●文通番号8-27  家も学校も辛かった

スピカ 〔埼玉県上尾市 女 29歳 家事手伝い・内職〕

家を出る口実に制服を着る、家を出る。教室のドアを開ける、言い知れぬ不安。息苦しかった。空気の壁みたいな圧力を感じた。「そうかなぁ? そんなことないけどねぇ」。キョトンとして誰かが言った。―あなたはそれを感じないのね、幸せな人。教室に入れない、学校にいたくない。家に帰れない。街をさまよう。

友人に大量の手紙を書いた、内容に対する返事は一言もなかった。―私ってその程度なのね。いない間に私物が使われた、犯人は友人の一人だった。事後報告もなかった。

―もういいや。決別の決心がついた、学校なんてしがみつく必要のない所。ただ資格だけあればいい、身分が欲しいだけ。

機械的に出される食事、監視と中傷の食卓。母の料理を食べたくなかった。食卓が苦痛、弁当も捨てた。

「制服を着て家を出るということは、学校に行きたい気持ちはあるんだね!」。母が言った。

―そんなんじゃないや! 一日中パジャマで過ごした。「どんな気持ちで買ってやったと思ってんだ!!」。制服を床にたたきつける母、ボタンがかけた。―どんな気持ちで着てると思ってんだ!? 切り刻んで、捨てた。「近所でなんて言われてるか知ってるか!? 守ってやってんだぞ!」。母が怒鳴った。―子どもが親に守られるのは当然の権利だと思ってた、違うの? 「お前も辛かろうから生んだ責任で殺してやる」、階段を引きずり下ろされた。

“生んだ責任”と言うなら、その前にして欲しいことがある。理解できなくてもいい、せめて「そんな苦しみもあるのだ」と知って欲しい。「そんなもの気合で跳ね返せ!」。それのできる人とできない人がいる、私にはできなかった。だからといってそれが劣った人間だろうか? ―そういうのも個性って言うんじゃないの? 

父への憎しみを意識したのは小学1年だった……。「親の顔に泥を塗った」と言われたが、父のせいで人前で恥をかいたことは多々あった。些細なことで怒鳴りつける、誰に対しても横柄、自己過大評価。「人の形をした動物、乞食、バテイ」etc、感心する程のボキャブラリー。言い返せば「“角が立つ”と言って言葉に気をつけろ!!」。―自分だって、角どころか刺も毒もあるじゃないか! 崩壊した“家父長制”への憧れ? ……時々起こる殺してやりたい発作、心臓を一突き。―背中からでも場所はわかる、私にはそれが出来る。それがわかった時、体が震えた。めまいがした、意識が遠のいた……。気持ちの高ぶりが押さえられなくて、手首を切った。

子どもがその家の子になるまで、親には3回の選択のチャンスがある。

1、子どもを作るか作らないか、

2、その子を生むか生まないか、

3、自分(たち)で育てるか育てないか。そうやって子どもはその家の子になる……。

子どもがいる=親=エライ、とはどうしても思えない。子どもがいなければ「親だ!」と言って威張ることもできないのだから。

ただそのままを受けとめて欲しかった…。監視・干渉・無関心。悲しかった、苦しかった。八方ふさがり、絶望……。登校拒否・引きこもり、「したくても親が許さなかった」とよく聞く。―親に許された訳じゃない!

安心できる場所が欲しい、信用できる人が欲しい。人がこわい。―私を見て、見ないで。

わからない。

甘え方がわからない。愛し方がわからない。“愛され方がわからない”。本当の苦しみはなかなか口にできない。

ほんの少し休憩するだけのつもりだった。こんなに長くなるなんて、こんなに辛くなるなんて……。例えば深い穴に落ちたようなもの。真っ暗でどこにもつかまる所がない。

―助けて!。何度も叫んでやっと誰かが手を差し伸べてくれる。少しずつ少しずつ、穴をはい上がる。もう少し、あと一歩……。やっと縁に手がかかったところで「もういいね」。

―えっ、行っちゃうの? ちょっと待って、もう少しそこにいてよ!

……ずっとそんな感じだった。やっとかけた手は不十分、せめて少しでも出られるまで。

―お願い、行かないで!!

やっと出られてもまた外は暗闇。―見えないよ、わからないよ!

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