「ポスト真実」時代の新聞記事の役割を生かす

昨年DeNAが健康問題ではっきりしないことを巧みな文章表現でサイト検索の上位にしたことで注目されました。要は偽情報で儲けようとしたのです。このDeNAのやり方は「ポスト真実」(post-truth)の日本での代表例といいます。
「ポスト真実」とはオックスフォード辞書によると「世論を形成する際に、客観的な事実よりも、むしろ感情や個人的信条へのアピールがより影響力があるような状況」を指す言葉です。これはインターネットによる情報伝達の弱点になるかもしれません。
それに対して事実確認の作業を重視しながら、より分かりやすく書こうとするのが新聞記事だと思います。「ひきこもり周辺ニュース」は新聞記事から不登校情報センターがめざす情報を系統的に集めようとする試みです。
しかし、それなりの苦労もあります。業界紙からの関連記事探しをHくんに頼んだのですが、苦心していると思います。作業進行の過程で私が気付いたことをH君に渡そうと考えました。その一部を紹介します。

<業界紙の状況を考えると、全体にわたるまとめサイトは見つかりません。先日渡した新聞リストを1件1件調べることから進みます。すでに30紙ぐらいを調べました。感触は悪くはないと思います。1度に全部調べるのではなく、少しずつ調べてその記録を蓄積していきます。1紙を調べる期間も適当に開けるのがいいと思います。
業界紙の記事はかなり古いものが残っています。2014年、2013年はまだいいほうです。2006年というのもありました。今のところ2016年以降の記事を集めるつもりです。
業界紙は渡したリスト以外にも多数あるはずです。その中から関係記事が比較的よく載る新聞をチェックする方法がいいと思います。機関紙も同様にするつもりです。
調べ作業のポイントを上げると、①検索窓がないと探しにくいので検索窓の有無、②コピーできる・できないも関係、③検索語をいくつか試すこと、④元業界紙への転載の連絡です。
これらを探して「ない」新聞は事実上削除します。しかし、各業界紙はサイト制作方針を変えるかもしれないので、長い周期で巡回して調べる作業は続けたいと思います。>

狂気、死、長期入院の希望を聞く

狂気、死、長期入院の希望について聞いたり考える機会がありました。よくこんなことが書けるようになったなあと自分でもあきれるほどです。ただ予想するほど重いことでもありません。
専門的に研究されている方からの評価はわかりませんが、実践者としての実感を書きます。カウンセラー希望の方には参考になるかもしれません。

狂気になりそうだと聞いたことがあります。これまでに数人がその様子を話してくれました。その最中からの電話もありました。ことばに表現するのが難しいのでうまく表現できた人はいません。切迫した感情・感覚の場面をことばにするのは誰にとっても非常に難しいものです。以前に比べると私も少しは落ち着いて聞けるようになったはずです。
今回のPさんは間近に迫った自分の誕生日を越せるかどうかが心配だったようです。連日の電話の話で2週間をこえました。誕生日を超えたあたりからだんだんと落ち着いたようです。
断片的なことばや単語やトーンをつなぎ合わせてみました。「狂気になりそう」な感覚をあえてことばにまとめるとこのようなものです。十分に言い表すことはできていないでしょうが参考にはなるかもしれません。

<精神が壊れる不安があった。正気を失って収容される感じです。それは魂が飛んでいく感じ、飛び立つ感じがした。違う世界に行くのではないかと焦り怖かった。フッとなって飛んでいき、そのまま戻ってこられず、そのまま発狂するような気分に襲われました。>これが中心点です。
そうなった背景は、常に周囲から見られている困惑した状態があり、覚られ妄想が強くなっている。自分のしていることが周りにつつぬけになっている。自分のポルノが漏れる。そういう追い詰められた状況になっていました。
それに加えて、父が死ぬところを見た。これが大きくショックを受け、不安定になった。そのあとの母親の認知症的な振る舞いや家族がずるくてどうしようもないのがわかった、それらが重なった…。

