“休戦協定”と不安解消のことば

ひきこもって家にいる人にとっては、「何時から学校に行くんだ」「そろそろ働きに行ってもいいころじゃないか」と親から追及されるのは嫌なものです。とくに自分でもそうしたいのにできないでいると思う人にはウザイのです。
家族と顔を合わせなければならない食事時になると、そういう言葉がいつ飛んでくるかわかりません。目を合わせないように急いで食べる、自分の部屋の持って行って食べるというのはその防衛策です。
親の方もひきこもっている子どもから何とか早く学校に行くとか、働きに行くという言葉がほしいのです。いつこの種の言葉が飛んできてもおかしくはない状況です。
これは精神衛生的にもいいことではありません。ここは“休戦協定”を提案してはどうでしょうか。
子ども側から提案するときは「(学校に行ける気持ちになるまで・働こうとなるまで)どうしたいか決めたら自分から話すので、それまでは待っていてほしい」と告げることです。
親から提案するときは「どうするかあなたの答えを待っている。それまでは注文を付けないからゆっくり食事をしなさい」というようなことがいいでしょう。
こう並べて見ると子どもからの提案は親から催促を受けやすいことがわかります。自分から言っといて後はなしのつぶて……と思われやすいのです。いい提案のしかた、話し方を工夫しなくてはなりません。
ともあれ親から提案するのが効果的です。これが“休戦協定”です。
ところが親からこの“休戦協定”は破られやすいのです。早く結論を出して動き出してほしいからです。そう簡単にいかない事情はわかっていても親はそうしがちです。
理由は親が不安になるからです。その不安を解消するために何かの答えを欲しいのです。親はしんぼうづよくないとつとまりません。
それに加えて、親として何もしないでいるのではないかと心配になります。周囲の人からそうは思われたくないがために「しょっちゅう言ってはいるのですけれどね」というアリバイづくりをする人もいます。要するに親の不安解消や周りから言われたときに何もしていないのじゃないという言い訳づくりのためにひきこもる子どもを追求し、何らかの反応を得ようとするのです。これは子どものためではなく、親のためのことばです。
“休戦協定”を提案し、時間をかけてゆっくりとことを進めます。数か月してから「あれはどうなった」ときく、数回繰り返したら「期限を決めてあなたの考えを聞かせて…」という具合です。その先に親側からの「ひきこもる子どもにできそうな提案」が考えられます。その提案にはいくつかの方法がありますが、子どもの状態によります。比較的多いのは、外から誰かに来てもらう方法です。この提案は(個人差はありますが)子どもが自分で考え、迷い模索し、提案を受けとめ、心のうちで咀嚼する時間が必要なのです。(つづく)

5月28日の不登校セミナ-のなかで感じたことを書きました。終りの方は要点だけなので詳しく書く必要がありそうです。

『ポラリス通信』6月号を作成

会報『ポラリス通信』6月号(41号)を作成しました。
内容は、6月のスケジュール。
連載「メンタルフレンド・力」(14回)
松田武己「“休戦協定”と不安解消のことば」
片桐・体験記「ひきこもりやすいネット時代に生きています」(上)
ゲーム交流会の案内を1ページで作りました。
これらで合計8ページです。

第2回実行委員会の案内が届きました

全国若者・ひきこもり協同実践交流会の第12回全国集会を準備する実行委員会の案内が届きました。本大会は来年3月4・5日駒澤大学で1000人規模になる見込みです。
実行委員会の案内を紹介いたします。不登校情報センターからは2人以上で参加したいと思います。
<5月13日に実施された第1回実行委員会&キックオフセミナーでは、関係者約40人があつまり、本集会の経緯が共有された後、どのようなテーマが必要かなど、活発な議論が行われました。
第2回実行委員会は、以下の要領で7月2日(土)に開催されます(6月開催とアナウンスされていましたが、日程が変更されました)。
今後、来年3月の集会に向けて具体的な議論がすすめられていく予定ですが、この取り組みで目指されてきたことは、全国の様々な実践から学びあう交流はもとより、現地の実行委員会が集会を協同で創り上げるプロセスを通して、現地のネットワークをさらに豊かなものにし、更には全国の実践との連携へとネットワークを広げることです。
みなさまには、実行委員会に参加し、本取り組みを共につくっていただきたいと思います。また、今回も多くの団体や個人によびかけ、準備を進めていきたいと思っております。
【日時】 2016年7月2日(土) 13:30‐17:00
【内容】 ①大会テーマ案について
    ②全体集会の内容について
    ③テーマ別交流会の内容
【場所】 ワーカーズコープ 8階会議室
    豊島区東池袋1-44-3 池袋タマビル
    (池袋駅東口北から徒歩5分)
    http://www.roukyou.gr.jp/      
 「全国若者・ひきこもり協同実践交流会」東京大会事務局
mail:tky.wakamono@gmail.com(担当・高橋)
 NPO法人ワーカーズコープ  ℡:03-6907-8030 (担当・扶蘇)
NPO法人文化学習協同ネットワーク ℡:0422-47-8706(担当・高橋)
NPO法人教育サポートセンターNIRE  ℡:03-3784-0450(担当・中塚)

