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リアル一狩り行こうぜ

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==リアル一狩り行こうぜ==
 
==リアル一狩り行こうぜ==
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会報『ひきこもり居場所だより』2024年3月号<br>
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'''清水大樹'''(元ひきこもり当事者への訪問者)<br>
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こんにちは。最近PC版モンスターハンターワールドにドハマリしている清水です。<br>
 +
その熱が高じて今回実際の狩猟を見学させてもらうことになりました。<br>
 +
……まあ実際にはいつも私が仲良くしてもらっているYさんに誘われただけなのですが。<br>
 +
以前からシカ猟の様子を聞いたり捕れたシカ肉を分けてもらったりしていて実際の狩猟に興味はありました。<br>
 +
今回のお誘いを受けたのはずいぶん前のことだったのですが、そのときは狩猟に興味はあってもその場ですぐに行きますとは言えずに話が流れてしまっていました。<br>
 +
ですがなかなか実際の狩猟をこの目で見る機会はないでしょうし、よくよく考えたらもったいないことをしたなあと。<br>
 +
そこで今回勇気を出して「以前狩猟の見学に誘っていただいた話ってまだ有効ですか?」と話を切り出すとトントン拍子で話が進み、見学の流れとなったわけです。
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今回は私が体験した一泊二日、山梨での狩猟見学ツアーの様子を綴っていきたいと思います。<br>
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'''0日目'''<br>
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深夜に都内のYさん宅へお邪魔させていただき、装備の点検や事前説明を受けます。<br>
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冬山に入るわけですから防寒対策や靴の準備を怠るわけにはいきません。<br>
 +
その際「野糞経験はありますか?」と真顔で聞かれて思わず吹き出してしまいました。<br>
 +
まあ実際笑い事ではなく、山にトイレなんてあるわけもないですからそのあたりの準備と心構えは必要不可欠です。<br>
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ちなみになぜ0日目からカウントするかというと、1日目の朝から狩猟に参加するためには1日目未明には現地入りしておく必要があるからです。<br>
 +
0日目の深夜から出発して現地の道の駅で車中泊をして朝を迎えました。<br>
 +
車中泊と言っても私は枕が変わると眠れなくなる質なので案の定一睡もできませんでした。<br>
 +
とてもこれから一日山を駆け回れるようなコンディションでないのは自覚していましたが、ここまで来てリタイアはありえないので覚悟を決めます。<br>
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'''1日目午前'''<br>
 +
まずはこの日部屋を貸していただくことになっているYさんの師匠宅にお邪魔して荷物を置き、猟の時間までリビングで朝食を取りながら待機します。<br>
 +
しかしそのリビングに本物のクマの剥製が置いてあるのには驚かされました。<br>
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こんなものはよほど立派な旅館か、あとはもうアニメの世界くらいでしかお目にかかることはないものと思っていました。<br>
 +
それとこれも初めてのことでしたが、本物の猟犬にも会えました。<br>
 +
猟犬というからにはさぞいかつくて逞しい感じなのだろうと思っていましたが、実際は可愛らしくて人懐こいビーグル犬でした。<br>
 +
年令は聞きませんでしたが見た目にはそれなりに年を取っていそうで、失礼ながら猟犬として獲物を追って走り回れるのか少し疑問に思いました。<br>
