さて就職型に限定しない引きこもり経験者の社会参加のしかたは、どのようなものでしょうか。
それと「仕事のなかで自己実現する」ことはどのように結びつくのでしょうか。
この部分に答えがなければ空虚な評論家であって、支援者とはいえないでしょう。
インターネットの普及との対比で現在を「産業革命前夜のイギリス」と表現した人がいるようです(梅田望夫『ウェブ時代をゆく』ちくま新書、22ページ、2007年)。
梅田さんは「変化がかなり進行し、日本社会もずいぶん大きく変わったと過半数の人が感じる時期を『2015年から2020年あたり』とイメージしている」と同書に書いています(198ページ)。
2012年は、これでいうと情報社会が確立する以前の過程をかなり進んだ時期です。
確立した情報社会はインターネットの普及だけにはとどまりません。社会関係、人間関係がフラットな関係(上下関係から等質な関係)に移行します。
そこでは自己実現の条件が広がるとともに、その条件を提供できない社会や組織は衰退していくものと思われます。
事態はその方向に向いていると予測します。10年以内に社会の中心がそうなるというのは梅田さんのイメージと重なるのです。
不登校情報センターの取り組みは時代の動きの最先端にいるわけではありませんから、それを大幅に割り引いて読んでもらわねばなりません。
それでも情報社会の新しい姿と結びついている気分はします。
2011年をふりかえると、引きこもり経験者が自分の好きなことを「収入にするための取り組みに動き出した」と認めることができるでしょう。
もちろんこれからも紆余曲折があるにしてもです。
不登校情報センターはここに2段階の3つの分野の支援を続けています。
(1)不登校情報センター自体を収入が得られる作業場、準職場にすることです。
フリースペース(ワークスペース)での作業量が増え、作業費をより多く支払える収入になる取り組みができることです。
その中心は、不登校情報センターを「ウェブサイト運営業」として成長させることです。
*これは東京仕事センターのチラシで「NPO」の仕事としているのに相当するのでしょう。
(2)不登校情報センターに関わる引きこもり経験者が自分にできそうなことを「仕事づくり」として企画できるようにし、実現を応援することです。
メイクセラピー、ヘルプデスク、編み物教師、文通相談、居場所コーディネーター…など。
ここでの不登校情報センターの役割は、当事者それぞれの「好きなこと・得意なこと」を伸ばし、交流と発表の機会をつくり、広報と事務的な面を支えていくことです。
昨年はこの面が浮上し、顕著な成果がありました。いまもこの流れは続いていて、これからの発展にかかっています。
(3)もう一つは当事者の創作活動を生かすことです。
動きとしてはいまは「やや停滞」のときです。
創作活動を商品に結びつけること、ネットショップを実質的な動きのあるものにすることが課題です。
この3つの方法はすべてまだ萌芽状態です。
そして「仕事のなかで自己実現する」レベルもまた萌芽状態です。
社会参加としての性質を見るならば就職を否定しているのではありませんが、就職ではない仕事づくりでもあります。
「訓練をして就業に向かう」方式ではない方法を萌芽状態において現実化してきたものと認識しています。