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カテゴリ:周辺ニュース

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(周辺ニュース)
 
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“言葉”から考えるひきこもり 
 
不登校情報センター代表 松田武(たけ)己(み)
 
  
〈まえがき〉
 
 
このパンフレット『“言葉”から教えるひきこもり』は、2022年4月から2023年3月まで月1回、「公明新聞」の連載を1冊にまとめたものです。2021年3月に『ひきこもり国語辞典』(時事通信社)から出版した1年後になります。『ひきこもり国語辞典』所収の用語は550語ですが、そのなかから特徴的なものを選び、その言葉がどのような場面で生まれたのか、使われていたのか、どんな意味あいをもつのか、エピソードを交えていろんな雰囲気が伝わるようにしたものです。
 
 
新聞掲載を終えて既に3年たちました。時間をおいて読み直してみると一般の人がひきこもりを理解する、というよりもその人たちを感じてもらえるのではないかと改めて思いました。
 
新聞の編集においては挿し絵を入れていただき、編集者とのやりとりでは全体としてスムーズでしたが、1回か2回は“ひきこもり”の理解、むしろ彼ら彼女らのおかれた状態を説明する場面もありました。
 
連載(およびパンフレット)タイトル『“言葉”から考えるひきこもり』は編集部の提案によります。
 
 
〈1〉どちら様
 
近所の人から忘れられて驚く
 
 
皆さま、はじめまして。20年以上ひきこもり経験者と毎日生活していた不登校情報センターの松田武己です。
 
昨年、ひきこもり経験者との生活で見聞きしたことをもとに『ひきこもり国語辞典』(時事通信社)という一冊の本をまとめました。
 
この連載では、〝国語辞典〟で紹介されている言葉から、ひきこもりとはどういう状態なのかなどについて、お話し致します。
 
「どちら様?」と聞かれたとき、私は冒頭のようなあいさつをします。〝国語辞典〟にも「どちら様」という項目があり、10代の頃、学校に行けなくなった人のことが書いてあります。
 
その人は、学校に行けないだけでなく人が怖くて外出もできなくなりました。それでも数年後、少しずつ外出することを心掛けて、夕方、人が途切れたのを見計らって本屋などに出掛けるようになりました。
 
不登校から10年以上たった、暖かくなったある日の午後のこと。外出するために玄関で一息ついたとき、年配の人が突然「どちら様ですか?」と尋(たず)ねてきたのです。
 
小さい頃から暮らす自宅玄関先での「どちら様?」に驚きましたが、近所の人から忘れさられるほど姿を隠してきたのかと改めて認識したそうです。
 
久しぶりに街に出ると、大きな変化を感じる人も多いのです。
 
 
〈2〉そうだね
 
否定せず気持ち受け止めて
 
 
4年前の平(ピョン)昌(チャン)オリンピックで日本女子カーリングチームの〝もぐもぐタイム〟と「そだねー」が話題になりました。誰かが何かを言ったら「そだねー」とまず受け止めていく中で、チームのよさをつくったのです。
 
もしこれが逆ならどうでしょうか?「そうじゃないよ」「それはダメだ」と引き継がれると、うまくいきません。こういう受け答えが子どもの頃から続いていたら……。
 
「そうだね」と受け止められた記憶がない人の話が『ひきこもり国語辞典』にはあります。いくら思い返しても親から「そうだね」と言われた記憶が出てきません。そういった中で、いつの間にか何か間違っているかもしれない、何が足りないのかを考えるようになり、あまりものを言わなくなってしまったといいます。
 
いつも否定的に受け止められると自己肯定感(こうていかん)が低下しやすくなります。日本人の自己肯定感が低いのはさまざまな調査で明らかにされています。
 
子どもが何かを目にしたときの素直な表現を受け止め共感し、一緒に笑い、一緒に泣き、ときに怒る。そういう子ども時代の経験が、社会に受け入れられる気持ちと自己肯定感を伸ばすのです。
 
ひきこもりは、ある日突然始まる事件に見えたりもしますが、実は長い生活の積み重ねの結果なのです。
 
 
〈3〉強風や強い雨
 
人通り少なく動きやすい
 
 
梅雨の雨は、私たちの日常生活にはうっとうしいものですが、人の生活に雨による水補給は欠かせません。
 
『ひきこもり国語辞典』からは、梅雨に関して、意外なことも知ることができます。
 
「私は雨の日が好きかもしれません。街中に出ると人通りが少なく、私が歩いていてもあまり目を向けられません」。この人が外出しやすくなるのは、人影が消える強風や強い雨の日です。
 
