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札幌なかまの杜クリニック

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<td>北海道札幌市中央区北二条西20-1-28 報恩ビル2F</td>
 
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2021年1月27日 (水) 17:47時点における版

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札幌なかまの杜クリニック

所在地 北海道札幌市中央区北二条西20-1-28 報恩ビル2F
TEL 011-688-5753
FAX

「虐待を防ぐために…」精神疾患や依存症を抱えた親の子育て。どうサポートする?
残念なことに、肉親による痛ましい虐待事件が後を絶たない。だが、親を責めるだけでいいのだろうか。
なかには、親の精神疾患や生きづらさゆえ、子育てに困難が生じているケースもある。
子どもの命を守るために何ができるのか。北海道に、そのヒントがあった
◆子育て支援はまず親自身の困難に寄り添う
「今日はどんな調子ですか? 困りごとがある人はいますか?」
北海道札幌市にある精神科・心療内科「札幌なかまの杜クリニック」の一室に、ソーシャルワーカー内田梓さんの声が響く。
なかまの杜では、診察とは別に、デイケア(再発防止や社会復帰のための、日帰りのリハビリのこと。
文化活動や交流などを行う)として、利用者同士の話し合いやミーティングの場を多く設けている。
そのうちの一つが、子育て中の患者を対象にした「子育て当事者研究」だ。
産後うつなどから受診した人や、保健師から紹介される人、もともとクリニックにかかっていて妊娠・出産を経験した人など状況はさまざまだが、子育て中の利用者同士で、苦労していることを語り合う。
「トイレトレーニングがうまくいかない」「動悸がひどく、子どもと遊べない」「体調が悪く寝不足。子どもに向き合う余裕がない」
この日も集まった親たちが次々と最近気になることを語り出した。
内容は子育てに限らず、自身の病気に関する悩みでもいい。仲間と語り合い、つながりを持つことが目的だからだ。Aさんがこう言った。
「苦手な人に会うと萎縮して、食事ができなくなる。
もうすぐ親戚の結婚式があるんですが、苦手な叔母が食事の様子をいつもじっと見てくるので、今から不安で……」
看護師の高村美香さんが、相槌を打ちつつ話の要点をボードに板書すると、内田さんが言った。
「じゃあ今日は、Aさんの結婚式の対処法から考えましょうか」
「苦手な人を前にオドオドしない方法は?」「目線の置き方と立ち位置に気をつけたら?」「周囲に気づかれずに食事を残す方法もあるよ」など、患者仲間からアドバイスが出てくる。
「では、叔母さん役とAさん役に分かれて、ちょっとやってみましょう」
内田さんが促すと、利用者たちが前に出て、結婚式での過ごし方をあれこれシミュレーションして演じる。
「目線を相手の鼻先に置くと怖く感じないね」「向かい合わず、斜め横に立てば威圧感がないかも」
みんなで笑いながら結婚式の即興劇をするうちに、相談者のAさんも緊張がほぐれてきた。
これは、SST(ソーシャル・スキル・トレーニング)といって、人とかかわる具体的な方法を学ぶ認知行動療法の一つだ。
心に傷を抱えるつらさやうまくいかない子育ての悩みを、ここでは安心して共有できる。
「子どもを怒鳴った」などの打ち明け話が出ても誰も非難しない。良い親になれない現実をどう改善するか、当事者同士で考える。内田さんはこう語る。
「子育て支援で必要なのは、まず親自身の困難に寄り添うこと。
語り合うことで、私たち専門家がどうサポートすればいいかも見えてくるし、患者さん同士で励まし合うこともできる。
親が自分自身を大切にできるようになり、やがて子どもを大切にすることができるのだと思います」
◆病を抱えた親の子育てを町全体で支え合う
なかまの杜の「子育て当事者研究」は、北海道浦河町にある、精神障害などを抱えた人たちの地域活動拠点「べてるの家」の当事者研究がベースになっている。
