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体験記・ナガエ・私の物語(6)

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目次

私の物語(6)

著者:ナガエ(女性)

学校見学

学校へ着くと女性の職員が待っていた。
母は家から持ってきた風呂敷に包まれた菓子を手渡すと頭を下げてあいさつした。
職員玄関だろうと思うが、事務所の横ぎわのせまい玄関から入った。
床に目を落とすと3足スリッパが並べられている。あのスリッパである。
懐かしいなどとのんきに振り返っていられない苦しい味の風味のする一品。
スリッパの種類は違うが学校のスリッパであることはかわりないのだ。
学校で履くスリッパ。
私の大嫌いなタマネギ味が口の中でしたスリッパが怖い、制服を着ている人や集団を嫌がる、このままいけば学校恐怖症である。
馬鹿げている。
そんな思いが私に火をつけ、ここまではいてきた靴をぬぐと思案をめぐらせている様子など全く見せずに一気にスリッパをはいた。
スリッパをはくという単純な作業だけでこんなにエネルギーを消耗してしまうなんて、この広い敷地に建てられた学校を見学し終えた頃には私の精神はどうなっていることだろう。
そんなことを考えていると、ふと職員の視線が気にかかった。私の髪の毛の色である。
どこの学校にも校則というものが存在。
厳しい甘いはあると思うが通常茶髪というのはどんなに真面目であっても不真面目にとられてしまう。
昔と違い茶髪だから不良だとかいわれる時代ではなくなったが、私はまだ大学生ではない、高校生なのだ。
第一印象台なしである。
なんとなくやりきれない気分のまま校内を案内された。
私と母ができるだけよく見られるようにと思い、学校をほめまくった。
父はそんな私たちの苦労などぶち壊してしまった。教室を見ている時だっただろうか。
私と母がきれいにしてるんですねぇ、と少々おせじをこめて言うと父はめざとく落ちているほこりをみつけたのか、大声で「ほこりが落ちている」といったのだ。
職員の表情が一瞬ムッとなり場が気まずくなった。
職員はそれをとりつくろうように急に笑みを浮かべると説明をはじめた。
校内を見終え次は寮の方を見学することなった。
だが父はここでも醜態を人様にさらすことになる。
「たばこを吸いたいのでお前ら2人で見に行ってこい」
父は職員のいる前で言った。場が再び気まずくなった。
私は腹が立つやら、情けない気分になった。
父は何を考えているのだろう。
本当に父はこの高校に私を入学させたいと思っているのだろうか。
むしろ、辞退させたいという思いの方が強い気がする。
その思いに自覚がなく無意識なのか、父は平然としている。
母も父のこの言葉には腹を立てた様子で、横目で父をにらみつけた。
灰色の空が頭の先まで降りてきているような感覚が、父、母、私そして職員をおそった。
父はそのような感覚に気づいていないかもしれないが。
「それでは行きましょうか」
しんとなった場を職員はさえぎり、落ちかけていた寒空をもちあげた。
父はもうついて来ない。たばこを吸うために、学校の見学を途中で放り投げ、自分の欲望のために私を犠牲にしたのだ。
いらだちも強かったが、もうこの場が気まずくなりこれ以上職員に負担をかけることも悪印象をもたらすこともない。
邪魔されず見学を終えることができるのだと思うと安堵のようなものがおしよせた。
寮も校内と同様、ほこりや細かいちりが散らばっていたとしても、清潔感があった。
思い通りひや汗を流すこともなく寮の見学を無事終えることができた。
これで学校を全て見学したことになる。職員に頭を下げ、礼をいうと車に戻った。
車に戻ってから気づいたのだが、私は学校の説明を聞いていてというより、見学するための人間関係を良に維持しようと意識を集中させていたような気がする。
肝腎の学校の説明など耳におぼろげにしか残っていない。
職員にはおそらくわが家族のインパクトはきつく残っていることだろう。
それも態度が好ましくない者として。
校内に入る玄関の所で、住所、名前、電話番号などを書かされたが、この職員がこれを暗記したらばたぶん入試には落ちる――落ちる。
受かることがまずないだろう、そう思った。

