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移行期の雇用形態の広がりと若い世代の戸惑い

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移行期の雇用形態の広がりと若い世代の戸惑い

この時期の事情でもう1点見なくてはいけないのは、職に就いた若者の離職率が高くなっていったことです。
大学卒業生の就職を見ると、「3年後に30%」が離職する状態が続いています。
いつごろからこんな状態になったのか。その時間的な推移はどうか、高校卒業生の場合はどうか、業種による違いはどうかなどもみなくてはなりません。
それらの点の材料を欠きますが、これは1990年以降から顕著になったと思います。
非正規雇用が広がってきたこと、若い世代の中に「自分を生かす」仕事に就きたいのに、就職した現実はその期待を裏切るものが多くあったのです。
確かに「最近の若者は我慢が足りない」という人もいますが、それが主な理由というのは的外れです。
若い世代の意識が変わってきているのに職場の現状はそれに追い付いていないといえるのです。
この離職の多さに対応するため、企業がその対応を取り始めたのですから、一定の意味では職場改革の力になったとも言えます。

農山村への移住者の増大、非正規雇用労働の増大、新入社員の離職率の増大、そしてひきこもりの増大はほぼ同じ時期に生まれています。
発生の規模ではそこまで大きくはなくとも90年代以降に、例えばうつ症状者や精神科の受診者の増大、フリースクールやカウンセリング相談室の増大なども推測できます。
高校への進学率が95%を超えたのもこの時期です。
他方では高校(全日制・定時制)卒業生のうち無職者が毎年5%程度固定的に生まれています。
通信制高校の生徒が増え、その卒業生のうち無職者が40%ぐらいになるのもこの時期の特色です。
この無職者は進学しない、就職しない、職業訓練を受けない、いわゆるニート状態です。
そこに受験浪人、求職中、家族の若い介護者なども含まれます。
しかしひきこもり状態が中心と考えます。これらは後の章で見ていきます。
こう見るとこの時期のいろいろな変化において、ひきこもりを非正規雇用者や早期離職者の動きとは同一には見られないかもしれませんが、関係することは確かでしょう。
ひきこもりの多くは、どこでどう働くのかの意識までに心が届いていないでしょう。
とはいっても新式雇用スタイルの回避型とそれを意識する以前の状態の人が画然と分かれているのではありません。
次のエピソードはそのあたりを示していないでしょうか。

2004年に日本共産党『しんぶん赤旗』の取材を受けました。
取材を受けた場所は不登校情報センター内の居場所の一角です。
広い教室であり、ひきこもりの経験者も何人かいて見るともなくこの取材を聞いています。
一度も就職したことがない人、一度は仕事に就いたが「二度とあんな世界に戻りたくない」人、「次はどんな働き方ができるのかを探す」人たちです。
共通するのは、先天的に感性が繊細な持ち主であることです。
取材の途中に、「訓練して働けるようになるのが目標ですか」という主旨の質問がありました。
どう答えようかと一瞬の間があき、そのときそばで聞いていた一人が小さく悲鳴(?)をあげました。
これは何を意味するのでしょうか。記者が取材内容をまとめ紙面に載せる前の校正のときに、私はその小さな悲鳴(?)をこう書きました。
その悲鳴を上げた人がこれまで話していたことから気持ちを推測したのです。
「訓練」という言葉には自分が納得していない社会に適応を迫られる、その気持ちが思わず小さな悲鳴に出たと。

記事にはその時に話した、いくつかがうまくまとめられています。
《いつも周囲に気を使い、自分の思いを率直に伝えられません。
「もっとテキパキと臨機応変にやれ」などと言われてもできません。
そういう姿が周囲とは波長があわず、いじめや非難の対象になりやすい。
自己否定感がいっそうつのり、社会に踏み出す意欲を失うのです。
決して怠けているわけではなく、むしろ誠実です。完ぺきをめざして手が抜けないためにテキパキとできない。
また、〝もうけやカネが最優先〟といった価値観に拒絶反応を持つ人も多いのです。
たとえば、販売会社に就職しても、「自分がやっているのは押し売りではないか」と思ってしまい続けられない。
問題は、自分の能力を発揮すること、理想に近づくことと、現在の社会のあり方が一致しないことです。
おとなはよく「仕方なくやったんだ。世の中こんなものだ」などと自分の体験を語りますが、彼らは「そういうのに自分は染まりたくない」と思うわけです。
だからといって自由気ままに生きているわけではない。…ひきこもりは若者の静かな反乱の面があるのです。》
(「しんぶん赤旗」2004年11月2日「ニート(若年無業者)に向きあう」、聞き手・坂井希記者)。

