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世田谷区立桜丘中学校

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</table>
 
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===[[:Category:周辺ニュース|周辺ニュース]]===
+
''「校則なし」で区立中はどう変わったか 校則は誰のためにあるのか'''<br>
ページ名[[世田谷区立桜丘中学校]]、() <br>
+
東京都世田谷区立桜丘中の前校長 西郷孝彦さん<br>
'''校則がないからこそ、教師と生徒は対等に話し合うことができる――西郷孝彦校長インタビュー'''<br>
+
「校則なし」を実現した公立中学校がある。東京都世田谷区の区立桜丘中だ。<br>
世田谷区桜丘中学校。私鉄の駅から徒歩10分ほどの住宅街にある。職員室前の廊下には机と椅子がフリースペースとして置かれ、Wi-fiも完備されている。<br>
+
服装や髪形は自由で、遅刻しても、教諭に大声で怒鳴られることはない。<br>
授業時間だったが、インターネットに接続しながら、話をしたり、自分のペースで勉強をする生徒もいた。<br>
+
定期テストやチャイムもない。<br>
校長室でも、塾の宿題をしている生徒が校長と談笑する姿が見られた。<br>
+
全国各地の学校ではいまだ、下着の色指定やツーブロック禁止など理不尽な校則がまかり通る中、桜丘中はどのように校則をなくしていったのか。<br>
この学校はチャイムが鳴らない。そして何より、校則がない。<br>
+
前校長の西郷孝彦さん(66)に聞いた。<br>
生徒手帳には「礼儀を大切にする」「出会いを大切にする」「自分を大切にする」が「心得」として掲げられ、また、子どもの権利条約の一部が示されている。<br>
+
'''校則はいったい誰のため?'''<br>
なぜ、こうした学校運営が可能なのか。西郷孝彦校長(64)に話を聞いた。<br>
+
3回にわたって考える3回目です。(共同通信=小川美沙)<br>
'''◆◆◆「心得」の3つですべてが指導できます'''<br>
+
―校則をなくしたきっかけは。<br>
――生徒手帳には「桜丘中学校の心得」が3つだけ書かれていますが、以前は校則があったのでしょうか?<br>
+
赴任した2010年当時、桜丘中は荒れていた。<br>
西郷 以前の生徒手帳には、校則が20ページほど書かれていました。<br>
+
服装や髪形に関する決まりがあり、教諭が声を荒らげて生徒を指導することもあったが、子どもたちを上から押さえつけたってうまくはいかないと感じていた。<br>
例えば、「他のクラスの教室に入ってはいけない」とか、「上級生は下級生と話してはいけない」とか。<br>
+
学校にはさまざまな子どもがいる。「普通の子」なんて存在しない。<br>
下着の色を決めている学校だってありますよね。以前の勤務校では、こうした細々とした校則がありました。<br>
+
こだわりが強い、朝起きられない、制服が着られない、学習障害や発達障害がある…。<br>
校則のことを考え始めたのは、この桜丘中学校に赴任してから、ここ4、5年のことですね。<br>
+
こうした個性や特性を考えずに、「靴下は白」「中学生らしい髪形」など合理的な理由がない校則を当てはめると、それがストレスになり、不登校になる。<br>
当初は、校内がいわゆる「荒れた」状態にありました。<br>
+
廊下に設けられたスペースで過ごす桜丘中の生徒たち(2019年、西郷孝彦さん提供)<br>
見直すことになったときに、本当はいらなかったのですが、何もないと不安に思う人もいる。<br>
+
生徒全員に「学校は楽しい」と感じてもらえるにはどうすべきかを考えると、合理的な理由のある校則は一つもなかった。<br>
校則は最終的には校長判断ですが、「3つくらいにしよう」と提案したときに、生活指導主任が原案を作ってくれました。<br>
+
それに、校則で「みんな同じ」を押しつけると、枠からこぼれ落ちた子がいじめの対象になる。<br>
この3つですべてが指導できます。先生方はこれをよりどころに指導します。<br>
+