長いひきこもり生活を経験する人にもいろいろなタイプがあり、この話は人の目が気になる、人が怖いという対人恐怖傾向の人に見られます。
 
そういう人もそのまま動かないのがいいと思っているのではありません。何とかその状況を越えていきたい気持ちもあるので、人通りの少ないときはチャンスなのです。
 
2020年に始まったコロナ禍(か)は、想定以上の大災難ですが、ひきこもりの一部には、その割には過ごしやすいという感想も聞かれます。人の流れが少ないのに加えて、ほぼ全員がマスクをしていますので、顔を隠すようにしてきた自分のマスク姿がまったく不自然ではないからです。
 
もちろん、これも人それぞれ程度があって、ますます外出するのが難しくなってしまう人、新たにひきこもりに参入してくる人がいるのもまた事実です。
 
 
〈4〉アウェイ感
 
受け入れ、歓迎する雰囲気を
 
 
サッカーのJリーグが誕生した1990年代からアウェイという言葉が広く使われ始めました。ご存じの通り、自分のスタジアムでの試合がホーム、相手方での試合がアウェイです。ホームでは応援の数も多くありますがアウェイでは違います。アウェイはサッカー以外でも使われ始め、受け入れられていない、慣れない感じを表すようになりました。
 
そのなじめない感じを「アウェイ感」という人がいて、『ひきこもり国語辞典』に載せました。その感覚に共感が広がっています。ひきこもりの人は、受け入れられ、歓迎される雰囲気(ふんいき)がないと落ち着きません。ときには緊張感や警戒感さえ生まれます。
 
例えば、スーツを着たビジネスマンが勢ぞろいするような場では、私自身「ここは自分がいる場ではない」と感じることも。反対に、よく行くお店とか顔見知りのいる場ではゆったりした気持ちになれる。そう思う人も多いでしょう。
 
ひきこもり経験者の場合、さらに強く感じます。自分がいると周りの人を嫌な気持ちにさせていないか、そんな気分になる人さえいるのです。自分の家の中でもここは自分のいる場ではない気持ちになることもあります。
 
アウェイ感は、ひきこもり経験者がなかなか人になじめない、場になれない気持ちを表わす言葉なのです。
 
 
〈5〉冠婚葬祭
 
親戚との付き合いは高難度
 
 
法事・葬式や結婚式の場には、いつもは離れて暮らす親族たちが集まります。『ひきこもり国語辞典』の〝冠婚葬祭〟では、小さな子ども時代から知る顔もあり、久しぶりに会うと「今どうしてる?」と聞かれるたびに返答に困る様子などに触れています。全く知らない人なら「まあ元気にやっています」ぐらいでやり過ごせますが、親戚相手ではそうもいきません。「仕事をしていないんだって?」「それじゃ紹介してやる……」などと続き、話は途切れません。
 
「いや働くとか……とてもそんなことではないです」なんて言おうものなら追及の声があちこちから上がってきます。こういうのは、針のムシロに置かれる気分というか……。
 
遠慮のない人も混じるのが親戚縁者の集まりです。うまく逃げられないので難易度は格段に高いです。こういう経験をすると親戚の集まる場には出たくなくなります。訳知り顔でそっとしておいてくれたり気を遣って遠回りに生温かい目を向けられたりするのも、逃げ出したい気持ちになるもの。中には、妹の結婚式のときにとうとう「体調不良により欠席」した人も。
 
ホッとするのは事情を察した上で掛けられる「何かできることがあるかも……」の言葉。こちらを少しも拘束(こうそく)しない状態で、気に掛けてくれるし、何かの折に頼れるからです。
 
 
〈6〉見せかけ元気
 
親の思い受け、明るい姿演じる
 
 
今回は『ひきこもり国語辞典』から「見せかけ元気」についてみていきます。
 
子どもの頃から親に、まるで口癖のように言われていたのは「いつも元気で健康に」。しかし何ごとにも限度というものはあります。本当に体調が悪いときには「いつも元気で健康に」というわけにはいきません。そんな場合でも元気な姿でいないと叱られ、ときには「なぜちゃんとしないのか」と怒られる人がいました。倒れるくらい体調が悪いときでも元気な姿を強制され続けたことも。
 
思春期を迎えた頃から、家に帰るときには玄関の前で呼吸を整える。ときには自宅近くの緑地にあるベンチに腰を掛けてしばらく休み、自分の表情を確かめエネルギーをためて「元気な姿」を演出して玄関に入りました。
 
