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『ひきこもり国語辞典』をひきこもり理解の手掛かりに

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『ひきこもり国語辞典』をひきこもり理解の手掛かりに

ひきこもりの生活、行動、言葉など、すなわち「ひきこもり」はなかなか周囲の人には理解しにくいです。
いったい何を理解すればいいのか。
人を理解するのは一緒に行動する、言葉を交わす、生活を見聞きするなどによります。
ところが言葉は少ない、行動も少ない、それどころか姿も見ないのがひきこもりの特徴かもしれません。
理解として広まっているのは「ひきこもりはしてはいけないもの」「抜け出せば、それが解決になる」という形のひきこもり否定論です。理解というよりは理解できないので否定する気分と言った方がいいのかもしれません。
このような否定的な理解に囲まれているのがひきこもりの現状です。
また「このままの生活が続けば生活が立ち行かなくなる」。
さらには「家族や社会の負担がたいへんになる」という現実的な利害関係も絡んできます。
それらは根拠があると認めていいと思いますが、それがひきこもり否定論につながっています。
大事なものを秘めていると思いながら、私も当初はその状態からひきこもりにかかわり始めました。
それが徐々にわかり始め、認識も変わり始めました。
ひきこもりは多様なのであらゆることを肯定的に見るのではありません。
しかし、彼ら彼女らが身をもって示すひきこもりには意味がある、むしろ肯定的にとらえなくてはならないものもある。
そういう境地にたどり着きました。
身近に関わるようになったひきこもり状態の彼ら彼女らはいろいろなことを教えてくれました。
それは言葉だけでなく振る舞いや日常の行動や生活の様子にも表れ、それらを集めたのが、『ひきこもり国語辞典』です。
これらの言動から彼ら彼女らの意識、あるいは意識していない動機、さらには感情・感覚、気持ちを見ることができます。
それらをことば(題語)として50音に並べてみました。
当事者である彼ら彼女らの言動の特徴・特色、なぜそうするのかの理由が示されています。
行動や表現の理由説明が多いとわかります。
大きく言えば社会の慣習や状況への異議申し立て、別提案(自信に欠けるおそるおそる提案)さえあります。
具体的にいくつかのことば(題語)を見ていきます。
<不条理   人様(ひとさま)にはせめて迷惑をかけないように気をつけて生きています。
向こうから歩いてくる人がいたら、気をつけて道の端に寄ったり、ゆっくりと歩いたり。
水たまりがあれば相手が歩きやすいように自分がその水たまり側を歩いたり、いろいろ気をつかっているのです。
でも、後ろから急ぎ足でやってきた人が、ドンとぶつかり、ろくに謝りもせず追い越して行きました。
こんなときに不条理という言葉が浮かんできます。>
ある人が実際に経験した話によることば(題語)とその説明です。
こういう気遣いある行動は珍しいことではありません。
彼ら彼女らはそれをいちいち公言しないし、話をする機会もほとんどありません。
これには3つの内容があります。
1、行動や考え方の事情説明です。周囲の人への尊重(迷惑をかけない・遠慮がち)が行動の背景にあるとわかります。
2、感情・感覚の表現であり、自己防衛的な動機を感じます。
他人への気遣いがありそれが自己防衛的になります。
3、これらを全く無視する行動への怒り、告発と抗議もあります。
この3つの要素はどの題語にもあるわけではありません。
また1語1語に表現分野の違いもあります。
それでも『ひきこもり国語辞典』全体の特徴と考えます。
おそらくこのような気持ちは、ひきこもりだけではなく日本人の多くに共通するのではないでしょうか。
ひきこもりとは1人の行動や生活の内にこの傾向、感情や気持ちが集中し、いろいろな形で表面化させている人ともいえます。

次の例を見ましょう。
<偽装   自分の正体をあからさまにするといいことはありません。
強そうに見られたい、賢そうに見られたい、明るい性格に見られたい、友達がいるように見せる…そのために工夫します。
自分のことはわかっているので、それが一時しのぎとわかっています。
気分は偽装工作していることと同じです。>
1、周囲の人に対しては自分を多少は明るく表すこと、これは多くの人が自然にしていることです。その気持ちの背景説明をしています。
2、その表現を「明るく表す」としないで「偽装工作」と表現する点が特徴です。
とんがった言い方であり、へりくだった言い方です。
それがユーモラスになり、受け入れやすくしているのです。
だから自己防衛的な表現ともいえます。