ある男子生徒は、学習障害があるためにタブレットの持ち込みを必要としていたが、別の中学では「一人だけ特例は認められない」と断られたそうだ。<br>
この学校では制服も自由です。(身体的な性と、自認する性が違う)トランスジェンダーの生徒もそれで救われると思います。<br>
+
桜丘中で受け入れ、これを機に「全員持ち込みOK」にした。<br>
――生徒手帳に子どもの権利条約が記されていますが、珍しいですね。<br>
+
その生徒だけでなく、誰にとっても過ごしやすい環境を目指したからだ。<br>
西郷 日本は法治国家です。この学校に校則はないですが、日本の法律には縛られています。<br>
+
―学校は集団生活を送る場で、ルールは必要だとされているが。<br>
例えば、校内でも他人のものを勝手に自分のものにすれば、窃盗罪ですよね。誰かを傷つければ傷害罪です。<br>
+
校則ありき、ではない。生徒が自ら考え、判断する力を伸ばすにはどうするか、だ。<br>
よく「学校の中は治外法権だ」とか、「学校だから許される」と言われますが、それはやめようと。社会と同じ規則で学校も回っています。<br>
+
どんな髪形や服装をするかは自分で決める。<br>
日本は子どもの権利条約に批准しています。だから、法律と同じ。<br>
+
帽子をかぶって来る子もいれば、メイクをする子もいた。<br>
そう子どもに教えないといけませんし、先生も守る必要があります。<br>
+
チャイムがないから、自ら時間を管理する。授業中に居眠りしても、注意することはない。<br>
権利条約に掲げられた権利を知ることで、大切にされていることがわかり、子どもは自己肯定感が得られます。<br>
+
短時間の居眠りで頭はスッキリする。<br>
大人でもさまざまな考えがある<br>
+
教諭は授業に集中してもらえるよう工夫するようになり、居眠りも減った。<br>
――校則はそのままで、運用面で改善する方法もあったと思いますが、どうして校則をなくす方向になったのでしょうか。<br>
+
校則をなくしたもう一つの理由に、生徒に「非認知的能力」を身に付けてほしいという願いがあった。<br>
西郷 先生方って、校則があると、話し合いにならないんです。「校則があるからダメ」「守るか、守らないか」になってしまいます。<br>
+
社会で活躍するためのコミュニケーション能力や柔軟な発想力など、紙の試験では測れないスキルを指す。<br>
例えば、「靴下は白」と規定があったから、理由を考えずに「校則にあるから」と、そこで指導は終わってしまいます。<br>
+
そのために生徒に対し6つのことを実践した。<br>
一方、生徒に聞かれた時に「汚れたときにわかりやすいから」と説明すれば、そこから話し合いが始まります。<br>
+
①言うことを否定しない②話を聞く③共感する④触れ合いを積極的に行う⑤能力ではなく努力を褒める⑥行動を強制しない―<br>
結果、合理的な話し合いを重ねることで信頼関係ができてきます。<br>
+
いずれも厳しい校則とは相いれないことだった。<br>
スカート丈についても、ルールがなければ、「短すぎるんじゃないか?」「寒くないか?」などと先生たちが言ってくれます。<br>
+
―生徒はどう変わったか。<br>
いろんな考えがあります。大人でもさまざまな考えがある中で、生徒は自分で選択していきます。<br>
+
「管理」されることに慣れた子は最初は戸惑うが、自由に思ったことを言わせた。<br>
そもそも、校則をがんばってなくそうと思ったのは、不登校の子どもたち、発達障害の子どもたちがいたからです。<br>
+
「授業がつまらない」でも「こんなの将来役に立たない」でも、とがめない。<br>
厳しく指導すると、学校に来なくなります。でも、そうした子だけに「特例」を許すと、他の生徒が「なんで、あの子だけ?」と不満を言います。<br>
+
その結果、教諭との信頼関係を作りやすくなったと思う。<br>
だったら、校則でしばりつけることはやめようと。<br>
+
年に数回「ゆうゆうタイム」といって、生徒と教諭が一対一で自由に話せる時間を作ったが、生徒の表情が豊かになったと感じる。<br>
その頃、別の問題が起きました。文字が読めず、板書が取れず、教科書が読めない生徒がいたのです。<br>
+
こうして子ども本来の、自分自身に戻していく。<br>