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もちろん実際にはまったくそんなことはなかったわけですが。<br>
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8時30分、猟友会のメンバーが所定の場所に集合して作戦会議をします。<br>
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人数は正確には覚えていませんが、10人は軽く超えていて思ったより多いなという印象でした。<br>
 +
実際他の方の話を聞いていると、やはり「今日は多いな」という感覚のようでした。<br>
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地元に住んでいる方や我々のように遠方から週末だけやってくる人もいて、その人数は毎回まちまちのようです。<br>
 +
作戦会議では集まった人たちに役割と持ち場が割り振られます。<br>
 +
役割には2つ、「タツマ(立間)」と「セコ(勢子)」というものがあります。<br>
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タツマは決められたポイントにじっと待ち構えて獲物を撃つ役です。<br>
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もう一方のセコは猟犬を放って大きな声や音を出しながら歩き、獲物をタツマのいる方へ追い込む役です。<br>
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お互いの連絡は無線機を使って取ります。<br>
 +
 +
Yさんは今回タツマを任されたので私も同行しました。<br>
 +
事前に「冬山は寒いけど歩いていると暑くなる」と言われていた意味がよくわかりました。<br>
 +
タツマの待機ポイントまで歩いた距離と時間こそ大したことはなかったものの、道中の険しいこと険しいこと。<br>
 +
ボロボロと崩れる土に足を取られながら山道(というより崖といったほうがいいくらいですが)をよじ登ります。<br>
 +
二本の足ではとても支えきれないので所々四足歩行にならざるを得ません。<br>
 +
当然ですが私は猟銃は持てないので猟においては全くの役立たずです。<br>
 +
そんな私に最大限できることは足を引っ張らないこと、ただそれのみです。<br>
 +
自分だけ遅れて足を引っ張りたくない一心で必死に後をついていきました。<br>
 +
ポイントに到着したあとはひたすら待機です。<br>
 +
そうなると今度は汗が引いて逆に寒くなってきます。<br>
 +
今回のポイントは日が当たっていたので耐えられないくらい寒いということはありませんでしたが、それでも自然と身体を揺すってしまう程度には寒かったですね。<br>
 +
 +
結局午前の猟は空振りに終わり、「タツマ解除」の号令で一時拠点の小屋に帰還することになりました。<br>
 +
ところが83歳でメンバー最高齢のおじいさんの応答がありません。<br>
 +
無線機の調子が悪いということでしたが、合流してお話してみるとご本人の耳が遠くなっている様子でした。<br>
 +
これでは無線が聞き取れなくても仕方がありません。<br>
 +
少し時間が飛びますが、夜にお話した際は「75歳以上になると認知症の検査があって、それにひっかかると銃が持てなくなっちゃうんだよ」と繰り返し仰っていて、正直言って「その話さっきも聞いたけど、本当に認知症の心配はないのかな」とも思いました。<br>
 +
ただ、驚かされたのはおじいさんの山道を歩く速度です。<br>
 +
いくら装備で劣るとはいえ、まだ若いはずの私が全力で歩いているのに全くおじいさんに追いつけません。<br>
 +
そしていくつか見せていただいた他の方の銃はピカピカなのに、おじいさんの銃は表面が傷だらけだったのが格好良かったですね。<br>
 +
歴戦の狩人という風格が漂っています。<br>
 +
昼食は拠点に戻り、あらかじめコンビニで買っておいたおにぎりを食べました。<br>
 +
人数が多いため人口密度が高く、しかもほぼ全員が初対面の人という環境なのでコミュ障的にはかなりしんどい状況でした。<br>
 +
ですが今思い返してみるとこんなものはコミュ障受難の始まりでしかありませんでした。<br>
 +
 