1984年に地元の教会やソーシャルワーカーに支えられながら、精神障害のある人たちが薬だけに頼るのではなく、対話によって自分たちの困難を認め、病気を持ったまま地域で生きていこうと生まれたものだ。
さらにべてるの家のメンバーらは自分たちで昆布販売などの事業を営み、地域経済を活性化させた。
周囲の人々も彼らを少しずつ受け入れるようになり、やがて、病気や障害を抱えながら親になった人たちの子育てを、行政や支援者たちが見守ってきた歴史がある。
私が訪れた日、浦河町の役場で「子育て支援検討会議(応援ミーティング)」が開かれていた。
会議室には、統合失調症と買い物依存症があるシングルマザー(43歳)と2歳の息子を囲み、町の教育委員会、病院、児童相談所、子ども家庭支援センターなどから約10名の関係者が集まっていた。
女性には、すでに成人した子どももいるが、精神的に不安定だった時期の子育ては難しく、当時はネグレクトに近い状態になったこともあったという。
だが現在は、町の精神科クリニック「浦河ひがし町診療所」に通院し、医師や看護師、スタッフに見守られながら、息子をここまで順調に育ててきた。
ひがし町診療所は、べてるの家ともつながりが深く、浦河赤十字病院の精神科医だった川村敏明医師が退職後、「地域に根付いたクリニックを」と開業した。
診療では時間をかけて患者に向き合い、患者同士で支え合う会を開くなど、利用者が必要な時にはいつでも立ち寄れる場所として機能している。
前述の女性も、心身の調子が悪ければいつでもここのスタッフに息子を預け、家で休んだり買い物に出かけたりすることができる。
この日の「応援ミーティング」のテーマは、そんな息子を保育所に預けるかどうかだった。
「診療所の皆さんに助けてもらってここまできたけど、大人とだけ接していたら、同世代の子と触れ合うチャンスを逃して成長に良くないんじゃないかと心配で。
そろそろ保育園に預けようかと思うんです」
彼女の声を聞き支援者の多くがうなずくなか、当の男児を膝にのせてご飯を食べさせていた川村医師は「俺がさみしいから嫌だなぁ」とみんなを笑わせてから、真顔でこう言った。
「この子は大人に囲まれて安心してスクスクいい子に育っている。何も心配いらないよ。
大事なのは、この子を保育所に入れた後、母親であるあなたが自由になった時間をどう過ごすか、しっかり考える時期にあるということじゃないかな」
神妙に頷く女性を前に、川村医師はこう続ける。
「急に依存症を治して、しっかりした親になれって言っているんじゃないよ。
しっかりした親が子どもを幸せにできるとは限らないからね。
ただ、この子が外の社会に安心して出るためには、親のあなたも幸せに生きないと。
保育園に預けてもいいけど、いつでも私たちのところに顔を出して、子育てのことを報告し続けてほしい。
これからもみんなで育てていけばいいんだからね」
症状の重さにもよるが、精神障害などのある親が出産した場合、児童相談所が介入し、必要であれば乳児院入所や特別養子縁組の措置をとるケースは多い。
だがこの町では長年、親子をなるべく隔絶させず、行政、教育委員会、福祉、医療の専門家が関係性をオープンにして、協力し、子育てに介入し見守る姿勢を保っている。川村医師は言う。
「虐待などの防止には、子が安全に安心して育つ環境を作るのが大前提です。
だが、精神疾患を理由に、安易に親子を離れ離れにするのが子育て支援と言えるのか、私には疑問です。
浦河では30年以上試行錯誤を続け、親を悪者にしない視点をみんなで守り続けてきたのです」
◆医師も患者と同じように弱さを見せていい
浦河町にはほかにも精神科を含めたクリニックがある。
児童精神科医の八十川真里子医師が、内科医の夫とともに設立した「うらかわエマオ診療所&からし種」だ。
知的障害や発達障害のある小・中学生が放課後に通えるデイサービスがあり、親子の両方が精神科医の診察やカウンセリングを受けられる。
ともに気分障害を抱える、ある母娘のカウンセリングの様子を見せてもらった。
長女はすでに就職し家を離れ、中学生の次女と母親で現在2人暮らしをしている。
母は離婚後に金銭トラブルを抱えながら2人の娘を育ててきた。
一緒に暮らしていた頃は長女とよく激しい喧嘩をしたらしい。
大騒ぎを聞いた近隣住民から通報を受け、警察が様子を見にくることもあった。
次女は不登校を経験したが、親子で診療所や放課後デイサービスに来るようになり、関係はずいぶんと変化したという。