悪夢?(ではない)

家に帰ると私が父に怒りをぶちまけた。
どういうつもりなのか問いただいしたが、罪の意識にかられている様子など全く見えない。
逆に茶色く染められた髪を上の方へ引っ張り上げると「何様のつもりだ。親に逆らうなと言ってるだろう。わしが運転してやっとるのをわかっとるんか」と怒りを表し、軽く拳を握ると私の頭をこづいた。
私は反省するどころか逆上していたが、これ以上父を怒りの支配下に置けばどんな手段を使い私に攻撃してくるのか予想もつかぬ恐怖であった。
殴られた頭部を手で押さえると、逃げるように二階へあがり、父のそばから離れた。
長い間運動らしい運動をしていなかったせいか息が切れ、私はすぐ横になり天井を見つめた。
胸の動悸がおさまると、耳をすました。
風に吹かれて空き缶が道路を転がっている音がする。
先ほどまでの嫌な事柄を全て忘れようと気が静まり返ろうとしていた。
だが、父と母はうまく聞きとれないが言い争いをはじめた。
静まりかけていた神経に刺してくるような二人の言い争いや罵倒の声は、私を一人の世界へ追いやった。私は人間ではなく、物なのだ。
だから、わずらわしい声も過去も聞こえないしわからない。
私は生命体であることを放棄しようと夢中になって努力した。
そしてまぶたを閉じると、さしこめる一条も音も感覚もしゃ断するかのように身を地蔵のようにかたくし、浅い夢の中へと足を踏み入れた。
逃げるために眠りに落ちたのだが、夢の中でさえ、私は父と顔をあわせなくてはならなかった。
私はまだ小さく、父の姿がとても大きく見える。
私は泣いている。なぜ泣いているのだろう。
私の見る夢というのはほとんどの場合カラーで、自分やそこに映し出される登場人物を遠くの方から客観的に眺めている場合と、私が自分の体に入りこみ実際体験している場合とがある。
今回の夢は両方だった。
自分と父が“おんぼろ屋敷”の居間にいる様子を客観的に見ることもできるし、泣いている自分を体験することも可能だった。
父は、ごつごつとした皮の厚い、黒く日焼けした片手に、いつも身につけているベルトを持っている。
私の体全身ががちがちと震えあがり、足下が地震でもあったかのようにぐらぐらとした感覚におそわれた。
涙が滝のようにあふれだす。涙を止めなければと思うのに、しゃくりがこみあげてきて、かえって涙の量が増す。
私はとっさに緊張を静めければと思ったのか、足の指に力を入れ居間に敷かれている畳をけずるような仕草をした。
父は、泣き恐怖にかられている私の様子など知らぬように容赦なくベルトをふりあげると背中をぶった。
「痛いっ」
私は小さく声をあげた。口を結び、次にたたかれても声が出ないように私は備えた。
そして父はベルトを大きく振ると背中をもう一度はたいた。
鋭い痛みが背中を走り抜け、血管が膨張したかのような感覚が全身をかけめぐり、涙などかわく間もなく、再びうたれた。
「これはしつけだ。お前が悪い子だからだ。お前は飯を食わせてもらっているんだ。かわいげがまるでない。親の言うことを聞け。
言ってもわからない子はこうするしかないんだ。服を脱げ。よく覚えておけるようにもういっぺんやってやる」
私は黒い洋服を着ていた。
小さい子どもなのにかわいげのない黒い洋服を着ていた。
これぐらいの年の子普通赤を好んで着るが、周りの大人たちの助言など聞き流し、私は黒い洋服、地味な色合いの服ばかり着た。
私は幼い頃は早く大人になりたい、早く大人になっていろいろなことをしたいと夢見ていたのだ。そう幼い頃は。
