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Center:2012年3月ー引きこもりからの社会参加

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目次

引きこもりからの社会参加

〔2012年3月⇒『ひきコミ』2012年4月号に掲載文〕

ブログ「センター便り」2012年3月8日「引きこもりからの社会参加について」その1、その2、その3をまとめ、加筆修正したものです。

〔1〕社会参加は就職型中心とはいえない

あるシンポジウムの案内チラシを見せながらH・Iさんが言いました。
「引きこもっていた人が就職してもしばらくすると辞めてしまうことが多いみたいですね」。
シンポジウムにはそういう内容もあるようです。
「そういうことは十年前からわかっていたことですけどね」と私は答えてしまいました。

私に特別の先見の明があったわけではありません。
いろいろなことをそれまでに見聞きしていたからです。
とはいえ全員が就職しても継続できないと考えたわけでもないのです。
90年代末に「人材養成バンク」という取り組みをして、引きこもり支援は就職以前の問題が中心になると思いました。
大塚時代にI・Oさんが突然、事務所に飛び込んできて、
「もうダメだ。あんなところでは働けない!」といったのが、就職ではないかもしれないと感じた最初です。
I・Oさんの場合は「人材養成バンク」ではなく、自分で探した就職先のことです。

2001年から2003年にかけて「将来生活の姿」というアンケートをとりました。
引きこもりの経験者はどう意識しているのかを調べたのです。
回答した当事者はいま関わっている人たちと比べて年齢も低く、“楽観気分”(?)がありました。
私もまたそういう面の期待感がいまよりは強かったのです。
それでも自由業型やSOHO型社会参加の希望者が多く見られ、就職型が中心とはいえないものです。
その間にも不登校情報センターに関わっていた人が、それぞれの仕方で仕事に就いていきました。
正社員は少なくて(これは雇用政策が影響しています)、アルバイト、登録・派遣社員、パート労働、請負型などです。
働き始めたうち数か月後には多くの人が辞めました。
数年働いている人もいますが(いまも継続している人もいますが)、むしろ例外的です。
多くが短時間労働、私がハーフタイム就労といっているもののどれかに該当します。
事態をこのようにとらえなおしたのは昨年のことですから、10年間は最終的な評価を私は保留していたともいえます。
最終評価をしなくても、そのときどきにやるべきことは明確になっていました。

行政機関の就業支援方法は、訓練をして就業に向かうことになっています。
また他の支援団体が、「職親」などの名称で取り組んでいるのも聞きました。
私が「人材養成バンク」といったことと内容は似ています。
やがてそれに関する動向も聞こえなくなり、事実上消滅したのです。
それは新しい形での「人材養成バンク」の可能性をなくすもので、私にも残念なことです。
引きこもり経験者の事実にあった対応方法でないとうまくいかないことを教えているのです。
たとえば地域若者サポートステーションの一部では「訓練をして就業に向かう」方式だけではないと聞きます。
なかばフリースペース状態のところもあるようです。
引きこもり経験者たちの現実が反映しているのです。
こういうことをわかった上で「十年前からわかっていたことです」というのは不遜に聞こえるかもしれません。
そんな気持ちはありません。
支援者と支援団体が引きこもり経験者をより深く理解しないことには、事態は好転しないです。
それが少しは理解されてきたという思いがこのことばになったのです。

(2)社会の転換期における人間の状態

十年前にこの理解にたどり着いた私は、それとは違う方法を試行錯誤してきました
。 私の取り組みの重点は、当事者がその解決方向を自力で探し、つくりだすための条件づくりです。
当事者のなかでの人間関係をできるだけ自然な環境で積み重ねることです。
対人関係をつくるなかで、自分にできることを生かせるようにしたいと考えたのです。
これは行政機関からも他の支援団体からも評価もされないし、あまり見向きのされないものでした。
それは当事者にとっても楽な道ではありません。
それでもこの過程に参加し続けてくれた当事者が少なからずいたことは私にとっての支えでした。
不登校情報センターというスペースでは、あまり制約せずに好きなことを持ち込みやすくしました。
不登校情報センター内での作業を収入の得られるものにしようとしたのは、その一つの方法です。
まどろっこしい取り組みですが、当事者にとってはそれでも精一杯のこともあったと思います。
いまの時点では他の支援団体でも就職が唯一の道ではない程度には理解は広がったと思います。
たとえば東京仕事センターという公的機関のチラシ「多様な働き方専門相談」には
「NPO、ボランティア、農業、在宅ワークなど、企業に雇用される以外の多様な働き方に関する相談に応じます」とあります
(太字はチラシにおいてアンダーラインで強調されているところです)。
これに対応する就業支援のNPOや民間機関は私が試行錯誤をしてきたことが参考になるのかもしれません。