「真里子先生に親子で診てもらうようになって、お母さんは変わったよ。
すごく穏やかになった。私もここの放課後デイに来るようになって、学校に行けるようになったもんね。
ここならたとえ感情を爆発させても、受け止めてもらえて、しっかり話も聞いてもらえる。
真里子先生に悩みを話せるようになって、自分のことがよくわかるようになった」
八十川医師は優しくうなずく。
「あなたはよくやってるよ。年下の面倒もよく見てくれるしね。お母さんも本当に落ち着いてきたよね」
実は八十川医師自身も、精神的に調子を崩し育児と仕事に苦しんだ過去があった。
「静岡で精神科医になったはいいものの、頑張りすぎて燃え尽きてしまって。休職した時期もあったのです。
『べてるの家』のことを知ってこの町にたどり着き、周囲に支援されながら、なんとか育児をしてきました。
そしてご縁があって、このクリニックを立ち上げることができて。
私のところに来てくれる利用者さんたちは、みんな私の弱さを知っています。それでも相談に来てくれる。
支援する側とされる側の境目があまりない町だからこそ、こんな私でも母子支援にかかわれているのかもしれませんね」
◆子どもと親の人生を同時に支え続ける
子どもに重い疾患や障害がある場合にも、虐待への注意は必要で、親へのサポートが欠かせない。
札幌市にある社会福祉法人「麦の子会」(通称むぎのこ)は、発達障害児の療育施設として83年に生まれた。
現在は、発達支援、相談支援、家族支援、地域支援を柱に、精神科クリニックや放課後デイサービス、ショートステイやの親への相談事業など包括的な支援を行う。
24年間、むぎのこにかかわってきた統括部長の古家好恵さんに話を聞いた。
「もともと障害のある子どもたちの居場所を作る目的で始めたのですが、利用者の親御さんと話していると、やはり親、特に母親へのサポートが不可欠なんだとわかってきました」
発達障害児を抱えた親は、日々思い通りにいかない子育てのなかで、大変な苦労をする。
周囲の無理解から孤立し、深く悩む人も多い。
「いっぱいいっぱいになって、子どもにつらく当たってしまうケースは多い。
でも、親も苦しんでいます。だから、子どもを怒鳴ったり叩いたりしてしまったら、必ず電話をしてくださいと伝え、私たちはいつでも自宅に向かう態勢をとっています。
すぐに自宅に駆けつけ、とにかく話を聞く。
それを繰り返していると次第に、親も爆発する前に自分から助けを求められるようになります」
子どもを預かる時間を増やす、家事や育児を手伝うなど、一人一人に必要な支援をする。
団体として利益を考えるより先に、とことん、親の苦しみに寄り添うことに徹してきた。
そうした職員たちの熱意が伝わるのだろうか。親がまず職員に心をゆるし、安心すれば、子どもへの接し方も変わると言う。
「子の障害のあるなしにかかわらず、誰だって気持ちに余裕がなくなれば子育てがつらくなります。
親を責めても、追い詰めるだけ。
支援を受けることは甘えではありません。親に余裕が生まれれば、必ず落ち着いて子育てができるようになります。結果、親も子も楽になれるんです」
現在、むぎのこでは、ファミリーホーム(家庭環境を失った子らを里親や児童養護施設職員などが養育する住居のこと)を設立し、障害児を受け入れている。
かつて障害児を抱えてむぎのこを利用していた親たちが、今度は職員や里親になるという良い連鎖も生まれている。
ある女性は、里親になった今がとても幸せだと言う。
「孤独でつらかった子育てを、むぎのこの支えで乗り切ることができました。
経験を生かし、子育てに困っている親御さんの話を聞き、里子を迎えられているのは、ありがたいこと。
子育てのやり直しをさせてもらっているようです」
北海道で見られたこうした地域包括型の子育て支援は、一朝一夕に確立できるものではない。
だが、虐待を防ぐために、こうした取り組みが全国に広がることを期待したい。
そして私たち一人一人にも、人知れず子育てに悩む隣人の姿を知り、通報する前に対話をしてみるという努力が必要だろう。
自分だって同じ立場になるかもしれない。子どもを守るには多角的な支援が必要だ。
〔2020年8/7(金) 婦人公論.jp 玉居子泰子〕

「虐待を防ぐために…」精神疾患や依存症を抱えた親の子育て。どうサポートする?
