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Center:107-儒教文化論の周辺

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儒教文化論の周辺

〔2006年〕                加地伸行『儒教とは何か』(中公新書・1990年)を偶然に手に入れました。 この手の本はあまり読んだことがないので、私にとっては全体が参考になったし、また全体が消化不良になっています。  たぶん今後、この本にも立ち戻ることになるかもしれないが、今回は2,3の点に言及しておきます。

(1)儒教における礼教性と宗教性

「魯迅ら中国近代派知識人」は、儒教が中国社会の封建制を支えている点を批判しましたが、それはその礼教性の部分についてです。儒教の宗教性は、中華人民共和国が成立した今日も、民衆の中に継続しているようです。  私が中国・日本・朝鮮を儒教文化国というとき、私自身も気づいてなかったわけですが、主に対象にしているのはこの残っている儒教であり、それを著者は<宗教性>である、といっているのです。たぶん礼教性に対することばとしての宗教性ですから、それには日常性とか発想のしかたという内容が含まれているとみなければならないでしょう。 かつて、私は宗教に関する何かの論文を読んだことがあります。その本には、宗教の条件として3つを挙げていました。教義がある、施設がある、布教者がいる、というのがそれです。  しかし、これは法律的に宗教を扱ったときの条件なのでしょう。上に挙げた論文では、神道には、施設としての神社、布教者としての神主がいるけれども「教義は?」という点で神道が宗教かどうかが問われるとしていました。  しかし、宗教とは何かを、このような法律的枠内で見るのは逆立ちをしているようです。むしろ宗教をより根本に見、法律はそれをどのように扱いうるのか、あるいは扱いえないのか、を考えるのが本当のようです。 本書ではその点をこう記しています。旧来の定義のしかたはキリスト教的唯一絶対神の立場からのものであり、東北アジアにおける多神教的な世界では異なっている、と。 「宗教とは、死ならびに死後の説明者である」(33ページ)―「どのような宗教であっても、死に関する問題の説明を取り除いた場合、何が残るというのであろうか。意外にもほとんど倫理道徳だけである。宗教から倫理道徳を除いた場合、何が残るであろうか。死―死に関する問題が残るのみである」(33-34ページ)  これは、法律的に扱われた宗教の世俗性を超えた、宗教の成立、本質に関わる表現のように思えます。