そのため、タブレットを利用可能にしました。音声読み上げソフトで教科書の内容を聞き、板書は写真で撮りました。<br>
+
自分から進んで勉強しようとする生徒が多くなり、学力も身についた。<br>
試しに、その生徒がいるクラスだけタブレットを持ち込み自由にしました。<br>
+
朝8時から、廊下に設けられたハンモックや椅子に座って、それぞれ勉強していた。<br>
最初は2、3人が持ってきましたが、重いし、管理が大変なので、必要のない子は持ってこなくなりました。このやり方を全体に広げたのです。<br>
+
友達に対する考え方も変わったようだ。<br>
'''校則でしばることが染み付いている''' <br>
+
入学当初は他人の言動を気にしてばかりで、教師に「あの子はルール違反では?」と告げ口しに来た生徒もいた。<br>
――先生を育てることになりますね。<br>
+
しかし、桜丘中ではそれが意味の無いことだと気づくと、「私は私、あの人はあの人」だと自分も、相手も尊重できるようになっていく。<br>
西郷 そうです。ただ、校則が厳しい他の学校から転勤してきた先生は慣れるのが難しいんです。<br>
+
2、3年生ではいじめは全く無い。<br>
うちの学校は私服ですが、そうした先生は、私服の生徒を見て「私、無理です」と、1日中イライラしていました(笑)。<br>
+
―全国の中学、高校には、理不尽な校則がたくさんある。<br>
何か注意した時に、うちの生徒が「どうしてですか?」と返すことも、先生によっては「生意気だ」と映ってしまいます。<br>
+
中高生が不安定な思春期にあることを忘れてはいけない。<br>
校則でしばることが染み付いていますからね。<br>
+
合理的な理由がないルールで縛ると最初は反発する。<br>
上から目線での威圧感がある先生には、「生徒とは対等に話し合いましょう」「馬鹿にするような話し方はやめてほしい」と伝えています。<br>
+
「内申書に響く」などと言われると、生徒は意見を述べるどころか、考えることさえ諦めてしまう。<br>
校則がないということは、正解がないということです。<br>
+
ストレスがたまると、勉強にも集中できないだろう。<br>
採用も、できるだけ新規教員をお願いしています。そして、若い先生にはどんどん外へ行って、失敗してもいいから勉強してもらいたいです。<br>
+
学校は厳しい校則を運用する一方、社会で法に触れることが「治外法権」になり、曖昧に対処されがちだ。<br>
最初の10年で勉強しないと、知識もスキルも落ちていくだけです。僕も含めて、能力主義なんです。<br>
+
これでは生徒を混乱させる。体罰は暴行、傷害罪で、学校の内も外も同じ法律を適用すべきだ。<br>
3年目で完全に一人前になるように育てています。<br>
+
桜丘中でも生徒が窓ガラスを割ったら、故意であれ過失であれ必ず弁償してもらった。<br>
――保護者側からは意見があると思うのですが……。<br>
+
校則はなくても、社会のルールである法律を守らなければならないという厳しさは、生徒も実感していた。<br>
西郷 いっぺんに校則をなくしたわけではありません。<br>
+
日本は1994年に「子どもの権利条約」を批准した。<br>
例えば、靴下の色、セーターの色を自由にしていき、夏は半ズボンでもよいということにしていきました。<br>
+
12条に意見表明権を定めており、生徒がルールや学校のことについて自由に意見を述べる機会は保障されなければならないはずだ。<br>
そして、生徒会がカジュアルデーを設けました。土曜日は私服と決めたのです。<br>
+
数年前、桜丘中でも生徒手帳に一部を抜粋して載せた。<br>
小学校だって、私服じゃないですか。<br>
+
子どもたちに、君たちの権利は認められ、大切にされているんだということを伝え、安心してほしかったからだ。<br>
徐々に慣れていき、「別にかまわない」という感じになっていきました。違和感がなくなったのです。<br>
+
信頼とは、そうやってつくられていくと思う。<br>
ですので、私は、逆に制服のある学校へ行くと違和感を抱きます。<br>
+
×     ×   ×   ×<br>
同じ制服を着させて、どうやって生徒を区別しているのか。わからないじゃん、と(笑)。<br>
+