残念なことに、肉親による痛ましい虐待事件が後を絶たない。だが、親を責めるだけでいいのだろうか。
なかには、親の精神疾患や生きづらさゆえ、子育てに困難が生じているケースもある。
子どもの命を守るために何ができるのか。北海道に、そのヒントがあった。
(取材・文=玉居子泰子) ◆子育て支援はまず親自身の困難に寄り添う
「今日はどんな調子ですか? 困りごとがある人はいますか?」
北海道札幌市にある精神科・心療内科「札幌なかまの杜クリニック」の一室に、ソーシャルワーカー内田梓さんの声が響く。
なかまの杜では、診察とは別に、デイケア(再発防止や社会復帰のための、日帰りのリハビリのこと。
文化活動や交流などを行う)として、利用者同士の話し合いやミーティングの場を多く設けている。
そのうちの一つが、子育て中の患者を対象にした「子育て当事者研究」だ。
産後うつなどから受診した人や、保健師から紹介される人、もともとクリニックにかかっていて妊娠・出産を経験した人など状況はさまざまだが、子育て中の利用者同士で、苦労していることを語り合う。
「トイレトレーニングがうまくいかない」「動悸がひどく、子どもと遊べない」「体調が悪く寝不足。子どもに向き合う余裕がない」
この日も集まった親たちが次々と最近気になることを語り出した。
内容は子育てに限らず、自身の病気に関する悩みでもいい。仲間と語り合い、つながりを持つことが目的だからだ。Aさんがこう言った。
「苦手な人に会うと萎縮して、食事ができなくなる。
もうすぐ親戚の結婚式があるんですが、苦手な叔母が食事の様子をいつもじっと見てくるので、今から不安で……」
看護師の高村美香さんが、相槌を打ちつつ話の要点をボードに板書すると、内田さんが言った。
「じゃあ今日は、Aさんの結婚式の対処法から考えましょうか」
「苦手な人を前にオドオドしない方法は?」「目線の置き方と立ち位置に気をつけたら?」「周囲に気づかれずに食事を残す方法もあるよ」など、患者仲間からアドバイスが出てくる。
「では、叔母さん役とAさん役に分かれて、ちょっとやってみましょう」
内田さんが促すと、利用者たちが前に出て、結婚式での過ごし方をあれこれシミュレーションして演じる。
「目線を相手の鼻先に置くと怖く感じないね」「向かい合わず、斜め横に立てば威圧感がないかも」
みんなで笑いながら結婚式の即興劇をするうちに、相談者のAさんも緊張がほぐれてきた。
これは、SST(ソーシャル・スキル・トレーニング)といって、人とかかわる具体的な方法を学ぶ認知行動療法の一つだ。
心に傷を抱えるつらさやうまくいかない子育ての悩みを、ここでは安心して共有できる。
「子どもを怒鳴った」などの打ち明け話が出ても誰も非難しない。
良い親になれない現実をどう改善するか、当事者同士で考える。内田さんはこう語る。
「子育て支援で必要なのは、まず親自身の困難に寄り添うこと。
語り合うことで、私たち専門家がどうサポートすればいいかも見えてくるし、患者さん同士で励まし合うこともできる。
親が自分自身を大切にできるようになり、やがて子どもを大切にすることができるのだと思います」
◆病を抱えた親の子育てを町全体で支え合う
なかまの杜の「子育て当事者研究」は、北海道浦河町にある、精神障害などを抱えた人たちの地域活動拠点「べてるの家」の当事者研究がベースになっている。
1984年に地元の教会やソーシャルワーカーに支えられながら、精神障害のある人たちが薬だけに頼るのではなく、対話によって自分たちの困難を認め、病気を持ったまま地域で生きていこうと生まれたものだ。
さらにべてるの家のメンバーらは自分たちで昆布販売などの事業を営み、地域経済を活性化させた。
周囲の人々も彼らを少しずつ受け入れるようになり、やがて、病気や障害を抱えながら親になった人たちの子育てを、行政や支援者たちが見守ってきた歴史がある。
私が訪れた日、浦河町の役場で「子育て支援検討会議(応援ミーティング)」が開かれていた。
会議室には、統合失調症と買い物依存症があるシングルマザー(43歳)と2歳の息子を囲み、町の教育委員会、病院、児童相談所、子ども家庭支援センターなどから約10名の関係者が集まっていた。
女性には、すでに成人した子どももいるが、精神的に不安定だった時期の子育ては難しく、当時はネグレクトに近い状態になったこともあったという。
だが現在は、町の精神科クリニック「浦河ひがし町診療所」に通院し、医師や看護師、スタッフに見守られながら、息子をここまで順調に育ててきた。