もう1つ例をあげます。
<無駄なこと   自分のしていることはほとんどが無駄なことで何の役にもたたないことのようです。
それは「現実」に対比して強く思います。趣味、道楽、お遊び、休息、暇つぶしの類です。
生きていくのに必要な「働く」がないからです。
その反面、世間でいう娯楽的なものもありません。
無駄なこととは娯楽的なこととは違うんです。>
1、ここには行動や生活状況の説明はありません。
自分なりの評価があり、それは居直りともいえるし、自己弁護的でもあります。
『ひきこもり国語辞典』のなかには自己弁護的なモノはほとんどないのですが、これは珍しい例です。
2、表現に攻撃性がありません。
自己防衛を含む形で心理的な居場所の確保を求めているのです。
そのために“切り換し”をしています。

次の題語も“切り換し”を示しています。
<自分を育てる  人間は生まれたときから親に育てられるものです。
でももう二十歳をすぎていることだし、小遣いや生活費のメンドーはみてもらっても、親に育ててくれとはいえません。
どうするのか。自分を自分で育てるしかない、と密かに思いつめています。 >
1、子どもとして親に育てられた、でも何か不十分なところがあります。
小遣いや生活費をもらっているから引け目を感じる、そのが自分の不十分なところです。
2、その状態を抜け出す形を「自分を自分で育てる」 と“切り換し”に宣言しています。

“切り換し”を通り過ぎた例もあります。
<ふっきれる   自分で不登校をした経験が、あまり悪いことではなかったと思えるようになったとき、自分は自分の道を行く気持ちが湧いてきました。
それがふっきれた感じです。
いまの自分がいるのは不登校経験があるからです。
不登校の経験を肯定的に考えられるようになりました。>
1、不登校の経験を肯定して説明しています。
“切り換し”の時期があり、気持ちの中で自分の不登校経験を納得しているからです。
2、とくに自己防衛的な説明はありません。
自己防衛に代わる生きる力が得られたからだと思えます。

<ていたらく   何度か気を取りなおし、あることに自分なりに取り組んでみました。
しかし、長続きせず一つとして身についたものはありません。
これが自分のていたらく(体たらく)です。
自分をことばのうえで貶め、そこで自分の実態と自分の評価のバランスを図ろうとしています。>
1、自分の状態説明です。自己認識でもありますが、自己否定感をゆるく表現してもいます。
2、“切り換し”というよりも、反省の気分が表れています。

次の題語は対応策とみていいかもしれません。
<聞き上手   話し下手、口ベタの対角線的反対語が聞き上手です。
聞くの反対は話す。下手の反対は上手。
だから話し下手の対角線的反対は聞き上手です。
私は話し下手(口ベタ)ですが話し上手になる自信はありません。
でも聞き上手にならなれるかもしれないと密かにねらっています。>

次のようなことば表現もあります。
<戦闘民族の顔   30代にして仕事についてから数か月。
その職場に誘ってくれた人が見た感想。働くようになってからの顔の表情が変わってきている。
それを戦闘民族の顔になってきたと評した。>
1、本人の言葉でなく、近くで見ている人の感想です。
2、当事者の内側の変化が表情に出ているのが伝わっています。
この感想を言った人もひきこもりの経験があり、鋭くその変容をキャッチしたのです。

以上のように多くのことば(題語)には、それぞれの行動、表現、考え方の背景説明を示しています。
また自分の言行に対する自分なりの理解の仕方が示されています。
どう対処しようかという意志を示したものもあります。
他にもいろいろな要素をあわせ持っています。
その表現のほとんどは穏やかで遠慮がちです。
攻撃的であるとか自己弁護に終始しているわけでもありません。
周囲の人には意見の違い、感覚の違いはあるでしょう。
そうだとしても、まずはひきこもりの生活や意見という言行が何を示すのかをいったんは受けとめてもらいたいです。
そのうえで次に進むようにお願いしたいです。
なにも聞かないうちから「ひきこもりはしてはいけないもの」「抜け出せば、それが解決になる」という調子であっては何の前進も生まれないからです。
その意味で『ひきこもり国語辞典』は、支援者にとって、ひきこもりのいる家族にとって理解する参考書になります。
さらにひきこもり当事者にとっても、自分の行動や生活やことば遣いを理解する1つの参考になるでしょう。
(2019年9月30日)

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