さいごう・たかひこ 1954年生まれ。今年3月まで東京都世田谷区立桜丘中校長。<br>
'''SNSのトラブルは減りました'''<br>
+
著書に「校則なくした中学校 たったひとつの校長ルール」<br>
――携帯電話やスマホ、SNSに関するルールは?<br>
+
■関連記事はこちら<br>
西郷 保護者からは「スマホを禁止して」という声はありません。<br>
+
ボタンの間から下着の検査「何でここまで?」校則は誰のためにあるのか(1)<br>
「スマホを買ってほしいと言われて困る」という声はありますが(笑)。<br>
+
教諭も困惑、制服検査「あれはセクハラ」校則は誰のためにあるのか(2)<br>
以前は、LINEのグループを作ることは禁止になっていました。<br>
+
〔2020年12/25(金) 47NEWS〕 <br>
それは悪口を書いたり、グループでハブにしたりすることがあったからです。<br>
+
でも、禁止してもみんなやりますからね。<br>
+
LINEの人に「出張授業」にきてもらい、SNSの使い方について話してもらいました。<br>
+
今でも、許可なく写真をアップしたというくらいのトラブルはあります。<br>
+
しかし、理由はわかりませんが、SNSのトラブルは減りました。<br>
+
これまでは悪いことをすると学校の先生に叱られるという発想でしたが、今は、社会から叱られるということがわかってきました。<br>
+
校内の問題ではすまされない。<br>
+
それで慎重になっているのかもしれません。<br>
+
――生徒会との関係はどうでしょうか。<br>
+
西郷 普通、生徒総会は何も面白くない。つまらないじゃないですか。<br>
+
そこで何を言っても、最終的に先生が決めるのなら、総会で意見が出るはずもありません。<br>
+
だから、「ここで決まったことは実現するよ」と言ったんです。<br>
+
最低でも、決まったことを先生が実現する努力を見せる。すると、どんどん意見が出て盛り上がります。<br>
+
僕の考えと同じことを言う生徒がいると「シメた!」と思うんですよ(笑)。<br>
+
最近実現したことは、校庭に芝生を植えたこと。<br>
+
ただ、野球やサッカーもしますし、植えたのは一部にしました。また、定期テストをなくしました。<br>
+
うちの学校で学力が落ちたら……<br>
+
――定期テストをなくして、評価はどうやっているのですか?<br>
+
西郷 9教科100点満点のテスト勉強は、なかなか一度にできません。<br>
+
でも、「10点満点」のテストならば、前の日に家で勉強すればできます。<br>
+
中間や期末テストをまとめてやるのではなく、こまめに小テストをやっていくことにしたのです。<br>
+
生徒の提案に対して、先生たちは反対すると思っていました。<br>
+
ところが、先生方が、定期テストではない方法を調べてきました。僕以上のことを先生方は考えていたんです。<br>
+
うちの学校で学力が落ちたら、日本にとってのチャレンジは終わります。<br>
+
校則をなくしたら学力は落ちる、という結論になってしまう。<br>
+
だから先生方も、学力向上には力を入れようと思っています。<br>
+
実際、学力はかなり上がっていますが、成績のいい子は、偏差値の高い進学校よりも、自由な校風の青山高校だったり、やりたい部活動で高校を選んだりすることが多いですね。<br>
+
だから、親御さんはどう思っているのか……(笑)。<br>
+
ただ、そうやって自分で考えることが重要ですし、そういう自由な環境からじゃなければ、日本のスティーブ・ジョブズは生まれてこないと思いますよ。<br>
+
'''今後、改善したいのは授業の質です'''<br>
+
――部活動のあり方はどうでしょうか?<br>
+
西郷 水曜日と日曜日の公式練習は禁止しています。そして、週10時間と決めて、平日は2時間、土曜日は3時間にしています。<br>
+
それ以外に自主練はありますが、強制は禁止しています。そうすることで自主的な意識が芽生えます。<br>
+
自主練に教師は立ち合いませんが、コーチか保護者が付いているようにします。<br>
+
部活の顧問をやりたくて教師になった人もいます。そんな人は、土日も部活をやりたい。<br>
+