こんな切迫した状態から落ち着いてきた過程を振り返ります。
これまでは誰にも話せなかった覚られ恐怖を、さえぎられたり否定されたりすることなく、落ち着いて聞いてもらえた。受けとめられた感じがした。若いころに話そうとしたこともあったが、バカなことを! ありえないでしょ! …ということでそれ以上を聞いてもらえたことがなかった。
もう話すことはないと思ったが、せっぱつまって話したところ当たり前のように聞いてもらえたし、繰り返し話すことができた。これまで話せなかったのはそれがきっかけで嫌われるのではないかと恐れていたが、その余裕もなくしていた。
もう一つは自分なりに落ち着いたときに身辺整理をした。発狂しないかとおそれて、身辺整理のつもりで片づける作業を続けてきた。処分するものをまとめたり、ネット上に書いたいやなものを消した。
これらがよくなってきた理由だと思う。

以前に別の人から聞いた狂気の不安感を、あるところに書きました。
<狂気 この世に生きているという存在感覚がうすれ(なくなり)、あるときに異次元に入っていった瞬間がありました。もしかしたら倒れていたのかもしれません。気持ちのいいものではありませんが、正気と狂気の境目は、それほど厚くない実感がしました。>
存在感覚=意識が薄れるというのと「魂が飛んでいく」というのは同じことで、人それぞれの表現の違いのように思います。
Pさんも、狂気への恐怖と死の恐怖が重なっています。両者の入り口は隣り合わせになっています。
Pさんが安全の場として思い浮かべたもう一つが入院です。それを永遠のサナトリウムといいました。このサナトリウムという表現は別の人も使いましたし、シェルターといった人もいます。これらは「人間世界からの撤退願望」を指しています。
しかし、これは人間世界のサービスを受けなくてはならないので完全撤退にはなりません。
狂気は精神的な人間世界からの撤退、死は物理的な人間世界からの撤退、長期入院は社会的な人間世界からの撤退といえると思います。入り口が隣り合っているので、同時に思い出しやすいのでしょう。
これらのことばを聞いたときには、落ち着いて聞くことです。「死んだらダメ!」とか「正気になって!」「バカなことを言うな!」とか、意図してもできないことを求めない、話していることばを遮断しないことです。ゆっくり聞けば長くて1時間、落ち着いてきた時期になると10分ほどで安定を取り戻します。
女性の場合は、派生する物語が長くなることがあります。ある程度話を聞いたところで、この日の予定時間を告げて、近い時期の次回を知らせることです。続けられるのがはっきりすれば継続していけます。継続のなかで安定していきます。
早口で次々にいろいろなことを話す人もいます。話したいこと、避けたいこと、イやなことがいろいろあると、すぐに全部を話してしまいたくなるのでしょう。この場合は聞き分けながら理解することができません。話す側が“パニック”になっているのですから、落ち着くまで待つしかありません。
なにも反応しないで聞いていると「聞いていないのでは?」と思い、「聞いてる?」と確認を求めてくることもあります。聞いている反応をします。
何も聞かないうちから「今日はダメ…」的なことが続くと、連絡はなくなります。当てにされなくなったということです。自分にも事情があるのは確かですが、いつもそうでは「聞く気はない」という意思表示になります。
自分には継続が無理ならその旨を告げるしかありません。自分ができない事情を話すのであって、話してくる人を責めたり、さえぎるのはよくありません。
答えは話してくる人の内に潜んでいます。話していくうちに奥に潜んでいるものを表面に浮上させ、ことばにしていくものでしょう。聞いているほうからアドバイス的なことを語るのは、この過程の邪魔になります。よく聞くこと、聞き出すための受け答えに終始すればいいと思います。
Pさんに、「勉強になりました」と答えたら、気が抜けたというか切迫感がうすれたようです。私はカウンセリングをしているつもりなどはなく、教えてもらう、学ぶつもりで聞いていたのです。それが「勉強になりました」の答えです。