 +
'''1日目午後'''<br>
 +
再びの作戦会議を経て、午後の人員配置が決まります。<br>
 +
すでに寝不足と疲労、初対面の人ばかりの環境でだいぶ頭が参っていたのでぼーっとしながら話を聞いていると、何やら話の流れに不穏な気配……。<br>
 +
どうやら午後の私はYさんとは別行動で、Aさんと一緒にセコへ回るようです。<br>
 +
てっきりずっと金魚のフンよろしくYさんの後ろをずっとついて回っていればよいとばかり思っていた私には寝耳に水です。<br>
 +
心のなかで悲鳴を上げながらAさんの軽トラに同乗させてもらいます。<br>
 +
Aさんは地元に住んでいて普段は翻訳の仕事をしているそうです。<br>
 +
また「生きていると色々なことがある。<br>
 +
でもどんなときでも山は変わらないから良いですよ」「犬と一緒に山を歩くのは最高です」と語る彼に「山には文化も言語も関係ないですものね」と共感しつつ、この人とならなんとか一緒に居られるかなと安堵しました。<br>
 +
 
 +
車を降りると散歩中の老夫婦に声をかけられました。<br>
 +
奥さんの方はシカ猟をあまりよく思っていない様子で、「このあいだ罠にかかって長いこと動けないシカを見てかわいそうだったから役所の人に『放しちゃってもいいですか』って聞いたら『こちらから(シカを獲ることを)お願いしているのにとんでもない!』って言われちゃった」と話していました。<br>
 +
Aさんは「そういうときは罠の所に仕掛けた人の連絡先が書いてあるので連絡してもらえればすぐ行きますので」と愛想よく対応します。<br>
 +
近年増えすぎたシカの問題は深刻ですし、その対応策としてシカ猟は必要なことです。<br>
 +
ですが一方で「動物を殺すのはかわいそう」「銃を持った人がいるのは怖い」という感覚も理解できます。<br>
 +
地元住民の理解と協力がなければシカ猟は存続できないのだということをその光景から学びました。<br>
 +
 +
セコとして山に入る前にAさんから「私の5メートル以内には近づかないでください。安全のためです」と説明を受けます。<br>
 +
私はその忠告をきちんと守ることを決めたのですが、結果的には杞憂でした。<br>
 +
Aさんが歩くのが早すぎてそんなに近づけないのです。<br>
 +
平地と大して変わらないペースでどんどん歩いていくのでこのときも置いていかれないように必死に追いかけることになりました。<br>
 +
ただ、徐々に彼の息も上がってきているのが伝わり、慣れていても苦しいものは苦しいらしいとわかると精神的にはかなり楽になりました。<br>
 +
シカのフンや猿の姿を見かけながら山を歩くこと一時間、今までより更に険しい斜面に差し掛かり「このまま帰るか、ここを登っていくか、どうしますか?」と聞かれます。<br>
 +
ここまで来たら進むべき道は一つしかありません。「せっかくなのでチャレンジします!」。<br>
 +
その後の道のりは相応にしんどかったですが挑戦してみてよかったと思います。<br>
 +
 +
その後、シカの「止め刺し」を見学します。<br>
 +
「止め刺し」とは罠にかかった獲物にとどめを刺すことで、今回は銃を使っていましたが刃物等を使うケースもあるようです。<br>
 +
銃での「止め刺し」の瞬間はシカが悲鳴を上げることもなく、あっけないものでした。<br>
 +
しかし実際に猟銃を撃つところを初めて間近で見ました。<br>
 +
「思ったより音大きくないでしょ」とYさんには言われましたが、とんでもない! <br>
 +
私には耳はもちろん腹にまで力強い空気の振動が伝わってきたという実感があり、むしろ思っていた以上に大きな音に感じられました。<br>
 +
 +
そして更に強烈なインパクトがあったのはその後です。<br>
 +
シカを軽トラで拠点まで運び、数人がかりでシカを解体します。<br>
 +
その手つきは慣れたもので、意外に小さなナイフを使って手際よく皮と肉を切り分けていきます。<br>
 +
その際にシカの屍体からもうもうと沸き上がる湯気の激しさが今も目に焼き付いています。<br>
 +
周辺の気温が低いからというだけでなくシカの体温が高いのかもしれません。<br>
 +
その姿には今まさに生命の温かさがシカの身体から抜けていっているのだということを感じさせられました。<br>
 +
 +
解体が終わるとそのまま反省会、というか食事会が始まります。<br>
 +
具はネギだけのシンプルなうどんが美味しかったですね。<br>
 +
それとAさんが罠で獲った「テン」という小動物の肉にもチャレンジしました。<br>
 +
意外と脂っこく、肉質は硬めであまり美味しくはなかったです。<br>
 +
テンが穫れたのは初めてということで、少し火を通しすぎた感はあります。<br>
 +
おそらく上手に調理すれば美味しく食べられる肉なのだろうと思います。<br>
 +
それ以外にもその場にあるものは飲み食い自由なようだったので遠慮なくいただきます。<br>
 +
やはり人口密度が高く、こういう場は何か食べていないとなかなか落ち着かない性分なのでひたすら食べて時間を稼ぎます。<br>
 +
前述のおじいさんに話しかけられますが、温厚な方なので思っていたほど大きな負担を感じることなく過ごすことができました。<br>
 +
 +
地元の温泉施設で汗を流した後、猟友会メンバーのOさんの家にお邪魔します。<br>
 +
が、眠気がひどかったのでこの時のことはよく覚えていません。<br>
 +
寝不足・肉体疲労・精神疲労のトリプルパンチでもうとっくに限界でした。<br>
 +
そして今これを書いている自分の疲労も限界です。<br>
 +
そんなわけで続きはまた次号とさせてください。<br>
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2024年3月31日 (日) 19:13時点における版