しかし、そうでない人からは「ブラック部活」と呼ばれるほどです。いまは教師のなり手がいない時代ですからね。<br>
+
少しでも働きやすい職場にしなければいけません。<br>
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また、教師にも休養が必要です。飲みに行ったり、趣味に時間を費やすことが一人の人間として必要なのです。<br>
+
――今後の学校運営の課題は?<br>
+
西郷 改善したいのは授業の質です。一斉に知識を注入する授業は、もういいでしょ? 人間は知識ではAIにかないません。<br>
+
創造性を教えていかないと、学校だけでなく、日本が潰れてしまいます。だから、受験用の授業と、創造性を育てる授業を分けたいです。<br>
+
ただ、国が変わらないとなかなかできません。そのため、受験用の授業も必要悪でやっていますが、チャレンジをしていきたいです。<br>
+
この学校の校長も今年で10年になりましたが、長期間務めたからこそ、できたという部分もあります。<br>
+
でも、それも今年度で終わりです。その後は、何も考えていません。<br>
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2019年6月7日12:50追記:一部表現を修正しました。<br>
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〔2019年6/7(金) 渋井 哲也 文春オンライン〕 <br>
+
 
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'''世田谷の校則ゼロ公立中、授業中に廊下で自習してもOK'''<br>
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桜丘中学校の西郷孝彦校長 <br>
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いじめが激減、校内暴力も消え、有名校進学数も平均学力も区のトップレベル──。<br>
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私立中進学率の高い東京都世田谷区で、「越境してでも行きたい」と人気となっている公立中学校が、世田谷区立桜丘中学校だ。<br>
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歴代の校長が「一日でも早く異動したい」と嘆息するほど荒れた同校で、2010年に就任したのが西郷孝彦校長(64才)。<br>
+
足かけ9年を費やして、自由にして多様な学校をつくり上げた。<br>
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窮屈な規則が苦手だという西郷校長は、納得のいかない校則の一つひとつを検証、ついには全廃してしまったという。<br>
+
'''◆授業中に教室の外にいてもいい'''<br>
+
午前11時、教室では授業の真っ最中。<br>
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国語のクラスでは先生の読み上げる百人一首を血眼になって奪取する声が響き、美術のクラスではクラフト模型を組み立てる生徒たちの熱気が廊下まで伝わってくる。<br>
+
英語の授業時間にバスケットボールの試合や調理実習をすべて英語だけで行うクラスも。<br>
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しかし廊下には、そのどれにも属さない生徒の姿が数人。<br>
+
「教室にいるのが嫌だったり、入りづらかったりした時は、生徒の判断で、廊下で自習して構いません」<br>
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職員室前の廊下には机とイスが並び、そこでタブレットを使って動画を見ながら自習したり、英語のテキストを解いたりする生徒たちの姿がある。<br>
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その様子を、ヒト型ロボットのペッパーが静かに見守っていた。<br>
