●文通番号14-07 古典の世界
色メガネ君 〔東京都世田谷区 男 26歳〕
『方丈記』
世にしたがえば、身くるし、したがはねば、狂せるに似たり。いずれの所を占めて、いかなるわざをしても、しばしも、この身を宿し、たまゆらも心を休むべき。わが身、父方の祖母の家をつたえて、久しくかの所に住む。その後、縁欠けて身衰へ、しのぶかたがたしげかりしかど、つひにあととむる事を得ず。
三十あまりにして、更にわが心と、一つの庵をむすぶ。これをありしすまひにならぶるに、十分が一なり。
居屋ばかりをかまえて、はかばかしく屋をつくるに及ばず。わずかに築地を築けりといへども、門を建つるたずきなし。竹を柱として車をやどせり。(続編)
世にしたがえば、心、外の塵に奪はれて惑ひ易く、人に交はれば、言葉、よその聞きにしたがひて、さながら心にあらず。
人に戯れ、物に争ひ、一度は恨み、一度は喜ぶ。
その事定まれることなし。分別みだりに起りて、得失止む時なし。惑ひの上に酔へり。
酔の中に夢をなす。走りて急がはしく、ほれて忘れたる事、人皆かくのごとし。
未だまことの道を知らずとも、縁を離れて見を静かにし、事にあずからずして、心を安くせんこそ、しばらく楽しぶとも言ひづべけれ。 以上
『伊勢物語』
昔男ありけり。身は癒しながら母なむ宮なりける。長岡といふ所にすみ給ひけり。
子は京に宮仕しければ参ずとしけれど、しばしばえ参です。さるに十二月ばかりに、とみの事とて御文ありと言へばいよいよ見まくほしき君かな。 おしまい
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