私の周囲には年の離れた姉、そして父母、親戚の者もみんな年上の子ばかりしかいなかった。
子どもというよりもむしろ大人に近い者や、成人した大人ばかりしかいなかったため、難しい話をしていて話題にいれてもらえないということもあり、自分は浮いた存在ではないのだと主張したかったのだろう。
私は幼い頃から自意識過剰気味のところもあったしそれに生意気だった。
いま思えば、何も幼い子どもには背伸びしてふつりあいな洋服を着ることもなかったのにと思う。
黒いめの洋服ばかり着ていたせいか、それとも私は本当にかわいげなかったせいか、幼い頃かわいいなどと言われた覚えはない。
私は恐怖のためか泣きながらも黙りこくって、父に言われるまま上着を脱いだ。
大人の着るはずの黒の洋服を幼い私が着ているからといって大人ほどの力を誇示することもできず、尊重もされることもなかったのだ。
たたかれると思い私は目をぎゅっとつぶった。
バチンッ。
皮膚に残る赤い跡。ミミズバレになっている。
遠くから自分のぶたれている様子を見ているが、痛みはまるで体験しているように感じられる。
痛い。痛い。痛い……。
父が私をたたくのは、わたしはが悪い子だからであり、罰せられるほど悪いことをしているからだ。
父を憎んではいない。
なぜ私のような人間が生きているのだろう。
たたかれることから逃げてしまえばいいのに、逃げた後また捕まったらもっとたたかれるだろう。
たたかれていても誰も助けてはくれない。
私がしつけを受けるのは自分が悪いからだ。
痛いっ、
皮のベルトがしなり、まるでむちのようである。
いつになったら父さんはたたくのをやめてくれるのだろう。
一度たたき、赤くはれた箇所に再びベルトがふりおろされるとすさまじく痛む。
「ごめんなさい。父さん。よい子になるのでもうやめてください、ごめんなさい……」
どうすればこの痛みから解放されるのだろう。
父は、私が父の望む通りの子どもにならなければ私を捨てるだろうか。
「お前など生きていても何の価値もない。人間のクズ。……人間のクズ」
父は、感傷めいた私の心にくいこむように侵入してくる。
私など生きていても意味がない。価値がない。
死んでしまえば、父を喜ばせることができるだろうか。
生きている私ではなく死体の私を見たいのだろうか。
私は父の顔を見ようとしっかり閉じていた目をおそるおそる開いた。
黒く日焼けした輪郭が見える。
まずあごがくっきりと目に入ってきた。
次は赤い唇だ。
見たくない、思ったが自然にゆっくり目を開いていけば見えてしまうのだ。
口元はゆがんでいて、微笑を浮かべているように見える。
笑っている。……笑っているように見える。さも楽しそうだ。楽しい?
父さんは私が痛い痛いと言って泣いている様子を楽しんでいるのだろうか。
なぜ笑っているの? ねぇどうして?
私は自分の体のなかの瞳からではなく、自分の横に透明人間のように立ち、父の目を盗むように見た。
笑っていない目をしている。
夜中に徘徊する猫の目のようにギラつき、画鋲のように一直線を見つめている。
私は恐怖のあまり、自分が透明人間であることを忘れそうになり、こちらを見られたどうしようとかと焦った。
私と自分の体は繋がっているのだ。三次元ではなく、私の知らない四次元の世界で。
じんじんと背中から痛みは伝わり、胃酸のようなものがこみあげてくるのを感じた。
私はすうっと目を閉じた。
これは現実なのだろうか。
ユメナラサメテ。
これは悪夢なのだ。
目が覚めれば泡のように消えるユメなのだ。
早くさめて。早く覚めて……。