ひがし町診療所は、べてるの家ともつながりが深く、浦河赤十字病院の精神科医だった川村敏明医師が退職後、「地域に根付いたクリニックを」と開業した。
診療では時間をかけて患者に向き合い、患者同士で支え合う会を開くなど、利用者が必要な時にはいつでも立ち寄れる場所として機能している。
前述の女性も、心身の調子が悪ければいつでもここのスタッフに息子を預け、家で休んだり買い物に出かけたりすることができる。
この日の「応援ミーティング」のテーマは、そんな息子を保育所に預けるかどうかだった。
「診療所の皆さんに助けてもらってここまできたけど、大人とだけ接していたら、同世代の子と触れ合うチャンスを逃して成長に良くないんじゃないかと心配で。
そろそろ保育園に預けようかと思うんです」
彼女の声を聞き支援者の多くがうなずくなか、当の男児を膝にのせてご飯を食べさせていた川村医師は「俺がさみしいから嫌だなぁ」とみんなを笑わせてから、真顔でこう言った。
「この子は大人に囲まれて安心してスクスクいい子に育っている。何も心配いらないよ。
大事なのは、この子を保育所に入れた後、母親であるあなたが自由になった時間をどう過ごすか、しっかり考える時期にあるということじゃないかな」
神妙に頷く女性を前に、川村医師はこう続ける。
「急に依存症を治して、しっかりした親になれって言っているんじゃないよ。
しっかりした親が子どもを幸せにできるとは限らないからね。
ただ、この子が外の社会に安心して出るためには、親のあなたも幸せに生きないと。
保育園に預けてもいいけど、いつでも私たちのところに顔を出して、子育てのことを報告し続けてほしい。
これからもみんなで育てていけばいいんだからね」
症状の重さにもよるが、精神障害などのある親が出産した場合、児童相談所が介入し、必要であれば乳児院入所や特別養子縁組の措置をとるケースは多い。
だがこの町では長年、親子をなるべく隔絶させず、行政、教育委員会、福祉、医療の専門家が関係性をオープンにして、協力し、子育てに介入し見守る姿勢を保っている。
川村医師は言う。
「虐待などの防止には、子が安全に安心して育つ環境を作るのが大前提です。
だが、精神疾患を理由に、安易に親子を離れ離れにするのが子育て支援と言えるのか、私には疑問です。
浦河では30年以上試行錯誤を続け、親を悪者にしない視点をみんなで守り続けてきたのです」
◆医師も患者と同じように弱さを見せていい
浦河町にはほかにも精神科を含めたクリニックがある。
児童精神科医の八十川真里子医師が、内科医の夫とともに設立した「うらかわエマオ診療所&からし種」だ。
知的障害や発達障害のある小・中学生が放課後に通えるデイサービスがあり、親子の両方が精神科医の診察やカウンセリングを受けられる。
ともに気分障害を抱える、ある母娘のカウンセリングの様子を見せてもらった。
長女はすでに就職し家を離れ、中学生の次女と母親で現在2人暮らしをしている。
母は離婚後に金銭トラブルを抱えながら2人の娘を育ててきた。
一緒に暮らしていた頃は長女とよく激しい喧嘩をしたらしい。
大騒ぎを聞いた近隣住民から通報を受け、警察が様子を見にくることもあった。
次女は不登校を経験したが、親子で診療所や放課後デイサービスに来るようになり、関係はずいぶんと変化したという。
「真里子先生に親子で診てもらうようになって、お母さんは変わったよ。
すごく穏やかになった。私もここの放課後デイに来るようになって、学校に行けるようになったもんね。
ここならたとえ感情を爆発させても、受け止めてもらえて、しっかり話も聞いてもらえる。
真里子先生に悩みを話せるようになって、自分のことがよくわかるようになった」
八十川医師は優しくうなずく。
「あなたはよくやってるよ。年下の面倒もよく見てくれるしね。お母さんも本当に落ち着いてきたよね」
実は八十川医師自身も、精神的に調子を崩し育児と仕事に苦しんだ過去があった。
「静岡で精神科医になったはいいものの、頑張りすぎて燃え尽きてしまって。休職した時期もあったのです。
『べてるの家』のことを知ってこの町にたどり着き、周囲に支援されながら、なんとか育児をしてきました。
そしてご縁があって、このクリニックを立ち上げることができて。
私のところに来てくれる利用者さんたちは、みんな私の弱さを知っています。それでも相談に来てくれる。
支援する側とされる側の境目があまりない町だからこそ、こんな私でも母子支援にかかわれているのかもしれませんね」
〔2020年8/7(金) 婦人公論.jp 玉居子泰子〕

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