ところが世の中の動きはまた別のことを教えてくれました。
引きこもりから社会参加の方向に近づこうとしていたはずなのに、社会の方が引きこもり状態に近づいてきていると感じるのです。
このような形で引きこもりと一般社会が接近するとは予想してこなかったことです。
これは引きこもりの社会的な意味には別のものがあると示唆しているのです。
引きこもりの原因・背景は、直接的には対人関係のゆがみや脆弱性、人間が成長する環境の衰弱・変化によるものです。
それとともに、その土台に歴史的な社会の大きな変化がある、それを感じさせるのです。
その歴史的な変化を、無意識的に受けとめる感性ゆたかな人たちが事態を先取りして表現しているのが引きこもりともいえます。
少なくともそのような人が引きこもりのなかには少なからずいます。
一般社会の人たちもようやく社会の歴史的な変化が、自分の生活にも及ぶと感じ取りつつあります。
ところが社会システムはなかなか時代の変化に対応しません。
それを感じて、人々は適応するのに内側からブレーキをかけ始めつつあるのです。
それが一般社会の引きこもりへの接近であり、壁が低くなっている背景事情といえるのです。
引きこもり経験者には「仕事とは自分を殺してやるもので、自分を生かすことと仕事は対立するもの」という感覚の人が少なからずいます。
「仕事のなかで自己実現する」時代が近づいたからこそ、このような感覚が際立ってきているのです。
歴史の変わり目というのは、このようなパラダイムシフトの生じる時代です。
言いかえれば「自己実現なき社会参加」は、どういう形であれ、魅力を失っています。
ことに若い世代においては拒否されているのです。

(3)不登校情報センターが向かう先

さて就職型に限定しない引きこもり経験者の社会参加のしかたは、どのようなものでしょうか。
それと「仕事のなかで自己実現する」ことはどのように結びつくのでしょうか。
この部分に答えがなければ空虚な評論家であって、支援者とはいえないでしょう。

インターネットの普及との対比で現在を「産業革命前夜のイギリス」と表現した人がいるようです
(梅田望夫『ウェブ時代をゆく』ちくま新書、22ページ、2007年)。
梅田さんは「変化がかなり進行し、日本社会もずいぶん大きく変わったと過半数の人が感じる時期を
『2015年から2020年あたり』とイメージしている」と同書に書いています(198ページ)。
2012年は、これでいうと情報社会が確立する以前の過程をかなり進んだ時期です。
確立した情報社会はインターネットの普及だけにはとどまりません。
社会関係、人間関係がフラットな関係(上下関係から等質な並ぶ関係)に移行します。
そこでは自己実現の条件が広がるとともに、その条件を提供できない社会や組織は衰退していくと思われます。
事態はその方向に向いていると予測します。
10年以内に社会の中心がそうなるというのは梅田さんのイメージと重なるのです。

不登校情報センターの取り組みは時代の動きの最先端にいるわけではありませんから、現状は大幅に割り引いて読んでもらわねばなりません。
それでも情報社会の新しい姿と結びついている気分はします。
2011年をふりかえると、引きこもり経験者が自分の好きなことを「収入にするための取り組みに動き出した」と認めることができるでしょう。
もちろんこれからも紆余曲折があるにしてもです。
不登校情報センターはここに2段階の3つの分野の支援を続けています。
(1)不登校情報センター自体を収入が得られる作業場、準職場にすることです。
フリースペース(ワークスペース)での作業量が増え、作業費をより多く支払える収入になる取り組みができることです。
その中心は、不登校情報センターを「ウェブサイト運営業」として成長させることです。
これは東京仕事センターのチラシで「NPO」の仕事としているのに相当するものでしょう。
(2)不登校情報センターに関わる引きこもり経験者が自分にできそうなことを「仕事づくり」として企画できるようにし、実現を応援することです。
メイクセラピー、ヘルプデスク、編み物教師、文通相談、居場所コーディネーター……など。
ここでの不登校情報センターの役割は、当事者それぞれの「好きなこと・得意なこと」を伸ばし、交流と発表の機会をつくり、広報と事務的な面を支えていくことです。
昨年はこの面が浮上し、顕著な成果がありました。
いまもこの流れは続いていて、これからの発展にかかっています。
(3)もう一つは当事者の創作活動を生かすことです。
動きとしてはいまは「やや停滞」のときです。
創作活動を商品に結びつけること、ネットショップを実質的な動きのあるものにすることが課題です。

この3つの方法はすべてまだ萌芽状態です。
そして「仕事のなかで自己実現する」レベルもまた萌芽状態です。
社会参加としての性質を見るならば就職を否定しているのではありませんが、就職ではない仕事づくりでもあります。
「訓練をして就業に向かう」方式ではない方法を萌芽状態において現実化してきたものと認識しています。

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