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校舎1階の理科室では、3Dプリンターを使って両生類の心臓を再現する授業が行われていた。<br>
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4人ずつの班に分かれた生徒たちがパソコンのソフトを操って心臓の構造をデザインすると、3Dプリンターがカタカタと音を立て、立方体の模型を作り出す。<br>テーブルのあちこちから「デザイン通りだ」と歓声があがる。<br>
+
この授業を担当するのは、理科の長田浩貴先生。2年前、この学校で教師生活をスタートさせたばかりだ。<br>
+
「大学時代に3Dプリンターの研究をしていて、いつか授業に採り入れたいと考えていたんです。<br>
+
そう西郷校長に話したら、『やってみなよ、失敗してもいいから』と背中を押してくださったんです。こんなに早く実現するとは思いませんでした」(長田先生)<br>
+
失敗どころか、新しい試みの成果は上々。<br>
+
「単に教科書を読むだけではなく、リアルな模型を作ることで、心臓の働きを理解してほしかったんです。<br>
+
そのうえで、もし心臓模型の構造を改善するとしたらどうすればいいか、自分たちで考えてほしかった。<br>
+
実際、生徒たちから挙がってきたアイディアは、ぼくの想像以上。発表を聞きながら、鳥肌が立ちました」(長田先生)<br>
+
なかでも熱心に3Dプリンターを見つめていたのは、2年生のエイジくん(仮名)。このクラスの生徒ではない。<br>
+
「本当は体育の授業中なんですが、ぼくは集団行動が苦手で、サッカーをするのが怖いんです。<br>
+
今、この教室の前を通りかかったら、3Dプリンターが見えたので、思わず中に入りました」(エイジくん)<br>
+
いきなり教室に現れた“珍客”を、ほかの生徒や先生が咎めることはない。<br>
+
授業が終わりに近づくと、「体育の先生が心配するから、顔だけ出して来いよ」と、長田先生は彼を送り出した。<br>
+
実はこのエイジくん、文字を書くのが苦手で、タブレットを利用してノートを取りながら授業を受けている。<br>
+
「機械やコンピューターが好きで、タブレットを使ってもいいと言われてから、学校に来るのが楽しくなりました。<br>
+
この学校はぼくみたいな子どもも伸ばしてくれるんだなって。<br>
+
先生との壁? それはない。先生はぼくにとって頼れる存在です」(エイジくん)<br>
+
彼は自分の居場所を学校で見つけた。<br>
+
エイジくんに限らず、タブレットやスマホは、どの生徒にも解禁されている。<br>
+
ところが、読み書きに不自由のない生徒は持ってこなくなった。<br>
+
不思議と、SNS関連のトラブルも減った。西郷校長が言う。<br>
+
「生徒は授業がつまらなければ、はっきり“つまらない”と言っていい。<br>
+
これまで日本の教育では、他人と同じように振る舞えない子どもたちに対して、“みんなと一緒にしなさい”とか“振り返って反省しなさい”という指導ばかりしてきました。<br>
+
ですがこれからの時代、子どもたちに身につけてほしいのは、誰にも負けない自分の才能の尖った部分、つまり“エッジ”を見つけて磨くこと。<br>
+
人に取って代わってAIが単純作業を担うようになるであろう今後、他人とは違う“変なやつ”であることこそが、自分自身を輝かせるはずです」<br>
+
確かに、アップル社の創業者のスティーブ・ジョブズは身なりを気にせず、裸足で資金提供者と交渉したというし、テスラ社のCEO・イーロン・マスクは、会社のいたるところで地べたに寝転がって仮眠するそうだ。<br>
+
こうした、世間の規範からはみ出した“変わり者”の彼らは、エッジを磨き、世界を驚かせる発明や事業をやってのけた。<br>
+
2020年には知識や学力のみを問う大学入試センター試験が廃止され、表現力や思考力、判断力が重視される新テストが導入される。<br>
+
「自分がどの分野に向いているか」を判断し、「自分のやりたいこと」を見つけてその力を活用しようとすることは、まさに新時代を先取りしている。<br>
+
'''◆人と違うことに寛容になる'''<br>