オバマ大統領をまねてセミナーにテキストを準備

不登校になる子どもたちの様子を長年見てきました。
優しいところがある、相手のことを気にして遠慮がち、人がどう考えるかを見届けてから自分はどうするかを考える、自分のことはあと回し…などです。
一言でいうと内向的であり周囲のことによく気付く。よく見え、よく聞こえ、嗅覚も鋭く感受性が強いと言えます。これらは先天的なもので、変えることはできません。
そういう自分に、友達や学校や時には家族という周囲の関係がうまく調整できないことがでてくる。周囲の友達関係など社会性が芽生えてくる思春期に不登校が増えるのはそのためです。
周囲の関係が上手くいかないとき、イライラして家族にぶつかるとか、部屋の壁をたたく。行動面に表われ方はいろいろですが、感受性の強い子どもに表われるのが不登校です。不登校は学校という社会関係の場面に表われるので、問題が大きなことになるのです。
このことを意識できればそれは自分の発見です。自分はどういうタイプなのか、どういうときに慎重になるのか、元気になるのか。あるいは何が得意で何が苦手なのか、そういうことを意識する、自覚する、そういう自分を知る手掛かりになります。
しかし子ども本人が直面する不都合と、自分の感受性がかかわっていることがよくわからない。学校に行けないが、それを説明できない。なぜ学校に行かないのか聞かれても答えられない。よほど心理学ができるレベルの中学生や高校生でないと説明は困難です。
家族は理由がないのに学校をさぼっていると思ったり病気ではないかと思う。子ども本人はさぼっているわけではないがそれを説明できないのです(いじめとか体罰とか部活での事件のときには主要なきっかけがわかることが あります)。
中学生や高校生の不登校は、こういう事情を早期発見する面があります。問題が発生したわけです。原因は子ども本人にもわかりません。直接的な理由はわかったとしても、根本的な原因はまだわかったとは言えません。不登校という事態の発生は意識して根本の理由を探せる手掛かりになります。

どうすれば原因がわかるでしょうか。子ども本人の感情、行動を周囲の人が規制せずに認め、受け入れるようになれば、自然に原因がわかります。ところが周囲の人はこのような自然を認めません。早く学校に行くようにするにはどうすればいいのかという目で子どもを見ます。子どもはその目を意識しながら振る舞いますから行動や言葉が制約されます。そのために原因が探せなくますます混乱することがあります。
根本を探すこととは、子どもの自然は成長を応援するスタンスになればいいわけです。それは解決していく方法と同じです。ですがここに到達するまでには時間がかかり試行錯誤を繰り返します。
家族など周囲の人にも問題解決の手掛かりがあるのはこのためです。学校に行かないことは悪いことではありません。特定の価値観から見るから問題になり、それを直そうとしてこじらせるのです。学校に行けないことを子どもが自分を知る機会にすればいいのです。子ども本人がそういう自分に合った生き方、過ごし方を学んでいく契機になれば不登校は不都合なことではありません。

これは28日(土)の不登校セミナーで話したことです。オバマ大統領が広島でのスピーチのとき、テキストを用意しているのをテレビで見ていました。それをまねてみました。セミナーが始まる前に急いでテキストを準備しました。ここに掲載したのはそれを少し訂正したものです。

KHJの様子を聞きひきこもり親の会を考えてなおす

KHJ(全国ひきこもり家族会連合会)事務局の人と話す機会がありました。ひきこもりの親の会の運営について状況を聞かせていただきました。KHJは昨年から家族会が次々にできて全国で60ぐらいの会になります。様子はいろいろですが親中心に運営するところが多いといいます。
親が仕事場を立ち上げようとしている、学習をすすめて親子関係を改善する、当事者の参加を積極的に促す、行政への働きかけと協力などそれぞれ特色があるようです。
不登校情報センターのひきこもりの親の会は15年間、月例会を重ねてきました。最近は親の目を通して当事者への対応を考えてきたように思います。その親の会の対比のなかで気づくことは多くあります。マンネリ化しているかもしれません。運営や内容を多角的に見ることが必要でしょう。KHJのいろいろな例に学びながら、親の会がよって立つ土俵を変える方法もあるかもしれません。
現在の大人のひきこもりを考える教室を改変する方向、KHJの支部になる方向なども考えられます。運営に親メンバーが加わるようにするのがカギのような気がします。方向や運営のしかたを発展的に変えていくには少し時間がいるようです。夏から秋にかけてのテーマの一つです。