かれんでしたたかな雪

「父さん!許して!」 大きな声が耳にとびこんできて私は目を覚ました。
額に汗をうっすらかいている。
一瞬まだ夢の中にいると思ったが、私がいるのはおんぼろ屋敷の居間ではなかったし、父も側にいない。
私は息を吐くと、時計を見た、まだ眠りについて30分だった。
眠ったというより、普通に起きて活動するより疲労した感じがする。
私は自分叫び声に驚いて目覚めたというわけか。
嫌な夢だった。でも夢でよかった。
“夢解釈”今回の夢はどう解釈すればよいのだろう。
“抑圧された願望”(?)。
違う。この夢は、夢ではなくさかのぼった過去の私と父の姿だ。
昔は夢ではなかった。
現実だった。背中が痛むような気がする。ユメなのに。
「これは夢よ」
私は呟くと、幼い頃の私に子守唄を歌い眠らせてあげようとした。
だが私の口から奏でられる子守唄など一つもないのだとはっとした。
子守唄とは、母から、母でなくともその代行となる人が子どもに歌うものなのだろう。
そしてその子どもが成長し大人になり、自分の子どもの寝顔が天使のようになっていくのを見届けながら歌うのだろう。
精一杯ゆるぎない優しさを込めて。
子守唄は習うものではない。耳にかすかに残る豆腐のように柔らかな歌声を、遠い遠い記憶の戸棚からひきだして、淡い乳の匂いのする、場所で口ずさむのだろう。
自分がかつて歌ってもらったように。
私の耳に子守唄の項の扉は用意されていない。
窓、扉、戸、ドア、それらはある場所と場所を区切るためにある。
そして、それらを押したりひいたりあるいは横に開けば、決められた題目をもった部屋の中に題目をそったものが置かれている。 私は寝転びながら部屋の窓を見つめた。
嫌悪せざるを得なくなった生徒玄関、変身を思い描いてとびこんだ美容院のドア、父に連れ込まれた風呂場の戸、病院の診察室の窓、私のそばにあった扉たち。
子守唄のしきつめられた扉は、その一見圧倒されそうな扉たちよりも、ずっとずっとがんじょうでぬくもりに満ちている。
だからさまざまなものを区切ることができる強大な扉なのに私はもちあわせていない。
“扉”と聞けば人は開くことを思うが、私はあえて閉じる。
閉じることで未来を守ることができそう気がするからだ。
抜き足差し足で扉のノブにとってに近づいて鍵をかけよう。
幼い頃につくりそびれた子守唄の扉よりもっと極上でぜい沢な扉をつくって。
かみなりが怒りでわめきちらすように空全体を紫にそめ、嵐が訪れる前みたいに風が声色を変えて鳴きはじめた。
きっともうすぐ雪が天から落ちてくるのだろう。
私は部屋の窓を開いて、顔を吹きつける冬の風に顔をさらした。
海中を泳ぐ魚口をぱくぱくさせ酸素をうっかりとりにがさないように、私もおぼれないようにしようと誓った。
雪が降るのを待っている私はよほどひま人なのだ。
そう思いながらも待っている私。どんな雪が降るだろう。
雨も雪も空からの産物なのに、雪は形にできる。色もかわる。
雨は年中降るけれど雪は冬でなければ見えない。
チョコレートではないけれど冬期限定なのだ。
希少だからこそ価値は生まれ、より美しく感じられる。
あっ、降ってきた。
私は、顔と腕を窓からいっぱいいっぱい出すと手のひらに雪が落ちてくるのを待った。
はかない雪の寿命。
雪がどうつくりだされたかなんて私は詳しくは知らない。どんなに苦労したのかも。
ただひらひらと舞う、かれんな雪に見とれている。
それだけだ。
ぺたっ。
冷ややかな感触が手のひらでした。
雪は水になったのだ。
雪ははかない。
だが、したたかだ。カメレオンのように環境に適応し、生きのびようとしていく。
ふと私にある思いがよぎった。
希望だった。
子守唄は聞こえない。
けれども、希望の音色が聞こえる。
扉が待っている。
高校をもう一度受け直そう。
(つづく)

体験記・ナガエ・私の物語(1)
体験記・ナガエ・私の物語(2)
体験記・ナガエ・私の物語(3)
体験記・ナガエ・私の物語(4)
体験記・ナガエ・私の物語(5)
⇒体験記・ナガエ・私の物語(6)
体験記・ナガエ・私の物語(7)
体験記・ナガエ・私の物語(8)

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