+
桜丘中は、障害がある生徒や、もともと不登校だった生徒も積極的に受け入れている。<br>
+
そもそも社会にはいろいろな人がいて、人はそれぞれ違うということが当たり前だとわかれば、自分と違う他人に寛容になれるという考えがあるからだ。<br>
+
だが、その取り組みも、最初からすんなりスタートできたわけではない。<br>
+
4年前、インクルーシブ教育(障害のある人とない人が同じ場所で学ぶのみならず、誰もが自由な社会に効果的に参加できる社会の実現をめざす教育)を導入しようとしたところ、「そんなことしたら、勉強ができなくなる」と保護者から猛反対されたことがあった。<br>
+
ならば、学校全体の成績をあげて納得させようと考えた西郷校長は、わかりやすく実践的な授業を次々、導入していく。<br>
+
そして冒頭で説明したとおり、今や同校は区でもトップクラスの成績を収めている。<br>
+
英語教育には特に力をいれ、すべてを英語だけで他の教科の勉強をしたり、作業をするCLIL(Content and Language Integrated Learning、内容言語統合型学習の略。<br>
+
教科やトピックなどの『内容』と『言語』を融合して学ぶ教育方法。<br>
+
1つのテーマをさまざまな角度で扱いながら、互いが意見などを交換し合い、言語を身につけていくこと)を導入している。<br>
+
「英語なんて、実はしゃべれなくても社会ではどうにでもなるよね」と笑いながらも、「でもね」と西郷校長はこう続けた。<br>
+
「海外から翻訳されて日本で発信される出来事やニュースは、発信する側のバイアスがかかっていることもあれば、すべてでもない。<br>
+
英語がわかるようになると、本当は世界のあちこちでそのニュースがどう発信されているのか、自分で判断できるようになる。<br>
+
その意味で英語を身につけてもらいたいのです」<br>
+
〔2019年2/28(木) NEWS ポストセブン※女性セブン2019年3月14日号より一部抜粋〕 <br>
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[[Category:中学校のニュース|せたがやくりつさくらがおかちゅうがっこう]]  
 
[[Category:中学校のニュース|せたがやくりつさくらがおかちゅうがっこう]]  
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[[Category:東京都(地域)|せたがやくりつさくらがおかちゅうがっこう]]  
 
[[Category:東京都(地域)|せたがやくりつさくらがおかちゅうがっこう]]  
 
[[Category:世田谷区(東京都)|せたがやくりつさくらがおかちゅうがっこう]]
 
[[Category:世田谷区(東京都)|せたがやくりつさくらがおかちゅうがっこう]]
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[[Category:47NEWS|せたがやくりつさくらがおかちゅうがっこう]]
[[Category:女性セブン|せたがやくりつさくらがおかちゅうがっこう]]
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2021年6月18日 (金) 12:48時点における最新版

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世田谷区立桜丘中学校

所在地 東京都世田谷区
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「校則なし」で区立中はどう変わったか 校則は誰のためにあるのか'
東京都世田谷区立桜丘中の前校長 西郷孝彦さん
「校則なし」を実現した公立中学校がある。東京都世田谷区の区立桜丘中だ。
服装や髪形は自由で、遅刻しても、教諭に大声で怒鳴られることはない。
定期テストやチャイムもない。
全国各地の学校ではいまだ、下着の色指定やツーブロック禁止など理不尽な校則がまかり通る中、桜丘中はどのように校則をなくしていったのか。
前校長の西郷孝彦さん(66)に聞いた。
校則はいったい誰のため?