就労といい、社会参加といい、また対人関係づくりといい、各人の状態(家族関係や、働いたことがあるなしの個人的な違い、子ども時代から続く対人関係の特質など)多くの違いがあります。
就労を目標とするばかりのひきこもり支援策は、子ども時代に経験することの稀薄さを回復する部分が少ないのです。
就労を目標とすることを否定するのではありません。個人差はあり、就労一直線の人もいます。
そうでない人が少なからずいるのです。そこをカバーする取り組みが欠かせないのです。

農山村への移住とは違う、新式の雇用形態の拡張という経済社会への拒否感をひきこもりの形で表現する意味の1つをこれは説明するものです。
新式の使い捨て型の雇用方式が広がってきた。それを回避したいいくつかの方法があった。しかしそれ以前の状態の人もいた。
回避するとかしないとかではなく、そういう問題に直面していない、心身の状態がそういう場合ではなかった人たちです。
この最後の一群がひきこもりというわけです。
ここには方向は同じであても、程度に質的な違いがあると考えられます。
その違いはどこから生まれてくるのかを、国民的な性格=精神文化の特性として、後の章で検討します。

この時期のことを総括的にまとめたものを紹介します。
「1980年代には、“独身貴族”、1990年代には“パラサイトシングル”(親に寄生する未婚者)と名付けられた若者が、2000年代になると“社会的弱者”へと転じるのは、労働市場の悪化と関係している。
…ポスト工業化の時代に入ると、移行期が長くなるだけでなく、一歩一歩完全な大人の階段に近づいていくような「直線的移行」から、より複雑な「ジグザグな移行」へと変化が始まった。…
日本に限らず多くの先進工業国において、1980年代以降、失業、非自発的なパートタイム労働、有期限雇用、一時的労働が増加した。
それと並行して、離婚・再婚の増加、家族関係の複雑化、単身世帯の増加など、家族の変容が進んだ。
総じて企業、近代家族、労働組合、福祉国家、など近代の社会装置の解体、つまり社会の液状化というべき社会構造の転換が起こったのである。
その結果、慣習や規範に搦め捕らえられてきた人びとの自由度が増し、選択肢が拡大し、それまでの社会装置に代わって個人が社会を構成する最小の再生産単位となる傾向が強まった。
しかし、同時に、あらゆる選択の結果が自己責任に帰する傾向も強まった」
宮本みち子・編『すべての若者が生きられる未来を』(岩波書店、2015)の序章「移行期の若者たちのいま」(1-3p)。

次は2000年代の初めごろをひきこもりの第二波ととらえた私の感想です。
「当時の私は、ひきこもりの社会参加が目標でした。しかし周りの状況は、私の思いとは反対に社会のあちこちからひきこもり側に近づく人が続いています。
自分の心身の状態を維持する方法として、ひきこもり状態に近づくのです」(『ひきこもり国語辞典』259p)
宮本さんが当時、いろいろな社会的な弱者の問題は「地続きになってきた」と書いているのを見た記憶があります。
それは上に引用したことを要約しています。
宮本さんの見解と、ひきこもりの居場所にいて私が感じていたことは符合しているのです。
なお、ひきこもりの第一波は1980年代中ごろから急増した思春期生徒の不登校です。
不登校の中のひきこもり状態をひきこもり発生の第一波と考えます。
そして新型コロナ禍に巻き込まれている現在はひきこもり第三波と考えられますが、この時期のことはまだ何とも言えません。
世界的な自然災害であり環境問題が影響していること、「外出を控え、人との接触の機会を減らす」というステイホームや巣ごもり生活が政府から奨励されている2点が特徴です。
その内容や意味はこれから徐々に明らかになっていくでしょう。

社会経済の状態の変化、特に工業化とそれに伴う都市への人口移動、産業の発展と産業構造の変化、働く人の雇用条件の変化などからひきこもりの生まれる背景事情を他の事情に先立って書き進んできました。
家族関係(大規模家族から核家族などの小規模な家族に変わってきたこと)や社会変化の中での子どもの状況と子ども世界がどのように変わってきたのかも見なくてはなりません。
他にも学校と教育などいろいろな面の変化も見なくてはなりません。
それらがこの40-50年の社会の大変動の重要な部分になるからです。
次章ではそのあたりに戻って、まずは家庭・家族関係から「高度経済成長期の前と後の時代」の変化を見ていきます。
              

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