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非正規雇用の拡大から生きづらい社会の誕生

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非正規雇用の拡大から生きづらい社会の誕生

90年代からひきこもりが増大した社会的事情を調べてきました。
ある農村地域で移住者が増えている背景をみて、そこに雇用条件の大きな変化が関係していると知りました。
この雇用条件とは非正規労働者の大量の増大になります。
それは企業のおかれた状態において、いわば資本に都合のよい打開策であると知りました。
しかし、その当時の企業はどんな状態におかれていたのか、打開策は何をめざすものであったのか。その点は十分ではありません。
ようやくその手がかりになる文献を見つけました。
その背景のエッセンス部分―必ずしも全体に言及しているわけではありませんが―を紹介します。
山崎憲『「働くこと」を問い直す』(岩波新書、2014)です。

《年俸や職務給の算出基準が不明瞭なことだ。
日本の一般的な賃金のしくみは、年齢があがり、家族構成が変わるというライフステージにあわせたもので、どのような仕事をしているかにはあまり関連がない。
長期勤続に報いる部分であったり、家族を養う部分であったり、住宅を購入するといった部分がそれに含まれている。
そうしたところに年俸制や職務給をもってきても、なにを基準にすればよいのかが曖昧になる。
正社員の初任給を年俸や職務給の基準にすることもあるが、それでは家族を養うことが難しいほど低い賃金になってしまう。
初任給は若者の一人暮らしを想定していたからだ。
ボーナスのしくみも、算出基準を曖昧にする。
ボーナスは年数回に分けて数ヵ月分の給与をまとめて支払うしくみだ。
たとえば、年収が360万円で、ボーナスがその四分の一、90万円程度を占めるとすれば、毎月手にすることができる金額は22万5000円に留まる。
ボーナスを生活費に組み込んで、月々の不足額や、家や車のローンの支払いを当て込んでいる家庭がほとんどだ。
それにもかかわらず、ボーナスの額は企業の経営環境の変化にあわせて柔軟に上下させられる。
そういうところで年俸や職務給の基準を考えれば、ボーナスを抜いた22万5000円を日数と時間で割りもどした額となる。
そうなれば、ボーナスが支給される従業員の生活水準に追い付かない。
つまりは、家族を養ったり、家や車を買ったり、子どもを大学で学ばせるということが難しくなってしまうような低い賃金にはりついてしまう可能性も否定できない。
このようなしくみは、日本に独特なものだ。》(158-159p)

このように従来の日本型雇用は、年功賃金、終身雇用を特色としていました。
年俸や職務給の算出基準に手を加えるため、非正規型雇用を大っぴらに導入しました。
これが年功賃金や終身雇用制度を崩してきたのです。とくに1990年代以降のことです。
引用文はその背景を表わしています。
日本企業も1990年代のはじめにバブル経済崩壊を受け、海外進出を含む対応のために経営改善が必要だったのです。
非正規雇用の大々的で急激な拡大は、その負担を雇用される側に負担させる形で踏み出したともいえるでしょう。
非正規雇用になった側は、低賃金、社会保障制度からの除外、働き先の不安定などの面で、業務、職種、身分によってさまざまなハンディをもつことになりました。 これらはとくに若い世代から明確に表われ始めました。
この時期に就職活動をしていた人たちは「就職氷河期世代」と呼ばれます。
こうして生まれてきた社会は生きづらい社会です。
大人になって社会生活できるのは苦しいと思う人が表われました。
こういう世相の動きをとりわけ敏感に感じとる人たちのなかにひきこもりが生まれたといえるのです。
他人を押し分けて、むしろ押しのけてまで進んでいく無遠慮さを持ち合わせていない人たちです。
生きづらい社会はこのようにとりわけ90年代に誕生したのです。
ひきこもりはこのような経済社会の状況、とくに非正規雇用者が急激に社会に表われる大きな変化の時代に生まれました。
社会状況の変化だけによって生まれるのではありませんが、これは欠かせない客観条件です。
非正規雇用の人は、現在ではおよそ就業者の4割をしめています。
若い世代ほどその割合は高く、20代では過半数になっています。
90年代になってとくに若い世代からひきこもりが生まれたことは確かです。
社会的背景との関係をみれば、それを個人の特性に限定してみることができないのです。
しかし、またこの社会的な背景だけで説明しきれないとも考えます。
他の個所でそれにかかわる事情を説明したいと思います。

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