リアル一狩り行こうぜ

会報『ひきこもり居場所だより』2024年3月号
清水大樹(元ひきこもり当事者への訪問者)

こんにちは。最近PC版モンスターハンターワールドにドハマリしている清水です。
その熱が高じて今回実際の狩猟を見学させてもらうことになりました。
……まあ実際にはいつも私が仲良くしてもらっているYさんに誘われただけなのですが。
以前からシカ猟の様子を聞いたり捕れたシカ肉を分けてもらったりしていて実際の狩猟に興味はありました。
今回のお誘いを受けたのはずいぶん前のことだったのですが、そのときは狩猟に興味はあってもその場ですぐに行きますとは言えずに話が流れてしまっていました。
ですがなかなか実際の狩猟をこの目で見る機会はないでしょうし、よくよく考えたらもったいないことをしたなあと。
そこで今回勇気を出して「以前狩猟の見学に誘っていただいた話ってまだ有効ですか?」と話を切り出すとトントン拍子で話が進み、見学の流れとなったわけです。 今回は私が体験した一泊二日、山梨での狩猟見学ツアーの様子を綴っていきたいと思います。

0日目
深夜に都内のYさん宅へお邪魔させていただき、装備の点検や事前説明を受けます。
冬山に入るわけですから防寒対策や靴の準備を怠るわけにはいきません。
その際「野糞経験はありますか?」と真顔で聞かれて思わず吹き出してしまいました。
まあ実際笑い事ではなく、山にトイレなんてあるわけもないですからそのあたりの準備と心構えは必要不可欠です。
ちなみになぜ0日目からカウントするかというと、1日目の朝から狩猟に参加するためには1日目未明には現地入りしておく必要があるからです。
0日目の深夜から出発して現地の道の駅で車中泊をして朝を迎えました。
車中泊と言っても私は枕が変わると眠れなくなる質なので案の定一睡もできませんでした。
とてもこれから一日山を駆け回れるようなコンディションでないのは自覚していましたが、ここまで来てリタイアはありえないので覚悟を決めます。

1日目午前
まずはこの日部屋を貸していただくことになっているYさんの師匠宅にお邪魔して荷物を置き、猟の時間までリビングで朝食を取りながら待機します。
しかしそのリビングに本物のクマの剥製が置いてあるのには驚かされました。
こんなものはよほど立派な旅館か、あとはもうアニメの世界くらいでしかお目にかかることはないものと思っていました。
それとこれも初めてのことでしたが、本物の猟犬にも会えました。
猟犬というからにはさぞいかつくて逞しい感じなのだろうと思っていましたが、実際は可愛らしくて人懐こいビーグル犬でした。
年令は聞きませんでしたが見た目にはそれなりに年を取っていそうで、失礼ながら猟犬として獲物を追って走り回れるのか少し疑問に思いました。
もちろん実際にはまったくそんなことはなかったわけですが。