3回にわたって考える3回目です。(共同通信=小川美沙)
―校則をなくしたきっかけは。
赴任した2010年当時、桜丘中は荒れていた。
服装や髪形に関する決まりがあり、教諭が声を荒らげて生徒を指導することもあったが、子どもたちを上から押さえつけたってうまくはいかないと感じていた。
学校にはさまざまな子どもがいる。「普通の子」なんて存在しない。
こだわりが強い、朝起きられない、制服が着られない、学習障害や発達障害がある…。
こうした個性や特性を考えずに、「靴下は白」「中学生らしい髪形」など合理的な理由がない校則を当てはめると、それがストレスになり、不登校になる。
廊下に設けられたスペースで過ごす桜丘中の生徒たち(2019年、西郷孝彦さん提供)
生徒全員に「学校は楽しい」と感じてもらえるにはどうすべきかを考えると、合理的な理由のある校則は一つもなかった。
それに、校則で「みんな同じ」を押しつけると、枠からこぼれ落ちた子がいじめの対象になる。
ある男子生徒は、学習障害があるためにタブレットの持ち込みを必要としていたが、別の中学では「一人だけ特例は認められない」と断られたそうだ。
桜丘中で受け入れ、これを機に「全員持ち込みOK」にした。
その生徒だけでなく、誰にとっても過ごしやすい環境を目指したからだ。
―学校は集団生活を送る場で、ルールは必要だとされているが。
校則ありき、ではない。生徒が自ら考え、判断する力を伸ばすにはどうするか、だ。
どんな髪形や服装をするかは自分で決める。
帽子をかぶって来る子もいれば、メイクをする子もいた。
チャイムがないから、自ら時間を管理する。授業中に居眠りしても、注意することはない。
短時間の居眠りで頭はスッキリする。
教諭は授業に集中してもらえるよう工夫するようになり、居眠りも減った。
校則をなくしたもう一つの理由に、生徒に「非認知的能力」を身に付けてほしいという願いがあった。
社会で活躍するためのコミュニケーション能力や柔軟な発想力など、紙の試験では測れないスキルを指す。
そのために生徒に対し6つのことを実践した。
①言うことを否定しない②話を聞く③共感する④触れ合いを積極的に行う⑤能力ではなく努力を褒める⑥行動を強制しない―
いずれも厳しい校則とは相いれないことだった。
―生徒はどう変わったか。
「管理」されることに慣れた子は最初は戸惑うが、自由に思ったことを言わせた。
「授業がつまらない」でも「こんなの将来役に立たない」でも、とがめない。
その結果、教諭との信頼関係を作りやすくなったと思う。
年に数回「ゆうゆうタイム」といって、生徒と教諭が一対一で自由に話せる時間を作ったが、生徒の表情が豊かになったと感じる。
こうして子ども本来の、自分自身に戻していく。
自分から進んで勉強しようとする生徒が多くなり、学力も身についた。
朝8時から、廊下に設けられたハンモックや椅子に座って、それぞれ勉強していた。
友達に対する考え方も変わったようだ。
入学当初は他人の言動を気にしてばかりで、教師に「あの子はルール違反では?」と告げ口しに来た生徒もいた。
しかし、桜丘中ではそれが意味の無いことだと気づくと、「私は私、あの人はあの人」だと自分も、相手も尊重できるようになっていく。
2、3年生ではいじめは全く無い。
―全国の中学、高校には、理不尽な校則がたくさんある。
中高生が不安定な思春期にあることを忘れてはいけない。
合理的な理由がないルールで縛ると最初は反発する。
「内申書に響く」などと言われると、生徒は意見を述べるどころか、考えることさえ諦めてしまう。
ストレスがたまると、勉強にも集中できないだろう。
学校は厳しい校則を運用する一方、社会で法に触れることが「治外法権」になり、曖昧に対処されがちだ。
これでは生徒を混乱させる。体罰は暴行、傷害罪で、学校の内も外も同じ法律を適用すべきだ。
桜丘中でも生徒が窓ガラスを割ったら、故意であれ過失であれ必ず弁償してもらった。
校則はなくても、社会のルールである法律を守らなければならないという厳しさは、生徒も実感していた。
日本は1994年に「子どもの権利条約」を批准した。
12条に意見表明権を定めており、生徒がルールや学校のことについて自由に意見を述べる機会は保障されなければならないはずだ。
数年前、桜丘中でも生徒手帳に一部を抜粋して載せた。
子どもたちに、君たちの権利は認められ、大切にされているんだということを伝え、安心してほしかったからだ。
信頼とは、そうやってつくられていくと思う。
×     ×   ×   ×
さいごう・たかひこ 1954年生まれ。今年3月まで東京都世田谷区立桜丘中校長。
著書に「校則なくした中学校 たったひとつの校長ルール」
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〔2020年12/25(金) 47NEWS〕 

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