子ども時代の正月行事に“グロ”というのがありました。竹などで作った円形のもので、原始時代の住居みたいなものです。左義長の一種でしょう。
正月に子どもたちがそこに集まり、家から持ってきたもちを焼き食べるのです。中央に火をたく場所があり、囲炉裏のようですが作りは大まかです。火加減が難しく、薪が濡れて火がつかない、小屋に煙が充満することもありました。餅もうまく焼けず、炭のように黒くなったり灰の中に埋もれたり…。それでもテレビが普及する以前の子どもたちの正月の遊び場でした。
試しにネット上で調べたところ「五十猛(いそたけ)のグロ」として掲載されていました。大田市指定無形民族文化財、国の重要無形民族文化財となっています。
先日読んだ大野晋先生の『日本語以前』(岩波新書、1987年)でまた別のことを知りました。大野先生は日本語とインド南部のタミル語の祖先に共通性があると発表して、話題になった人です。この本はそれを根拠づける、多数の語彙の対応関係などを言語学の法則的な基準に照らし、表示している労作です。
その序章「遥かな南インド」でタミル語地域(インド南東部とスリランカ北部)の風習と日本に残っている風習を対比させています。
タミル語地域のあちこちに1月14日が年の終わりの日、15日が新年最初の日を示す風習が残っています。仮小屋ができ15日にはそれを焼き新年を迎えます。実はグロも正月の飾り物などを集めて焼くのです。それが1月15日であるのは、ネット上の大田市観光協会の記事で知りました。
この風習はタミル地域と日本だけに残っているのではなく、東アジアのあちこちに残っている可能性を示唆されています。大野先生は言語の共通の祖先は人間の共通の祖先、少なくとも文化的な交流があることを提示されたのです。