横浜の美容室が出張サービスをしています

ひきこもりへの対処を含む出張・出前型の職種に情報紹介を依頼してきました。5月に入ってからのことで依頼はまだ始めたばかりです。
その第1号の回答が寄せられました。横浜市内にある「アース美容研究所」からです。ヘア&メイク、カット、パーマ、カラーの他に毛髪カウンセリングもあります。理容と美容の両方ができます。出張費は実費になりますがそれでよければどこにでも行くそうです。
このような職種なら「支援を受ける」という気分はなくサービスを受けられるでしょう。
それでも会話やコミュニケーションへの負担を感じることもあるでしょうが、一つの対人接触の機会となるはずです。
その後もこの手の職種を探していて、室内クリーニング(掃除)、整体師、パソコン教室などが候補に挙がっています。そういう職種の所にも情報紹介をお願いし続けます。思い当たる必要な職名をお知らせください。探してみて、頼んでみます。

実況の動画配信をするCくんがきました

月曜日、久しぶりにCくんが来ました。
Cくんは実況の動画配信をして2年以上になります。その話を聞かせてもらいました。
動画は生放送で、見る人は数人でほとんどが男性。親しくなった人もいるし、会った人もいます。
初めのうちは自分の言いたいことを言っていたのです。配信中に画面に書かれたコメントが流れます。それを読んでいると、自分がどうみられているのかを感じ始めます。外から見た自分です。これは自分を理解していく方法になると感じるそうです。この時点で嫌になる人もいそうです。
いまではCくんにとって動画の生放送はやめられないといいます。これによって収入は得られません。しかし、続けてきて外から見た自分や自分を理解する方法という得られるものが出てきました。これからどうなるかはわからないけど楽しみはできたのです。

Cくんが言ったのではありませんが、これはCくんの生きていく意味かもしれません。私から少しお願いをしました。引きこもっている人と接点を持ちたいのに手段がない。不登校情報センターでも松田武己でもいいから、動画のなかで話してみてくれないか。視聴する1%に届けば接点を持つ手掛かりになるかもしれません。

心理的な抵抗感を数値表現して「行く・行かない」の判断に

不登校生の相談(診療)をしているあるお医者さんの例です。高校生とその母親がこの医院に行っています。
診察のなかで、どういう場面で生徒の抵抗感が強いのかを聞いてきました。いちばん抵抗感の強いところを100とすると、どの程度かを数値化してみてはどうかというのです。
生徒が答えたのは、自宅(家庭)が10、この医師の所は15(お母さんが言うには医師へのリップサービスがあるかも?)、学校は65、部活は…と続きます。
そのあとで「50を超えたらしない・行かない、49以下ならチャレンジしてみる」と話されました。わかりやすい方法です。医師に限らず一つのやり方ではないかと思いました。
先週のセシオネット親の会(不登校の親の会)の席で聞いたことです。

「ひきこもりカフェ」という居場所情報いただきました

5月8日の「ひきこもり大学in下町」では、「居場所」の分科会に参加しました。
その席に板橋区のボランティアセンターを担当されている方がいまして、そこで運営しているカフェの情報を送ってこられました。「ひきこもりカフェ/ひきこもりカフェ女子会」といいます。
行政が関係している支援の場として参考になると思います。

〔ひきこもりカフェ/ひきこもりカフェ女子会〕
http://www.futoko.info/…/%E3%81%B2%E3%81%8D%E3%81%93%E3%82%…

福祉事務所の前で「気持ちがついていかない」に対処

先日、都内の福祉事務所にいきました。30代で一人暮らしをするBさんと一緒です。生活保護を受けるための条件や手続きを相談するためです。
福祉事務所前で待ち合わせをし、事前の打ち合わせをしてから相談窓口に行くつもりでした。約束時間より少し早くBさんはやってきて、所外に出るように合図をしながら先を歩いていきます。
人目がないあたりまで来て「待って! 今日は待って」といいます。
確かに前に約束してこの日に福祉事務所に来た。けれども「待ってほしい」ということです。ありうることです。
ですが私はBさんに理由を聞いてみました。
「気持ちが…、気持ちが…」
いまはそういう気持ちになれない、気持ちがついていかない、ということでしょう。しかし、「気持ちが」の次の言葉が出てきません。
はたして自分はそんな状態なのか、もっと別の方法があるのではないか、自分の状態を受け入れられない…言葉にはできないけれどもそういう気持ちを推測できます。そういえば「生活保護を受けることは自分の人生がゲームオーバーになる」と表現した人もいました。とにかくまだ自分の状態を表現できない困惑した状態でいるのです。「待って!」、「気持ちが…」は、そういう気持ちが外側に漏れているサインなのです。
私はBさんの気持ちを待つことにしました。この日はBさんと一緒に相談窓口に行くのを断念しました。そして「あなたの代理になって私が一人で相談窓口に行くことは認めてほしい」と言いました。
先日は一緒の相談窓口に行こうと約束した。その日になって一緒に窓口には行けないけれども事務所にはきました。
ここで、私がBさんの代理で相談に行くのを認めれば、それはそれで一歩には満たないが小さな前進になると判断できるでしょう。
Bさんは、しばらく考えてから同意をしてくれました。こういうことが数回繰り返されるかもしれません。待ちながら少しずつ着実に進む方法はその場での対処・機転です。この日もわずかですが進んだと思います。