「出雲のイナズマ」と知られる将棋の福間香奈女流六冠が、日本将棋連盟に要望書を出しました。タイトル保持者が妊娠や出産のため対局できないときは不戦敗とせず、その期だけの優勝者を決める暫定王者制度を設けてタイトル保持者の地位を保障するなどの提案です。
福間棋士は 2024年4月に妊娠が判明。同年12月の出産までの期間に予定されたタイトル戦で不戦敗となりました。連盟は2025年4月に出産予定日を基準に産前6週、産後8週の合計14週と日程が重なる対局は対局者を変更する規定を施行しました。
要望書は、この規定では妊娠とタイトル戦の二者択一を迫るもので出産に関する事項を自ら決めるリプロダクティブ権を制約すると指摘しています。その上で対局日程や場所を調整し、出産前後でも体調や医師の意見に応じて出場できる規定を要望しています。
この件は将棋界の女性の特別の事例のように見えますが、おそらく社会のきわめて多くの分野で生まれていると思われます。特殊であるから例外ではなく、その将棋界いう特殊性であるために広く社会の注目を集める状況になりました。
福間棋士の要望がそのまま受け入れられるのか、あるいは将棋連盟が別の方式の答えを用意して、両者が共に納得できる新しい規定ができるのか。一人の棋士の要望のように見えて、これは特殊ではなく社会の多くの分野に波及していく「妊娠・出産に伴う時期」の規定になると感じます。世の中はこうして一つずつ女性が負担になっている条件を適切に処理する方法を積み上げていくのです。共に納得できる新しい規定ができることを願います。
今回は女流棋士の内側の問題です。しかしそれは将棋界の全体に、さらには社会全体の男女・ジェンダー平等の基準の参考例になるものと考えます。福間さんは盤上の外で、こういう分野でも出雲のイナズマらしさを示しました。少子化対策を考える官民の関係者は事態を静かに見つめているのではないでしょうか。