これが見せかけ元気です。この状態を自分で「マニックディフェンス」とも呼んでいますが、これは〈そう的な防御〉というある種の精神症状です。
 
親が子どもをありのままで受け止める気持ちを持っていないと、聞き分けのいいタイプの子には親の思いを押しつけがちになります。これでは親子の間で大事な何かが見えなくなり、子どもの内側で深刻な事態が進行します。親の期待やしつけが虐待(ぎゃくたい)と同じようなものになってしまうのはこのような場合です。
 
 
〈7〉西日
 
熟達した人生観の象徴
 
 
「昼夜逆転の生活になり、午後遅くなって目が覚めます。ぐずぐずしていると部屋に西日がさしてきます。西日は妙にまぶしく、少しもの悲しいです。西日を見ると自分の人生が少なくなっていくような気がします」。これは『ひきこもり国語辞典』にある「西日」の説明です。
 
 語ってくれたのは30歳になるAくん。焦りはあるはずですが、自分の生活を冷静に見つめ語る姿は引き付けられるものがあります。
 
 子ども時代から彼の生活に何があったかを話してくれました。大筋はこうです。
 
 「親の言うことにもそれなりの理由はある。でも、それは自分の考えとは違う」と。世代的なギャップを感じた自分の思いや考えをやんわりと、しかし決定的に阻(はば)まれてきた経過がうかがえます。自分の心の奥にある思いを周りの人に伝える突破力を持てない自分のふがいなさや残念感も感じられます。
 
 しかし彼は、親や他人を非難がましく攻撃するやり方を選ぼうとはしません。そういう優しさを含んだ熟達したともいえる人生観を「西日」という言葉に象徴させているのではないかと思いました。
 
 ひきこもりの人のタイプはさまざまです。彼ら彼女らの深い思いを聞き取り、引き出していく人がいれば、逆に高い潜在力・精神性に気付けるでしょう。
 
 
〈8〉奇跡
 
本音を話すと信頼へつながることも
 
 
ある人の話です。とある集まりで会った人と何となく波長が合い、自分でも珍しいくらいに心が弾んできて、言葉も出てきます。彼女の家が近いこともあって帰りに寄っていくことになりました。
 
 話の途中で、彼女が好きだという曲を聞かせてもらいました。「この曲はどう?」と聞かれて、つい「20点くらい!」と思わず本音で答えてしまったのです。「あ、しまった」と思ったとき、「よかった、本当の気持ちを話してくれた!」。そして「信頼できる」と言うのです。まるで奇跡、魔法にあったような気持ちでした。
 
 人間関係は難しいものです。言いすぎ、言い間違い、やりすぎ、気付かないこと——がいろいろあります。それによる後悔もあるし、責められたこともあるし、離れていく人もいました。
 
 そういうことが重なって、いつの間にか相手の立場に合わせるようになっていたのです。本音ではなく、嫌われないように付き合ってきたのです。その場を平穏にすることが人間関係をつくるものだと思い込んでいたのかもしれません。」
 
 初対面の人にはそういった配慮も大切かもしれませんが、いつまでたってもそれではいい関係はできないのでしょう。うわべだけの付き合いでは、信頼される人にはなれないと悟った機会でした。
 
 
〈9〉戦闘民族の顔
 
働くという環境変化を鋭く表す
 
 
ひきこもり経験者が集まる居場所には、いろいろなタイプの人が来ます。ある時期のことですが、元ひきこもりで、今は清掃業で働いているKくんが来ました。Kくんの勤務先は人員不足で、しかも働いているのは高齢者が多く占めています。Kくんが思いついたのは自分が働けるようになったのだから、ひきこもり経験者も一緒に働けるのではないかと。
 
私の運営する居場所に通い始めたKくんは、数カ月して親しくなったMくんを「自分の職場で働かないか」と誘いました。Mくんは中学1年のときから不登校で、高校には進学しておらず、社会から切り離された状態で15年以上が過ぎていました。「このままではいけない」と思っていたのですが、これという立ち直るきっかけもなく時間が過ぎました。そして、ようやくたどり着いたのが不登校情報センターの居場所でした。
 
慎重で真面目(まじめ)なタイプのMくんは、Kくんの提案に乗りました。会社の面接を合格し、30代で初めて清掃業で働くようになりました。それから数カ月がたち、Kくんが職場で働くMくんの姿を見て、「戦闘民族の顔になった」というのです。
 