(2)儒教の歴史的分析

著者(そして、この本)の優れたところは、儒教の成立、変遷あるいは解釈を中国社会の発展と関連づけている点でしょう。 [1] 孔子以前の原儒の時代。儒とは一種のシャーマニズムであり、家族単位の死と祖先崇拝を取り扱っていました。周以前の殷や夏の時代(血族共同体と地域共同体)から要請されたことに対応していたのです。儒とは呪(じゅ)と同義でしょうか? [2] 孔子は周の時代(BC1200~BC250)で諸侯が群雄割拠する時代に当たります。原儒の流れから孔子はその時代に必要な整理を行ったのです。共同体の上に国家が表れたのです。シャーマニズム的な儒は共同体に役立つものですが、原儒を整理し選択し国家に役立つ儒が要請されました。それに応えたのが孔子というわけです。 [3] 秦の時代、中国は統一国家になります。秦はこの国家に役立つ儒を法家に求めます。法家とは儒の流れを汲む学派であり、成文法を基礎にして罪刑法定主義を推進します。儒学と法家の違いを著者は次のように表しています。(106ページ) 儒家   道徳第一(共同体的)   慣習法重視    徳治 法家   法律第一(中央集権的)  成文法重視    法治 これを、現代までを見通して、次のように言います。 「近・現代国家は、成文法(罪刑法定主義)に基づく法治国家である。それは共同体の崩壊度に比例する。いわゆる近・現代国家化とは、共同体をできるかぎりつぶして、個人単位にし、その個人の上に国家を載せようとするものである。 現在、中国大陸において、依然として罪刑法定主義が定着していない。 ・・・共同体が相当程度の規模で依然として生きていることを意味する。 ・・・形式的には社会主義国家と言っているけれども、実質は依然として儒教的共同体の集合であって、およそ近代的法治国家とは縁が遠く、封建時代風であるのが実際である」。(107ページ) [4] 古代的統一国家であっても、秦王朝の郡県制、漢王朝の郡国制という政治システムの違いを表現しています(129ページ)。また、隋、唐王朝では儒教が国教になった点(科挙の導入)を考えておきましょう。(118ページ) 共同体的な儒から、中央集権国家の儒において何が変えられるように求められたのかの説明です。 『孝経』・・・「道義という普遍的なものが、君父よりも、孝よりも上にあるという考えである。このように普遍的なものを持ち出してきて孝という共同体道徳の上に置くことは筍子が、儒家ながら、当時、共同体を超えて、しだいに中央集権的国家へと向かいつつあった状況を強く意識したからであろう。この筍子の弟子が韓非子という法家思想家であり、法に基づく中央集権国家の秦王朝の理論的基礎を与えることとなる」。(131ページ) 「孝が共同体意識を踏まえ、<生命論としての孝>にとどまるかぎり、天子・諸侯・卿・大夫・士・庶人という階層には関わりなく、それぞれの同族の中においてしか意味を持たない閉ざされた孝を勧めるだけのことになる。・・・儒家が前漢時代において努力したのは、どのようにして共同体道徳の限界を破って中央集権的国家の道徳を作ってゆこうかということであった。」 その意味では、…共同体道徳を最もよく現わす孝は、大共同体をつぶし、将来、諸共同体つぶしの含みを持つ中央集権国家にとって、最大の敵となりかねない思想であった」。(133ページ) 近現代における民主主義においては、個人が登場します。個人と共同体、あるいは家族と共同体を考える芽がここに出ています。 宋の時代になって、儒教の中にも大きな進歩があります。朱喜(1130―1200年)が登場し、朱子学といわれる大系をつくりました。 朱子学とは、従来の儒教が宗教性によって死の不安や生命論(孝)あるいは家族を扱い、礼教性によって家族から社会・政治論を含んでいたのに対して、新たに哲学性ともいえる宇宙論や形而上学(存在論)を儒の体系のなかにとり入れたことが大きな進歩です。(188ページ) これは、中国にある三教(儒教・仏教・道教)において、儒教には、仏教や道教と比べて哲学が不在であったことを補う役割をしたのです。 著者は朱子をして「存在論としては唯物論的であり、認識論としては素朴実在論的である」と評し、「この唯物論・素朴実在論的立場こそ、中国人の伝統なのである。朱子はその伝統を思想的に大成した大思想家であり、最も中国人的な思惟の持主」とつづけている。(194ページ) おしむらくは、朱子学と中国社会の状態との関係が展開されていない。宋王朝は、北から金の侵略を受け(1127年)、次いで蒙古の侵略による元王朝を迎えた(1260―1370年)。中国大陸を征服した金王朝も元王朝もかなり中国風になったが、明王朝(1368年)までは他民族支配の地域でした。この時期の特質と朱子学の内容を結びつけるものが本書にはありません。 しかし、孔子の時代に儒教が社会的要請に生まれたことを鮮明にしている点で本書はかなり有益といえるでしょう。

(3)その他少々

 儒教について本書はいろいろなことを示唆していますので、今後もときどき立ち戻ることになるでしょう、重要だと思いつつ深く言及していない事項をごく簡単に列挙しておきましょう。 (a)儒教と儒学の使いわけ―宗教性が儒教であり、礼拝性を扱う支配者の官僚などは儒学を使うようになった。国教化した唐以降か(?)。 (b)儒教の宗教性を表わすことばは「孝」であり、それは生命論である。「孝を行なうことによって、子孫を生み、祖先・祖霊を再生せしめ、自己もまたいつの日か死を迎えるのではあるけれども、子孫、一族の祭祈によってこの世に再生することが可能になる」(20ページ)  「孝の行ないを通じて、自己の生命が永遠であることの可能性に触れうるのである。そう考えれば、私の恐怖や不安も解消できるのではないか。永遠の生命―これこそ現世の快楽を肯定する現実的感覚の中国人が最も望むものであった。これは漢民族に対する死の説明として最もよく整ったものになっているのである。この死の理論は、逆に言えば、永遠の生命を認めようとする生命論になっているのである。・・・生命論―これが孝の本題である」(21ページ) (c)日本においては神道と仏教との関係、融合と混在。そしてそれぞれが唯一絶対神でなかったがゆえに侵し合いながらも妥協し合い平和的に混在併存しているようです。それは葬儀における細々とした形式だけではなく、日常生活や考え方においても同じようです。この日本における総和が「世間」です。  私が儒教文化圏とした日本が儒教文化圏の一角を占めるというとき、その内実を示すのは、この場面(世間)を表現することになります。

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