6月4日の「(5)性的少数者の社会的承認」についてChさんからコメントをもらいました。ChさんはLGBTについて詳しく私のおおまかな理解をただしてくれました。いずれそれらを含めてこの部分は書き直すつもりです。
同時にChさんはある意見を紹介してくれました。
《結婚について、同性の友達同士や、同性の一人親同士など、支え合える人と「家族」という形にできると生きやすい、という話がネット上にありました。性別や性的指向(SEX対象の性別)が何であれ、入院時などの保証人になれたり、遺族年金がもらえたり、夫婦と同じような権利が得られたら本当にいいだろうな、と思います。LGBTの結婚問題もこれで解決できます。》
これを読んで、私はLGBTの問題ではなく、「核家族化し家族が機能不全になっている状況の解決策」になると思いました。子育て(幼児虐待、育児放棄)、介護(介護放棄、ヤングケアラー)、経済的な困難(住宅・食事)…などが、家族の力(機能)の力では支えられないいくつかの社会問題を改善する方向になりそうです。Chさんの紹介してくれた家族像(私はこれを共同的家族と仮称)が、これらを改善する方向になると思ったわけです。
家族の機能とは何でしょうか。徳野貞雄『農村(ムラ)の幸せ、都会(マチ)の幸せ』(生活人新書、2007)によると、家族には、基本的に6つの機能があります(120-124ページ)。
(1) 生産共同の機能(役割)……とくに農業などの自営業が該当します。
(2) 消費共同機能……「子どもも年寄りも、自分で生産できなくても食べていけるのは、このおかげです」
(3) 性的欲求充足機能……(松田の追加説明)「生物学的血縁家族成立の条件」
(4) 生殖と養育機能……「一部、保育園や乳児園で代替しています」
(5) 生活拡充機能……これは無限です(食事、掃除、衛生、子どもの保護、娯楽)……外注できる機能であり、それがサービス産業になる。
(6) 精神的安定機能……「家族の愛情は…独立しては成立し得ず、他の無数の家族の機能が働いている所にしか成立できない」。
夫婦と子どもで構成する核家族では、これらの機能のいろいろが支えられなくなっています。多くの社会問題が生まれたのは、家族の機能停止・縮小と結びついています。Chさんは共同的家族がLGBTの問題解決になると紹介したわけです。それに加えて養子縁組の受け皿としても機能できます。共同食事(食卓の回復)にも有効になるでしょう。他にもいろいろできます。
日本における核家族の起源は、はるか平安時代にまで遡ると言われます。ところが今日の機能不全核家族の起源は、1960年代の高度経済成長期の時期に質的転機を迎え大きく広がりました。平安時代以降で最大の社会的変化(戦国時代や第2次大戦後の変化をしのぐ大変化)です。
それまでは産業人口の50%以上は農業従事者でした。現在の農業従事者はどれくらいでしょうか? 2020年の農業従事者は136万人といい、就業人口の2~3%、しかも高齢化が進行し、さらに減少し続けています。
工業化とは農業人口が減少し、とくに工業地帯・都市域への人口大移動でした。農村にあった一家は家族がバラバラに都市に移動しました。60年代以降の核家族化とはこのようなものであり、農村の共同体は崩れて行き(少なくとも縮小)、都市でそれに代わる生活共同体はすぐには生まれません。「隣は行をする人ぞ」という都市域の住民の状況がそれを示しています。
失われた家族の機能を回復する道、Chさんが紹介したのはその1つの例です。といってもそこには多くの要素や方向があり、単純にそこに向かうとは言い切れません。しかし、何らかの理由で既にそうなった人たちはおり、生活上の便利さなどを得ているので、いろいろな経路で広がると予想できます。気付いてみれば、日本の家族制度の大変革となるのかもしれません。