを抱える子どもがいることを、身を持って知っている。
数字だけで捉えがちな貧困を「子ども目線に立って、何に困っているかなど具体的に見えるようにしなければいけない」と訴え、あすのばが7月に富山市で開いたイベントでは、子ども食堂など県内の状況を大学生らと考えた。
これまでの経験から、いま貧困で苦しんでいる子どもたちに伝えたい言葉がある。
「夢や希望を持っていいんだよ」
□相対的貧困
生死の境にあるような「絶対的貧困」に対し、社会で普通とされる生活ができない状態。
日本はこの考えを基に貧困率を計算している。貧しさによって「諦めざるを得ないこと」が多くなり、とりわけ子どもへの影響が強いという。
富山国際大の村上満教授(スクールソーシャルワーク)は「さまざまなマイナス要因を引き寄せる。親の貧困を断ち切り、幼いころからの切れ目ない支援が必要」と指摘する。
〔◆平成29(2017)年11月18日 北日本新聞 朝刊〕