8時30分、猟友会のメンバーが所定の場所に集合して作戦会議をします。
人数は正確には覚えていませんが、10人は軽く超えていて思ったより多いなという印象でした。
実際他の方の話を聞いていると、やはり「今日は多いな」という感覚のようでした。
地元に住んでいる方や我々のように遠方から週末だけやってくる人もいて、その人数は毎回まちまちのようです。
作戦会議では集まった人たちに役割と持ち場が割り振られます。
役割には2つ、「タツマ(立間)」と「セコ(勢子)」というものがあります。
タツマは決められたポイントにじっと待ち構えて獲物を撃つ役です。
もう一方のセコは猟犬を放って大きな声や音を出しながら歩き、獲物をタツマのいる方へ追い込む役です。
お互いの連絡は無線機を使って取ります。

Yさんは今回タツマを任されたので私も同行しました。
事前に「冬山は寒いけど歩いていると暑くなる」と言われていた意味がよくわかりました。
タツマの待機ポイントまで歩いた距離と時間こそ大したことはなかったものの、道中の険しいこと険しいこと。
ボロボロと崩れる土に足を取られながら山道(というより崖といったほうがいいくらいですが)をよじ登ります。
二本の足ではとても支えきれないので所々四足歩行にならざるを得ません。
当然ですが私は猟銃は持てないので猟においては全くの役立たずです。
そんな私に最大限できることは足を引っ張らないこと、ただそれのみです。
自分だけ遅れて足を引っ張りたくない一心で必死に後をついていきました。
ポイントに到着したあとはひたすら待機です。
そうなると今度は汗が引いて逆に寒くなってきます。
今回のポイントは日が当たっていたので耐えられないくらい寒いということはありませんでしたが、それでも自然と身体を揺すってしまう程度には寒かったですね。

結局午前の猟は空振りに終わり、「タツマ解除」の号令で一時拠点の小屋に帰還することになりました。
ところが83歳でメンバー最高齢のおじいさんの応答がありません。
無線機の調子が悪いということでしたが、合流してお話してみるとご本人の耳が遠くなっている様子でした。
これでは無線が聞き取れなくても仕方がありません。
少し時間が飛びますが、夜にお話した際は「75歳以上になると認知症の検査があって、それにひっかかると銃が持てなくなっちゃうんだよ」と繰り返し仰っていて、正直言って「その話さっきも聞いたけど、本当に認知症の心配はないのかな」とも思いました。
ただ、驚かされたのはおじいさんの山道を歩く速度です。
いくら装備で劣るとはいえ、まだ若いはずの私が全力で歩いているのに全くおじいさんに追いつけません。
そしていくつか見せていただいた他の方の銃はピカピカなのに、おじいさんの銃は表面が傷だらけだったのが格好良かったですね。
歴戦の狩人という風格が漂っています。
昼食は拠点に戻り、あらかじめコンビニで買っておいたおにぎりを食べました。
人数が多いため人口密度が高く、しかもほぼ全員が初対面の人という環境なのでコミュ障的にはかなりしんどい状況でした。
ですが今思い返してみるとこんなものはコミュ障受難の始まりでしかありませんでした。

1日目午後
再びの作戦会議を経て、午後の人員配置が決まります。
すでに寝不足と疲労、初対面の人ばかりの環境でだいぶ頭が参っていたのでぼーっとしながら話を聞いていると、何やら話の流れに不穏な気配……。
どうやら午後の私はYさんとは別行動で、Aさんと一緒にセコへ回るようです。
てっきりずっと金魚のフンよろしくYさんの後ろをずっとついて回っていればよいとばかり思っていた私には寝耳に水です。
心のなかで悲鳴を上げながらAさんの軽トラに同乗させてもらいます。
Aさんは地元に住んでいて普段は翻訳の仕事をしているそうです。
また「生きていると色々なことがある。
でもどんなときでも山は変わらないから良いですよ」「犬と一緒に山を歩くのは最高です」と語る彼に「山には文化も言語も関係ないですものね」と共感しつつ、この人とならなんとか一緒に居られるかなと安堵しました。
  車を降りると散歩中の老夫婦に声をかけられました。
奥さんの方はシカ猟をあまりよく思っていない様子で、「このあいだ罠にかかって長いこと動けないシカを見てかわいそうだったから役所の人に『放しちゃってもいいですか』って聞いたら『こちらから(シカを獲ることを)お願いしているのにとんでもない!』って言われちゃった」と話していました。
Aさんは「そういうときは罠の所に仕掛けた人の連絡先が書いてあるので連絡してもらえればすぐ行きますので」と愛想よく対応します。
近年増えすぎたシカの問題は深刻ですし、その対応策としてシカ猟は必要なことです。
ですが一方で「動物を殺すのはかわいそう」「銃を持った人がいるのは怖い」という感覚も理解できます。
地元住民の理解と協力がなければシカ猟は存続できないのだということをその光景から学びました。

