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Center:2005年2月ー体毛の消失と感情表出の発達

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目次

体毛の消失と感情表出の発達

(進化を考える(1))
〔2005年2月13日〕

(1)引きこもり・・・感性が繊細な人たち

人間(または人類)の進化についてこれからときどき書いていきます。
対人関係が慎重である――その結果、対人関係を断って引きこもった経験をした人 が私の周囲にいるわけですが――というのを、私は人間の進化の面から考えていることがよくあります。
それはいくつかの部分から構成され、しかし全体構造はまだよくわかりません。
一つひとつの部分にどんな役割があるかもわかりません。
何が中心的であり何が派生的であるのかもわかりません。
それらを探る試みです。
引きこもりになる人の感性は繊細であり、ある人間がそこにいるだけでその人の発する雰囲気で、その人の気分・気持ちを、ときには言語に近い意思を察知するだけのものをもっています。
人間は言語で表せなくても、存在すること(居ること)で、無意識に感情を表出しています。
平凡な感性の持ち主にはそれは 察知できませんが、繊細な感性はそれを感じ分けることができます。
引きこもりになる人の一面は、この感性の鋭利さに由来します。
それは人間関係において有利に働くわけではなく、社会の今日的状況ではむしろ困難と不利に作用しています。
しかしいつまでもそうであるわけではない、というのが私の確信なのです。

(2)人類の体毛が消失した理由

この感性の繊細さがそなわってきた背景として、からだ(人体)のつくりを考えていきます。
今回は体毛がテーマです。
ある程度の高等動物で、人間(人類)ほど体毛の少ない動物はいないと思います。
魚類や爬虫類は体毛のかわりに鱗(うろこ)をもっていてこれは別物と考えておきましょう。
陸上動物の多くは、顔面や体表に近い粘膜組織部分を除いて体毛に覆われています。
人間は頭髪、陰毛、腋毛に集中し、あとは個人差があり下腿部から下肢、腕などに体毛が残っているだけです。
これは皮膚(または体表面)がほかの動物と異なる役割をしているからだと思います。
むしろその役割を得るために体毛が少なくなったのではないかと思うほどです。

動物学的(解剖学的)な意味を私は知りませんが、これは3つの面から考えていく材料があると思います。
第一は、体毛(とくに顔面の体毛)がなくなったことが、人間に高度な感情表現、感情コミュニケーションを可能にしたと思えることです。
第二は、顔面や手足の先端部分を除くと、体毛が少なくなってもそれを知る位置にいる人間は限られることに関係します。
きわめて親密な関係の親と子、夫婦(または恋人同士)がそれを知り得る位置にいることになります。
親と子のばあい、とくに子どもが乳児期から幼児期にかけた時期に、特別の意味があるように思えます。
これは皮膚接触(スキンシップ)という形の感情交流(コミュニケーション)を可能にしています。
これは愛情の交流です。
いわば第一の点の役割と同じでもあり、その延長線上にある要素です。
乳幼児期のこの皮膚接触は、種の原初的な認知や摂食行動という人間の発達にとって、基盤づくりの役割をすると思います。
夫婦、または恋人同士のばあいは、性行動を含む皮膚接触という感情交流の役割があります。
これもまた愛情の交流です。
これまた第一の点の延長ですが、性行為による別の役割がここから派生していくはずです。
その点は別の機会に考えていくことにします。

体毛が少なくなった第三の意味・役割は、それによって人間が衣類を身につけ文化を発展させることに関係します。
住居をつくり、風雨をしのぎ、寒さ暑さから身を守る手段を発展させました。
火の使用と使用方法の発展を促しました。
衣類、住居、暖房(火の使用)という文化が人間の体毛を少なくした面もあるかもしれませんが、それは派生的な面でしょう。
男女を比べたとき、一般に男性は体毛が多く、女性に体毛は少ないでしょう。
女性は皮下脂肪が多く、体温維持機能が女性により備わっていることと関係しているはずです。
しかし、感情表出がこれにより女性に優れさせている面もあると思います。
頭髪は、一般には女性に多く、男性のなかに頭髪がなくなる人が多いのは女性ホルモンの作用であり、これは別条件です。
体温維持には影響が少ないことに注目していいでしょう。

(3)感情表現、感情的コミュニケーションを発達させた人類

この3つの役割のなかで、私の関心が向くのは第一の点です。
第二、第三の点は前出したあたりで止めておきましょう。
第一の点、すなわち体毛が少なくなり、感情表現がゆたかになり、感情表現がより細かく見分けられるようになりました。
皮膚接触(スキンシップ)による感情コミュニケーションが広くなっているのです。
この役割をいましばらく追究してみましょう。
感情の交流(コミュニケーション)の発達は、進化にとってどんな役割があるのでしょうか。
人類(一般に生物)の情報伝達は、基礎的には遺伝子によってなされます。
体型、臓器、骨格などがこの遺伝子によって伝えられていきます。

情報伝達手段として、言語は欠かせない要素です。
その発達の程度が旧人(ネアンデルタール人)と新人(クロマニヨン人)を分けさせました。
言語の発達は人間の骨格など身体的特徴に重要な変化をもたらしました。
脳と神経系の発達も促したものと想定していいでしょう。
言語は、遺伝子よりも、はるかに早い 速度で、はるかに詳細な内容を、はるかに多く、情報伝達するのを可能にしました。
感情表現、感情的コミュニケーションを広げたことは、人間の情報伝達手段にとってどのような役割があるのでしょうか。
たとえば遺伝子と言語の中間の重要性があると仮定することができるのではないでしょうか。
もしかしたら言語的なコミュニケーションとならぶ人間が身につけた第三の方法である可能性も否定すべきではないでしょう。
ついでに言えば文字は言語的コミュニケーションから生まれ、その役割を増幅させたものだと考えています。

(4)引きこもりは、感受する情報量の多さに翻弄された人たち

それが第三の情報伝達手段であるとすれば、どうなるのでしょうか? 
引きこもり経験者にみられる人間の感情表出を細かく識別し感知する能力――それは普通には感受性がゆたかであると表現されます――は高くて、ときにはそれを感受する当人が身動きできなくなるほどの情報量を運んでいます。
この身動きできなくなるほどというのは、パソコンのフリーズに似ていると感じることがあります。
身動きできなくなるのはともかくとして、それだけの感情表出から対人の意志(ときにはそれを表出している当人さえも気づかない感情)を感じ分けています。
私はこの点をどう考えるのか、その事態に直面している気がします。
引きこもりの人には言葉数が少ない人がかなりいます。
それはその事態がわからないためではなく、多くの要素が見えすぎて、しかもそのなかで互いに衝突し合うものもあって、言葉でどう表現すればいいのかとまどっているように思えることもあります。
ある面を言葉にすれば別のある面をせめることになり、それを避けようとする気遣いによるものもあります。
そういう状況のなかで言葉を使うのに慎重であると思えることがしばしばです。
これらの点を探っていくと、体毛の消失とは、人間の感情表出の発達を超えて、人間自体の発達にまでたどりつくような気がします。
進化に関する第一話は、ここまでにしておきましょう。

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