11月13日「家族から見た周辺履歴書・改訂版」を紹介しました。相談にきている親の方に「周辺履歴書」を書いていただき、それへの返事を書き始めています。個別の返事は公開できませんが、共通の公開できる部分もあります。
この「センター便り」を見ている方、知り合いの方で「周辺履歴書」に関心がある方は書いて送って下さい(所在確認のため郵送のみ受け付け)。時間は要しますが、必ずお返事をします。以下はこのたび「周辺履歴書」を書いていただいた人への返事の共通の公開部分です。
6名の親から、引きこもっている8人の「家族から見た周辺履歴書」を受け取りました。一人ひとりについて実際にそった「周辺履歴書」に意見を書き、その改善を図ります。引きこもる子どもをよく見ていく取り組みです。またこれからの相談等の場で基本的な参考資料にします。一人ひとりのことは別紙メモに書きました。ここは共通することを簡略に書きます。
いただいた「周辺履歴書」の書き方はいろいろです。さらに多くの人が「周辺履歴書」を試みる中で、書きやすくするための書式を考えようと思います。今回はそのような書きやすさよりも、肝心な内容が抜け落ちないようにする点を重視しました。
8名の「周辺履歴書」をいただきましたが、相当に詳しいものから、まだ下書き程度に書かれたものまで詳細には幅があります。比較的共通しているのは、子どもの誕生から、保育園、小学校以来の学校に関することは忘れないでいます。20歳を超えたあたりからは詳しい人と空白の多い人の差が大きくなります。
さて私は最近『アイデンティティ生涯発達論の展開』という本を読みました。乳幼児期に人間は何を獲得するのかを確認するためです。引きこもりには乳幼児期に1つの葛藤の根があると推測できます。また性格・気質、感受性、内向性なども関係します。
この本では、そのような人が「体験している心の世界は、混沌としている。被害感や被迫害感、怒りなどのネガティブな感情や不快感は強烈に自覚されているが、クライエントの中では、何がどうなっているかは、全く理解されていない」(96ページ)状況であると描いています。私はこれが成長後に引きこもる背景の1つになると考えます。
このような部分を親の目からテーマを持って迫ろうとするのが「周辺履歴書」です。
その次には思春期の時期を重視します。思春期の課題としては対人関係の広がりと社会性の獲得、男性性や女性性の獲得が課題になります。その一方で、この時期に深刻ないじめを受けた人もいます。それまで成長してきた人格が相当に破壊されたことにつながります。引きこもり経験者にはいじめ攻撃にさらされたり、失敗経験が関係している人がいます。
この後も青年期の状態などが関係しますが、主要には乳幼児期から思春期の状態を「周辺履歴書」を通して接近しようと試みたいわけです。
そうすると「周辺履歴書」に加えたいのは、家族から見たそのような体験です。引きこもり当事者である子どもと家族や同年齢の友達関係を見なくてはなりません。それは通常の履歴書的なものではなく、エピソードを思い起こし書き込むのがいいでしょう。家族の中の出来事、友人関係における出来事を振り返って見るのです。また経験したことをどのように受けとめるのかは、本人の性格や感受性にも左右されます。本人の性格の特徴を象徴するようなエピソードもほしいわけです。日付がはっきりしているものばかりではなく、「――年―月ごろ」という時間範囲の広い時期の出来事も大事になってきます。「周辺履歴書」にはそのようなものを思い出しながら書き込んでください。
いくら記憶がよくてもこれらの全体を一度に書き上げることは難しいです。その一方、詳しければいいというわけでもないかもしれません。重大と思えることを的確に書いていく作業になります。書き進めながらそれらを判断し修正をしていきます。気づいたことをメモにしましたので、それを参考に「周辺履歴書」を書き直してみてください。