セコとして山に入る前にAさんから「私の5メートル以内には近づかないでください。安全のためです」と説明を受けます。
私はその忠告をきちんと守ることを決めたのですが、結果的には杞憂でした。
Aさんが歩くのが早すぎてそんなに近づけないのです。
平地と大して変わらないペースでどんどん歩いていくのでこのときも置いていかれないように必死に追いかけることになりました。
ただ、徐々に彼の息も上がってきているのが伝わり、慣れていても苦しいものは苦しいらしいとわかると精神的にはかなり楽になりました。
シカのフンや猿の姿を見かけながら山を歩くこと一時間、今までより更に険しい斜面に差し掛かり「このまま帰るか、ここを登っていくか、どうしますか?」と聞かれます。
ここまで来たら進むべき道は一つしかありません。「せっかくなのでチャレンジします!」。
その後の道のりは相応にしんどかったですが挑戦してみてよかったと思います。

その後、シカの「止め刺し」を見学します。
「止め刺し」とは罠にかかった獲物にとどめを刺すことで、今回は銃を使っていましたが刃物等を使うケースもあるようです。
銃での「止め刺し」の瞬間はシカが悲鳴を上げることもなく、あっけないものでした。
しかし実際に猟銃を撃つところを初めて間近で見ました。
「思ったより音大きくないでしょ」とYさんには言われましたが、とんでもない! 
私には耳はもちろん腹にまで力強い空気の振動が伝わってきたという実感があり、むしろ思っていた以上に大きな音に感じられました。

そして更に強烈なインパクトがあったのはその後です。
シカを軽トラで拠点まで運び、数人がかりでシカを解体します。
その手つきは慣れたもので、意外に小さなナイフを使って手際よく皮と肉を切り分けていきます。
その際にシカの屍体からもうもうと沸き上がる湯気の激しさが今も目に焼き付いています。
周辺の気温が低いからというだけでなくシカの体温が高いのかもしれません。
その姿には今まさに生命の温かさがシカの身体から抜けていっているのだということを感じさせられました。

解体が終わるとそのまま反省会、というか食事会が始まります。
具はネギだけのシンプルなうどんが美味しかったですね。
それとAさんが罠で獲った「テン」という小動物の肉にもチャレンジしました。
意外と脂っこく、肉質は硬めであまり美味しくはなかったです。
テンが穫れたのは初めてということで、少し火を通しすぎた感はあります。
おそらく上手に調理すれば美味しく食べられる肉なのだろうと思います。
それ以外にもその場にあるものは飲み食い自由なようだったので遠慮なくいただきます。
やはり人口密度が高く、こういう場は何か食べていないとなかなか落ち着かない性分なのでひたすら食べて時間を稼ぎます。
前述のおじいさんに話しかけられますが、温厚な方なので思っていたほど大きな負担を感じることなく過ごすことができました。

地元の温泉施設で汗を流した後、猟友会メンバーのOさんの家にお邪魔します。
が、眠気がひどかったのでこの時のことはよく覚えていません。
寝不足・肉体疲労・精神疲労のトリプルパンチでもうとっくに限界でした。
そして今これを書いている自分の疲労も限界です。
そんなわけで続きはまた次号とさせてください。

  

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