トレーダーか株式投資の希望が出されたが

引きこもり状態にある子どもの方から親に株式投資やFXへの参入を持ちかけられることがあります。私は少なくとも3名の親からこのような話を聞きました。
親の相談の中心は「大丈夫でしょうか」というものです。私はこれに対して大丈夫という答えを返すことはできません。よく知らないし大丈夫とは何を指しているのかが聞いている親自身もはっきりしないところだからです。
3人の内の1人は子どもが働いていた時期の貯金を使ってすでに株式投資をしていたようです。ある日「株で儲かった」と家族がかなり高価なプレゼントをもらったという話を聞きました。
別の人は、両親がそろって見えて「株式投資をしたいので◎万円をほしい」と言われているがどうしたものかの相談でした。子ども本人も期するところがあるようでした。
私は◎万円の都合がつくのならば、親として応援するつもりでいるのはいいと思うが、損失が出たときその枠内でとどまるのかどうかは心配ですね、という返事をして終わりました。相談の時点で親はその金額は出すと決めていたのです。

最後の例はより一般的な考える例になると思います。
30代になるこの青年、Cさんとしましょう、はまだ働いたことがありません。高校卒業後に経理を習い、会計的なことはネット上でよく見ているようです。親の買い物を見てはアドバイスなどもしていました。
本人は数か月ごとに医療機関(精神科ではない)に行く以外はほとんど外出していません。家庭の中では片付け、掃除、ゴミ出し、時には食事の準備などを自分の分担として手伝っています。波風なく生活しているのですが、社会とつながるタイミングをつかむチャンスには恵まれにくい環境条件です。
そんな中で「トレーダーのようなことをしたいのでお金を貸してほしい」と言ってきたのです。どういう表現で言ってきたのかは正確ではないし、トレーダーという言葉があったのかも疑わしい面はあります。おおよその感覚としてわかるものです。
これを聞いた私の最初の心配は、両親の思いと似ていたと思います。それでお金が入って来たとして果たしてそれでいいのか。働いて収入を得ることの大切さや実感、感覚がないままになるのではないか。失敗したときの損失が手に余るようなものになる可能性はないのか。そういう危険に対するものでした。

その後、Cさんの気持ちのところで考えてみようと思いました。30歳を超えて一度も働いたことがない。人の中にいて落ち着いた雰囲気が保てない。いまさら新入社員でもないし、だいいち就職できる感覚がもてない。働き続けるイメージがもてない。
そんななかで比較的関心のある経理的なことを生かして、ほとんど人と触れずにできることはないのか。パソコンでネット上ではいろいろなことがわかるし、親の尋ねることにもそれなりに調べることができる……。その結果が株式投資かトレーダーのような提案を思いついたのではないでしょうか。
そうならば親はこれに積極的に答えるべきでは……というのはまだ早計です。
私は両親に親としての心配をCさんに伝えるのがいいと思いました。おそらくCさんもそれについては何らかのことを考えていると思います。Cさんと親が正面から向き合える機会ができるのではないか。穏やかに話を進めることができるならば、互いの本音を出し合える絶好のチャンスになります。感情的になるとしても本気で話し合う機会になるかもしれません。
Cさんからは真剣に物事を考えている苦しみが出されるかもしれません。親には聞きたくない言葉が出るかもしれません。そういう機会ができることこそいいと思いました。
長期の引きこもりの青年が動き出す根底的な要素を、私は“危機感”であると思います。親が与え、煽る危機感ではなく、本人が実感する危機感です。そのような危機感の表現は聞く相手に受けとめられる条件においてはじめて道が開かれます。親子で正面から向き合う条件が子どもの側から出された希望を元につくられるのならば、これを見逃す手はないのです。

昨年来、何人かの人が動き始めているという印象を私は持っています。たぶんこれは私の周囲のことだけではないでしょう。動き始めた子ども側の表現は多様です。Cさんの希望していることもまたそのようなものの1つであるという確信が私にはわいてきました。子どもの表現は親の思う枠内で出されてくるのではありません。出されてきたものをどう見るのかの親の洞察力も問われているのです。
答えはまだわかりません。答えの前に親子で本音の会話ができる機会が子どもの側から出されてきたことに大きな意味があります。それを生かすかどうかは親の度量にかかっています。子どもの方から出されたものは親にとってはとっぴなもの、にわかに乗っていけないものでもまずは正面から聞いていくだけの価値があります。

Wiki版「仕事ガイド」ページの完成と今後

『中学生・高校生のための仕事ガイド』の内容をWiki「仕事ガイド」ページに移し終えました。

この本(事典)は1988年初版のもので、中学生や高校生を対象として多くの仕事を紹介し、仕事の面から社会を理解し、将来の職業選択の参考になるよう企画したものです。
聞いたことのない職種、聞いてはいるけれどもよく知らないものを初歩的に理解できるようにしました。多くの人が職につく、現業的なもの事務的なもの職人的なものを重視した記憶があります。
大筋のところで作業は終えたのですが、取りこぼしもありますし、分類以外に「Note」としていたものの移し変えが残っています。さらに校正の不十分さも避けられません。
何よりもWikiシステムの「カテゴリ」を生かした工夫を試みたく思います。
またこの本を最初に書いた1980年代末と現在では(特にインターネットの普及により)仕事内容が大きく変わっているものもあります。新しい職業が生まれています。
ここを再スタートとして今からの時代の仕事紹介に育てていく必要があります。
「百里の道も九十里をもって半ばとする」とか。更新作業を続ける意味があります。