 働けるようになり、ある程度の期間を過ぎたころの表情の変化を鋭く鮮やかに表している言葉だと思いました。
 
 
〈10〉枯れかけの花
 
水やりと同様、関心を寄せてほしい
 
 
ある人の話です。趣味は、園芸・ガーデニングです。自宅のベランダに季節の花をいっぱいに咲かせるのがいつもの楽しみ。朝夕の水やりが日課で、私の生活リズムができています。
 
 ベランダに咲く季節の花から幾つかを切り取って、室内に飾ります。こう言うと、生け花やフラワーデザインに近いものを連想する人もいるかもしれません。しかしそれらと比べたら、ほど遠いものですがこれも私の園芸趣味のうちです。
 
 その中で、気になるのは「枯れかけの花」。そういう花であっても水を与えて、陽に当たると少し元気になる気がします。
 
 枯れかけの花とは、もしかして私と似ているところがあるのかも…。なんだか自分の姿を見ているような気持ちにもなります。
 
 あまりパッとしない私に心を配り、関心をもって見守ってくれる人がいるのは、花にとっての水やりや日当たりと同じ感覚のように思えます。枯れかけの花が元気を取り戻すように、私に関心を寄せてくれる人がいると元気が出る気がするのです。
 
 そんな枯れかけの花を無心になって、念入りに手をかけていると、気付くことがあります。なかなか口には出しませんが、「自分もこの花のように誰かに気に掛けてもらいたいんだよ…」と。
 
 
〈11〉ある親子の話
 
母と寝床で話し愛着不足補う
 
 
『ひきこもり国語辞典』には、載せられなかった逸話を紹介します。
 
30代になるBくんが居場所に来始めました。しばらくして、Bくんのお母さんが相談に来ました。
 
そのお母さんの話の中に出てきたことです。Bくんは、夜になりお母さんが寝る時間になると、枕元に来て話すのだそうです。日常の取り留めないことが多いですが、他に話す相手がいないのか、その日にあったことなどを話し掛けてきます。この時間になるのは「親もゆっくりと話せるだろう」という気持ちからのようです。
 
 Bくんはそのうち眠くなり、寝てしまいます。頭をお母さんのおなか辺りに置き2人でT字型になるのです。
 
 子どもはよく、お母さんの布団に入ってくることがありますが、Bくんは30代ということもあって、お母さんの布団に入るわけにはいかないと思い、T字型で横になるのでしょう。
 
 これを聞いて、私はBくんが子ども時代にできなかったこと、やり残したことを取り戻そうとしているのではないかと思いました。Bくんとは顔を合わせますが、彼からはこういった話は出てきませんので、実際は確かめようがないのですが、もしかしたら、愛着(依存的な甘え)不足を補う行動の一つと言えるかもしれません。
 
 
〈12〉対応の仕方
 
それぞれの持ち味を伸ばして
 
 
 ひきこもり経験者の集まる居場所ができたのは20年前ほど前の話です。年齢、男女、ジェンダー、経験、性格、目的などが異なる人が毎日やってきましたが、共通する対応はありませんでした。
 
 参加者の自己紹介と数人の話し合いが自然に始まりました。あるとき、通所者の誰かが書いた「難しいと恥ずかしいは類似語です」と書いたA4版の紙が貼られました。この言葉には、失敗や恥ずかしい事態にはなりたくない気持ちや書いた人の性格のようなものが表れ、ひきこもりになる人の特色の一面が見えるように思えました。
 
 これをきっかけに、ひきこもり経験者による言葉を集め始め『ひきこもり国語辞典』が生まれました。
 
 振り返って考えれば、これは〝教える型〟の対応でなく、反対にそれぞれの人の思いや得意なことを〝引き出す型〟の取り組みです。世の中は教える型が定着しています。方法自体を否定するつもりはないですが、頻度(ひんど)が多いと時には押し付けになり、子どもも大人も教えてくれることや与えてくれるのを待ち、受け身になってしまいます。
 
 ひきこもり経験者には個々人の持ち味を伸ばす方法が必要で、『ひきこもり国語辞典』は、心の内側や得意分野を引き出す一環だったといえます。
 
 
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回答者 本人回答 代筆母 代筆父 合計
10(1)  7  3 20(1)
 5(3)  0  0  5(3)
男女不明  0  3  1  4
合計 15(4) 10  4 29(4)

*( )内は結婚者数(事実婚を含む)


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